時器放談●マスターピースとされる名作時計の数々。そこから10本を厳選し、そのスゴさを腕時計界の2人の論客、広田雅将と安藤夏樹が言いたい放題、言葉で分解する。2本目はオメガ「スピードマスター プロフェッショナル」。
安藤 オメガのマスターピースといえば1957年に生まれたシーマスターやレイルマスターなどいろいろありますけど、ひとつ挙げるなら、やっぱりこれらと同年に生まれた「スピードマスター」ですかね?
広田 はい、なかでも「スピードマスター プロフェッショナル」の存在が、現在のスピードマスター全体の評価を決定づけたと思います。
スゴい時計【2】 オメガ「スピードマスター プロフェッショナル」 安藤 スピードマスター プロフェッショナルといえば、1969年にアポロ11号と一緒に月に降り立ってから、今年で50周年を迎えました。ただ実際のところ、ほかにも月に行った時計ってありますよね。ブローバにもロンジンにも、「ムーンウォッチ」と呼ばれるモデルがある。でも、多くの人がムーンウォッチと聞いて真っ先に思い浮かべるのは、スピードマスターです。それはやっぱり、人類初の月面着陸をともに体験したNASAの公式装備品だから。でも、なんでスピードマスターだったんでしょう?
広田 月面着陸の際に求められる温度や気圧の急激な変化に耐えられるかのテストに、当時のクロノグラフの中で唯一スピードマスターだけが合格したからと言われています。スピードマスターって、そもそもはその名の通りモータースポーツ用の時計として誕生しましたよね。
安藤 ええ、文字盤ではなく外周ベゼルにタキメーターを入れた世界初の時計とも言われています。
広田 つまり、オメガは当時、モータースポーツに適した耐衝撃性と防水性を高めたクロノグラフを作ろうと考えていたんです。でも、その頃の一般的なクロノグラフのムーブメントは、直径30mmだった。
今と違って小さな時計が好まれた時代に、この機械を耐衝撃性能の高い防水ケースに入れるとさらに大きくなる。それじゃ困る、ということでオメガはムーブメント会社に、もっと小さいのを作って欲しいと注文を出したんです。それで完成したのが、27mmのムーブメントでした。結果、それを保護する外枠、さらに防水ケースを入れても42mmの時計サイズに収められたわけです。
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