2019.06.04
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カルトな存在からポップスターへと飛躍したオメガ「スピードマスター」半世紀

時器放談●マスターピースとされる名作時計の数々。そこから10本を厳選し、そのスゴさを腕時計界の2人の論客、広田雅将と安藤夏樹が言いたい放題、言葉で分解する。2本目はオメガ「スピードマスター プロフェッショナル」。

安藤夏樹(写真右)●1975年、愛知県生まれ。
安藤夏樹(写真右)●1975年、愛知県生まれ。ラグジュアリーマガジンの編集長を経て、現在はフリーに。「SIHH」や「バーゼルワールド」を毎年取材し、 常に自分の買うべき時計を探す。口癖は「散財王に俺はなる!」。

安藤 オメガのマスターピースといえば1957年に生まれたシーマスターやレイルマスターなどいろいろありますけど、ひとつ挙げるなら、やっぱりこれらと同年に生まれた「スピードマスター」ですかね?

広田 はい、なかでも「スピードマスター プロフェッショナル」の存在が、現在のスピードマスター全体の評価を決定づけたと思います。

スゴい時計【2】
オメガ「スピードマスター プロフェッショナル」

「スピードマスター プロフェッショナル」の存在が、現在の評価を決定づけたと思います。
6回の月面着陸プロジェクトに持っていかれた伝説の名機。通称、ムーンウォッチと呼ばれる。SSケース、42mm径、自動巻き。55万円/オメガ 03-5952-4400

安藤 スピードマスター プロフェッショナルといえば、1969年にアポロ11号と一緒に月に降り立ってから、今年で50周年を迎えました。ただ実際のところ、ほかにも月に行った時計ってありますよね。ブローバにもロンジンにも、「ムーンウォッチ」と呼ばれるモデルがある。でも、多くの人がムーンウォッチと聞いて真っ先に思い浮かべるのは、スピードマスターです。それはやっぱり、人類初の月面着陸をともに体験したNASAの公式装備品だから。でも、なんでスピードマスターだったんでしょう?

広田 月面着陸の際に求められる温度や気圧の急激な変化に耐えられるかのテストに、当時のクロノグラフの中で唯一スピードマスターだけが合格したからと言われています。スピードマスターって、そもそもはその名の通りモータースポーツ用の時計として誕生しましたよね。

安藤 ええ、文字盤ではなく外周ベゼルにタキメーターを入れた世界初の時計とも言われています。

広田 つまり、オメガは当時、モータースポーツに適した耐衝撃性と防水性を高めたクロノグラフを作ろうと考えていたんです。でも、その頃の一般的なクロノグラフのムーブメントは、直径30mmだった。

広田雅将さん
広田雅将●1974年、大阪府生まれ。腕時計専門誌「クロノス」編集長。腕時計ブランドや専門店で講演会なども行う業界のご意見番である。その知識の豊富さから、付いたあだ名は「ハカセ」。

今と違って小さな時計が好まれた時代に、この機械を耐衝撃性能の高い防水ケースに入れるとさらに大きくなる。それじゃ困る、ということでオメガはムーブメント会社に、もっと小さいのを作って欲しいと注文を出したんです。それで完成したのが、27mmのムーブメントでした。結果、それを保護する外枠、さらに防水ケースを入れても42mmの時計サイズに収められたわけです。

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スピードマスターだけが持つ「何にも代え難い魅力」とは

安藤 なるほど。その外枠と丈夫なケースのおかげで、アポロ計画のためのタフな試験をクリアできたと。一説によると、テストは市販で売られている複数のブランドの時計をNASAが購入して行われたと言われています。スピードマスターの場合には、アポロ計画より前に1962年のマーキュリー計画で宇宙飛行士の1人が個人的に宇宙に持っていったという“実績”も、心強かったのもかもしれません。

広田 そうですね。セカンドモデルがマーキュリー計画で宇宙へ、さらにフォースモデルが世界で初めて公式に月面着陸したわけです。

安藤 その結果、ムーンウォッチという肩書きがついて、さらに偉くなっていったわけですね。以後、スピードマスター プロフェッショナルは機械のブラッシュアップやディテールの変更はあるものの、パッと見たときの印象は50年間ブレないまま。ムーブメントも手巻きを貫いているし。それが、マスターピースたる所以というか。

広田 そうなんです。極端な話、月に初めて降り立った宇宙飛行士と同じ時計を買えるし、使えるわけですから。その魅力は何にも代え難いですよね。

安藤 さらに宇宙に行ったあと、ハイテク機器というイメージが生まれSFの世界からも注目されます。1971年放送の『帰ってきたウルトラマン』で、地球防衛チームの支給時計として採用されますよね。それは針がオレンジ色の特別モデルで、マニアの間では「ウルトラマン」って呼ばれてる。

『帰ってきたウルトラマン』で使用されていた幻のスピードマスターをベースに2018年復刻。まさに“帰ってきた”ウルトラマンな一本は即完売した。

広田 去年復刻されましたよね。でも、そういった華々しいエピソードがある割には、実は長い間、使う人はそれほど多くなかったんですよ。なぜなら、ケースを42mmに抑えたとはいえ、やっぱりデカかったから。今では考えにくいですが、当時、その特殊性からスピードマスターは「カルトウォッチ」と考えられていたんです。

安藤 宇宙には行ったけど、一般の人にはそんなに普及しなかった、と。言われてみれば確かに、『帰ってきたウルトラマン』に登場したなんて話も、ここ1、2年で出てきたことですよね。カルトなところからポピュラーな存在に変わるきっかけは、きっと腕時計トレンドが全体的に大きくなってきたという時代背景とも関係あるんでしょうね。

広田 そう、42mmというサイズも「意外にいいじゃん」と多くの人が思う時代になった。それは大きいと思います。

安藤 大きなサイズが人気を博し始めると、もともと高性能な腕時計として存在していたスピードマスターはすぐに時計好きに許容されたわけですね。そして、歴史を紐解いてみればアポロ11号と一緒に月面着陸するなど、いろんな逸話がある。そうやって、マスターピースとしての地位を築きあげた、ということなのでしょう。


※本文中における素材の略称:SS=ステンレススチール

関 竜太=写真 いなもあきこ=文

# オメガ# スピードマスター プロフェッショナル# 腕時計
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