時器放談 Vol.1
2019.06.03
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ロレックスは何がスゴいのか。名機「サブマリーナー」の歴史で検証する

時器放談●マスターピースとされる名作時計の数々。そこから10本を厳選し、そのスゴさを腕時計界の2人の論客、広田雅将と安藤夏樹が言いたい放題、言葉で分解する。1本目はロレックス「サブマリーナー」。

安藤 1本目は、ロレックスの「サブマリーナー」です。そもそも「ロレックスって何がいいんですか」って聞かれること、ありませんか?

1975年に愛知県生まれた安藤夏樹さんはラグジュアリーマガジン「MOMENTUM」の元編集長
安藤夏樹(写真右)●1975年、愛知県生まれ。ラグジュアリーマガジンの編集長を経て、現在はフリーに。「SIHH」や「バーゼルワールド」を毎年取材し、常に自分の買うべき時計を探す。口癖は「散財王に俺はなる!」。

広田 よくありますね。

安藤 そんなとき、なんて答えます?

広田 サブマリーナーも当然そうだけれど、ロレックスの時計って、結局、1本で済んじゃうところがあるじゃないですか。1本あればシーンを問わず着けられる。そこがまずスゴいんだと。

安藤 確かにサブマリーナーはその名の通りダイバーズウォッチだけれど、映画『007』シリーズで元祖ジェームズ・ボンド役のショーン・コネリーはタキシードに合わせていましたよね。しかも、20mmのベルト幅のところに、16mmか17mmくらいの細いNATO海軍仕様のナイロンベルトを付けて。

007でショーンコネリーが演じたジェームズ・ボンドがしていたロレックスのサブマリーナー
白いタキシードにサブマリーナーを合わせた名コーディネイト。ストラップの幅が足りていないのを真似る人も多い。

広田 そうそう、傷つきまくりの。当時はタキシードにスポーツウォッチという組み合わせは絶対にNGだったはずですよ。何せイギリスの老舗テーラーが、1962年公開の『007 ドクター・ノオ』を見たときに「ありえない!」って文句を言ったという逸話が残っているくらいだから。

安藤 基本的にドレスアップしたときには、ケースは薄く、金やプラチナなどの貴金属製で、クロコの革ベルトの時計じゃなきゃ、という不文律があったわけですよね。

広田雅将●1974年、大阪府生まれ。腕時計専門誌「クロノス」編集長。腕時計ブランドや専門店で講演会なども行う業界のご意見番である。その知識の豊富さから、付いたあだ名は「ハカセ」。

広田 そこをひっくり返したのが、サブマリーナーだった。そもそもロレックスは壊れにくくて防水性もあることが特徴。だからタフな時計が好きなアメリカ人がこぞって使うようになりました。たぶん『007』での使用も、そういう流れの一部でしょうね。

安藤 丈夫だから用途を問わずに使えるというのは、当時、とてもインパクトがあったと思います。そして、その源泉にあるのが、1926年発表のオイスターケース。

広田 1920年代に防水性の高い時計ってまだロレックスくらいしかなかったから、値段が高いにもかかわらず、イギリス軍をはじめ多くの軍がサブマリーナーを使い始めましたね。

安藤 その発明品であるオイスターケースをいまだに作っている。今やいろんなブランドがほかの方法で防水性を実現できるようになったけれど、いち早くそれを実現し、ずっとそれを守り続けてきたことが、ロレックスを神格化させた要因のひとつなんじゃないか、と僕は思います。

広田雅将さんは腕時計専門誌「クロノス」編集長。

広田 実はオイスターケースと並ぶロレックスのもうひとつの発明、1931年発表の360度回転ローターによる自動巻き機構「パーペチュアル」ムーブメントも、この防水性の向上の結果なんです。それまでの腕時計は手巻きだったから、ねじ込みのリューズを引っ張り出してゼンマイを巻かなくちゃならなかった。でも、それだと防水性を保てない可能性がありますよね。じゃあ、自動巻きを開発しなくちゃ、と。

安藤 つまり、今の時計では基本スペックとなっている、防水性と自動巻きによる使い勝手のよさ、正確さを確立したのはロレックスだったわけですね。

広田 開発の考え方自体が「腕時計の実用性を高めていく」という、シンプルではっきりしたものなんですよ。今は高級時計の扱いだけれど、ロレックスって、1970年以前は「実用時計」の最高のもの、という位置付けだったんです。実際、中国では「労力士」と書く。つまり、「労働者の時計」というわけです。

安藤 その後、’70年代に入るとクオーツが市場を席巻し、流れが少し変わるわけですね。

広田 ええ、特にアメリカ市場に向けて「ロレックスの機械式時計はステータスシンボルである」という打ち出しを始めたんです。で、それがウケた。そもそも文句のつけようのない時計というベースがあったから、そうした巧みなマーケティングもうまく受け入れられたんだと思います。

安藤 確かに、バランスがいいというのが最大の魅力かもしれませんね。機械的な信頼性の高さと、伝説的なストーリーが共存していて。

広田 あとね、壊れにくいし、壊れても直るから、中古価格が下がらないんですよ。それは大きいですよ、真面目な話。

ヴィンテージのロレックスのGMTマスターを見る広田雅将さん
広田さんが手にしているのは、ヴィンテージのGMTマスター。「これも名機ですよね」。

安藤 サブマリーナーに関していうと、1953年の誕生以来、基本フォーマットは今もまったく変わらない。一方で、細かいディテールの差異は次々と生まれて、それらは数年でディスコンになっていくわけです。そのディテールが何年のものかはっきりとわかっているから年代確定をしやすいし、メモリアル性もあります。それが将来的なプレミアムにもつながっていくんですよね。

広田 さらに、製造本数の多さも大事。数が少なすぎると、逆にブランドにならないんです。ロレックスの本数って公式には発表されていませんが、クロノメーターの検定数からみて100万本近く作っているはず。これが、絶妙なんです。ある程度の数があるからこそ、多くの人が欲しがるようにもなる。“神話の一人歩き状態”になっていますよね。そうなるとブランドとしても特定のモデルとしても、もはや揺るぎないところに行き着く。それが今のロレックス、そしてサブマリーナーのスゴさなんだと思います。

 

関 竜太=写真 いなもあきこ=文

# ロレックス# サブマリーナー# 腕時計
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