2019.06.08
WATCH

まだまだ過小評価されているジャガー・ルクルト「レベルソ」の本当の実力

時器放談●マスターピースとされる名作時計の数々。そこから10本を厳選し、そのスゴさを腕時計界の2人の論客、広田雅将と安藤夏樹が言いたい放題、言葉で分解する。6本目はジャガー・ルクルト「レベルソ」。

広田 今回はジャガー・ルクルトから。レベルソの魅力、安藤さん、何だと思われますか?

スゴい時計【6】
ジャガー・ルクルト「レベルソ・クラシック・スモール」

1930年代初頭に、インドに駐在していたイギリス人将校からポロの試合中の衝撃に耐え得る腕時計の開発を依頼され、ケースが反転する独自機構が完成した。PGケース、縦35.78×横21mm、手巻き。135万円/ジャガー・ルクルト 0120-79-1833

安藤 見た目は端正。なのに、その実はスポーツウォッチの“走り”というところでしょうか。もともとポロのための時計として生まれたモデルですよね。試合中の衝撃で壊れるのを防ぐために、ガラス面を反転させて隠しちゃうという発想が面白い。

広田 そう、パカッとひっくり返す。

安藤 だから個人的好みとしては、ひっくり返したときに別のダイヤルが出てくるモデルよりは、裏面が金属になっているほうが、本来あるべきスタイルなような気がしていい。

広田 そこにメッセージなんかも入れられますしね。

安藤 ヴィンテージだと、「○○に愛を捧ぐ」みたいなメッセージが英語で彫ってあるのも見かけますよね。

広田 あるある。

安藤 もちろん現行モデルにも、そういう彫り文字は入れられるんですけど、日本人の場合には名前を入れるくらいが一般的なんじゃないですかね。そこにあえて、メッセージを入れる。いいなぁ。

広田雅将●1974年、大阪府生まれ。腕時計専門誌「クロノス」編集長。腕時計ブランドや専門店で講演会なども行う業界のご意見番である。その知識の豊富さから、付いたあだ名は「ハカセ」。

広田 実は、それで僕、欲しいんですよねレベルソ。現行モデルを買って、よくわからないメッセージを彫りたい。「No Watch, No Life?」みたいな。仕事してると時計ばっかり見ているから、ときどき見たくなくなるんですよ。そういうとき、パカッとひっくり返すと……。

安藤 その状況で「No Watch, No Life?」ってどんだけ時計が好きなんですか(笑)。もう少し現実逃避したメッセージのほうが良いかと……。

広田 確かにそうですね。じゃあプリクラ貼るかな(笑)。けっこういろいろ楽しめると思うんです。

安藤 プリクラ……誰のですか?(笑)。まぁそれはいいとして、そもそも角形の時計ってそれほど選択肢が多くない。普通にしててもレベルソは十分に魅力的だと思いますが、そこにちょっとしたギミックがあるのがいいんです。場面によっては、ブレスレットのようにも使えますしね。

広田 レベルソはヴィンテージもいいんですが、現行品のほうがさらに良くなっている。古いものだと、何度もひっくりかえしているうちに、ひっくり返す機構の部分が緩んでくることがあるんですよね。そうなっちゃうと、拍手するだけでガバガバひっくり返っちゃったり(笑)。

安藤 確かに。現行モデルの操作感は気持ちがいい。カチッと収まるときに精緻な感じがする。高級ライターの蓋を「シャキーン、カチッ」って開け閉めする感じに似ているというか。

広田 まさにそう。デュポンのいいやつの感じ。

安藤 なんか、道具感がありますよね。ライターでいえばデュポン、カメラでいえばライカみたいな、触ったときの質感や音が男心をくすぐるというか。今、時計って道具感が随分少なくなってきちゃっていて、宝飾に近くなっている感じがするんです。その点、レベルソは道具としてちゃんと成立している。だから発表会で新作を触ると、とにかく感触がいいから、ついついひっくり返してしまうわけですが、しっかり出来てるから安心していじくれる。

広田 それは思いますね。僕も発表会ではずっとパカッ、パカッてしてます。変なハンドスピナーを買うくらいなら、僕はレベルソを買ったほうがいいと思うくらい(笑)。そのほうが絶対に楽しいと思う。

安藤夏樹(写真右)●1975年、愛知県生まれ。ラグジュアリーマガジンの編集長を経て、現在はフリーに。「SIHH」や「バーゼルワールド」を毎年取材し、常に自分の買うべき時計を探す。口癖は「散財王に俺はなる!」。

安藤 広田さんに聞きたいんですけど、ジャガー・ルクルトって、昔から割と有名なブランドに機械を納めたりしてたじゃないですか。その辺の話をぜひ。

広田 ルクルトは、昔からすごくいい機械を作って、過去にはヴァシュロン・コンスタンタンやオーデマ・ピゲ、パテック フィリップなんかにも機械を提供していた歴史を持つマニュファクチュールなんですよね。すごくちゃんとしているんです。

安藤 それはかなりパンチのある情報ですね。名ブランドばかりだもん。

広田 あと一部のレベルソに搭載されているムーブメントに、手巻きのcal.822というのがある。これが本当に名機なんです。古典的な構造をした、それはもう素晴らしいムーブメント。ランゲ&ゾーネが復興した際に作られた、初代のランゲ1とか1815とかに搭載されている機械って、ベースはこのcal.822なんです。cal.822ってスクエアな機械ですよね。すると片方が空くじゃないですか。その余ったスペースに、もう1個ゼンマイを足すと、初代ランゲ1ができるわけです。

安藤 なるほど〜。それは知らなかった。

現行モデルに搭載されているcal.822A/2のオリジナル。見た目にも美しい。

広田 ジャガー・ルクルトの機械を多くのトップブランドがかつてこぞって使ったのには、理由があります。それはジャガー・ルクルト独自の設計思想。長持ち設計というか、とにかく壊れにくいんです。

安藤 ジャガー・ルクルトの機械の良さっていうのは、そういう意味ではまだまだ過小評価されているのかもしれませんね。

広田 そう。レベルソは表層的なギミックの面白さにばかり目がいってしまいがちですが、搭載されている機械の面でも、非常に優れているんです。機械が良くって、端正な見た目なのに、どこかちょっと変。これこそがまさにレベルソの魅力なんじゃないでしょうか。


※本文中における素材の略称:PG=ピンクゴールド

【問い合わせ】
ジャガー・ルクルト 0120-79-1833

関 竜太=写真 いなもあきこ=文

# ジャガー・ルクルト# レベルソ# 腕時計
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