2019.11.30
WATCH

パテック フィリップのカラトラバが紡ぐ“とっておきの物語”

ひと口に腕時計といっても十本十色の顔がある。それは歴史や外観、機構など多くの構成要素が複雑に絡み合うことで1本の腕時計が作られるからだ。本連載では腕時計が持っているさまざまな魅力を3つの視点からスポットライトを当てて紹介する。
今月の主役は「金の3針ドレスウォッチ」。時刻を伝える道具としての基本を遵守しつつ、不変の価値を持つ金に身を包む王道の時計だ。ここには登場する時計が繰り広げる群像劇がある。

男には愛用の腕時計がある。最高の相棒として、その腕時計は男と同じ時間を刻んできた。楽しいときも、つらいときも、いかなるときも、だ。そんな男と腕時計が紡ぐ、とっておきの物語をここで。

 

美しき反骨心を秘める金時計の名作を腕に今宵、彷徨う

さすがに40歳の節目に購入したパテック フィリップのカラトラバを見せたときは、今度は上司がひっくり返ったけど。

「すっかり遅くなってしまいましたね。今日は泊まっていったほうがよろしいのではないですか?」。

ええ、まぁと出張先には曖昧に答え、ホテルにチェックインした。会社には結果を報告し、翌日戻ることを伝えた。久方ぶりの地方出張だ、街に出よう。見知らぬ夜の街を不安と開放感を味わいながら、自分の嗅覚だけを頼りに好奇心とともに彷徨う。まるで迷宮を探検する気分だ。いつしか一軒のバーの重い扉を押した。

初めてのバーに入る瞬間のスリルといったらない。いつものシングルモルトではなく、あえて初めての銘柄を頼むのも一興だ。その味わいに人心地つくと、今日一日が甦ってきた。ふと腕元の時計が目に入った。それまで武骨なダイバーズウォッチしか着けてなかった自分とは縁のなかった金のドレスウォッチだ。選んだきっかけは上司のひと言だった。

「時計というのは、自分がなりたい姿を思って着けるんだ。そして背伸びするうちに、いつかそれに相応しい自分になる」。

さすがに40歳の節目に購入したパテック フィリップのカラトラバを見せたときは、今度は上司がひっくり返ったけど。でも気に入ったのは誰もが認める高級時計だからじゃない。むしろシンプルで控えめなデザインに秘めた反骨心を感じたからだ。

初代が誕生した1932年、隆盛を誇ったバウハウスもナチスの台頭からデッサウを追われ、翌年には閉鎖されてしまう。そのデザイン哲学の影響を強く受けたカラトラバも弾圧を無視することは、大きな痛手を負うかもしれない。それでも屈することなく、美しいデザインは現代へと受け継がれたのだ。

あの頃、自分もそんな気骨を持ちたいと願ったのかもしれない。杯を重ねるうち、そう思った。実は出張の目的は、手強い案件だった。時間はかかったが、どうにかうまくいきそうだ。少しは似合うようになってきたかな。そんな自問自答とともに、自分にとってカラトラバは気持ちを奮い立たせ、叱咤激励してくれる存在であることに気付いた。

夜は長い。マスターから近くのおすすめの店を聞き、コースターに書き留める。カラトラバともう少し祝杯を挙げるとしよう。

 

PATEK PHILIPPE
パテック フィリップ/カラトラバ 5196

PATEK PHILIPPE パテック フィリップ/カラトラバ 5196
K18ローズゴールドケース、37mm径、手巻き。240万円/パテック フィリップ ジャパン 03-3255-8109

機能主義を掲げるドレスウォッチの金字塔
ブランドのシンプルなラウンドケースを総称するカラトラバだが、その歴史は1932年に誕生した「Ref.96」に始まる。オリジナルデザインはバウハウスの「機能がフォルムを決定する」という哲学から、時刻を表示する時計の本質を妨げる要素は省かれた。

ケースからラグへと流れるラインは自然なフォルムを描き、基本スタイルを今も変えていない。リュウズに刻まれるスペインの修道騎士団を起源とした、百合の花モチーフの「カラトラバ十字」は、ブランドのエンブレムであり、まさにアイコンとなるコレクションだ。

 

※本文中における素材の略称:K18=18金

川田有二=写真 菊池陽之介、石川英治=スタイリング 柴田 充=文

# パテック フィリップ# Watchの群像劇# ゴールド# 腕時計
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