【前編】男と時計のツナガル物語 ~OC世代が共感するトケイイ話〜
腕元で動き続ける小さな腕時計は、ただ正確に時を刻むための道具ではない。独立や結婚の記念、形見、憧れとして、それは自らの生き方を投影する存在でもある。
同世代の男たちと愛用の時計が紡ぐ、12の“ツナガル”物語をここで。今回は前編。
見る人を驚かせる斬新な発想
「ウブロ」のビッグ・バン オールブラックⅡ

ヘアサロン SAVA 代表取締役
高橋大樹さん Age 44 が語る ツナガリ
力強いフォルムの外装、H型ビスをアクセントにしたベゼル、スポーティなクロノグラフ。どれも男心に響く。なかでも斬新だったのはインデックスから針にいたるまで、すべてブラックアウトさせた大胆なデザイン。「人が持っていない時計を探していました。独創性が魅力のウブロのなかでも、このビッグ・バン オールブラックⅡのそれは別格だと一目惚れしたんです」。
所有していたのは尊敬する先輩美容師。すでに製造が終了していたため、無理を言って譲ってもらった。「何といっても、オールブラックというデザインコンセプトがユニーク。セラミックス特有の光沢感にも好印象。時計に詳しくない自分としては、難しい歴史やウンチクよりも、重視したいのは見た目。第一印象です」。
見る人を驚かせるような発想と表現に心が動いた。周囲にも大好評とのこと。高橋さんは仕事中、腕元に視線を集めやすい美容師。独創的なその時計が、今日も会話のきっかけになっていることだろう。
高橋大樹さん
PROFILE●1974年静岡県生まれ。都内で修業を積み、2000年には単身ニューヨークへ渡る。帰国後の’06年に自身のサロン「サヴァ」をオープン。現在は2店舗のオーナーに。所有する時計は5本。
人の縁が導いたマイ・スタンダード
「IWC」のマークⅫ

シップス 総務部 課長
手塚謙一さん Age 44 が語る ツナガリ
購入のキッカケは映画『バニラ・スカイ』のトム・クルーズ。劇中で彼が着用するIWCの時計に憧れた。「それからIWCというブランドについて調べて、時計店を何軒も巡るようになりました。そこで素晴らしいスタッフさんに出会い、手に入れたのがこの1本です」。
パイロットウォッチのマークシリーズ、そのケースサイズ、ベルトや尾錠の種類など、調べていくうちに、ブランドのこだわりにのめり込んだ。それを子細に説明してくれるスタッフの熱量、知識量、丁寧さに心を打たれた。
「以前に店長になったタイミングで購入したのですが、やはり同じ接客業に携わる身として、時計店のスタッフには影響されるものがありましたね。モノを買うタイミングって、どんなときでも出会いだと思うんですよ」。
今はカラフルなベルトで楽んでいる。英国空軍のナイロンベルトの民間用。だからNATO軍のそれより2mmほど細く自分の腕元にしっくりくる。そんな手塚さんのこだわりも、人との出会いが生んだものだ。
手塚謙一さん
PROFILE●1974年神奈川県生まれ。若い頃からファッションに慣れ親しみ、クロムハーツやガボールなどのシルバーアクセにも熱中したとか。シップスに入社後は店長職を経て、総務部の課長に就任。
古い時計が招いた新しい“家族”
「ブレゲ」のタイプXX

FPM. DJ / プロデューサー
田中知之さん Age 52 が語る ツナガリ
根っからのヴィンテージラバーである田中さん。なかでも溺愛するのはブレゲのタイプXXである。「およそ10年前に大変希少なオリジナルモデルを先輩から譲り受けたのですが、それがきっかけでブレゲのイベントにDJとして参加させていただきました。その際、ブレゲ家の第7代目当主、エマニュエル・ブレゲさんに時計を褒めてもらったことを覚えています」。
時計による縁はそれだけでなかった。その後の人生に大きく関わる、“相棒”との出会いの始まりとなった。「その会場に鞄に入れて犬を連れていた人がいたんです。実は僕、それまで猫派だったんですが、その犬の堂々とした様子に無性に心惹かれてしまって」。
見たのはチャンピオン犬の血統を継ぐミニチュア・シュナウザーだった。数カ月後にその犬の弟が誕生した。「それがこの我が家の愛犬、ロペオなんです」。田中さんの価値観を変えた約70年前の時計。それは小さくて可愛らしい“縁”を結んでくれたのだ。
田中知之さん
PROFILE●1966年京都府生まれ。DJ、プロデューサー。ファッション誌でエディターの経験もあり、活動の幅は音楽のみにとどまらない。時計はヴィンテージを中心に約20〜30本ほど所有。
“仕立て”の良さに惚れ込んで
「ジャガー・ルクルト」のレベルソ

エストネーション シニアセールススペシャリスト
深澤由智さん Age 41 が語る ツナガリ
深澤さんとジャガー・ルクルト「レベルソ」の馴れ初めは、かれこれ10年以上前にまで遡る。「当時の僕は、20代後半。それでもテーラーに勤めていたせいか、いい時計を着けているお客さまが大勢いらっしゃって。紳士としてのエレガンスを知る、大人の男性です。そんな影響から自然と上品な機械式時計に憧れていきました」。
購入候補に挙がったのは、レベルソとマスタ ・ジオグラフィーク。いずれもスイスの老舗ジャガー・ルクルトらしいクラシカルな名品である。「迷いに迷って、レベルソを選びました。決め手は、他に類を見ないストーリー性。ケースを反転させるという独創的な機構が、ポロ競技中の衝撃から時計を守るためだなんて。斬新な発想にも驚かされますし、それが今なお新しく映る。ポロ競技という出自も実に優雅で知的に感じました」。
上品なルックスに潜むスポーティな背景、ユニークな機構。そんな“仕立て”のいい時計こそが、深澤さんの心を動かす1本となったのだ。
深澤由智さん
PROFILE●1977年東京都生まれ。エストネーション 六本木ヒルズ店の名物スタッフ。休日は趣味の料理とキックボクシングに没頭。本格機械式時計だけでなく、気軽なカジュアル時計にも明るい。
好きだから通じ合う、男の勲章
左●「ロレックス」のシードゥエラー ディープシー
右●「ロレックス」のコスモグラフ デイトナ

ファーストオーダー クリエイティブディレクター
岡田考功さん Age 39 が語る ツナガリ
「この2本のロレックスには、いずれも尊敬できる大先輩との思い出がたくさん詰まっています」。25歳、シードゥエラー ディープシーは当時可愛がってくれた社長から譲り受けた。「大きな男には大きな時計が似合う」と、背中を押された。
岡田さんは今、多方面でクリエイティブディレクターとして活躍する。そして、仕事上のさらなる出会いが憧れのデイトナとの距離を縮めた。「ある経営者の方と食事中、時計の話になって。後日ご自宅に招かれたんです。そしてデイトナの、圧巻のコレクションを拝見。そこで、以前から購入を悩んでいたことを打ち明けたんです」。
次にその経営者と会ったとき、岡田さんの腕にはデイトナがあった。「誰もが憧れる時計の価値は下がらない。そして結局、キミは買う。だったら、今買うべきだよ」という言葉に心が動いたのだ。「彼は自分のことのように喜んでくれました」。時計は単なる嗜好品ではない。男が男に、男として認められる舞台装置にもなりうるのだ。
岡田考功さん
PROFILE●1978年埼玉県生まれ。スポーツや芸能、ファッション関係に精通し、メディアや広告などでクリエイティブな才能を発揮。本誌の女性連載「君のいる部屋」のプロデュースも担当する。
不変の美しさが馴染んでいく
「カルティエ」のアンティークウォッチ

スタイリスト
梶 雄太さん Age 44 が語る ツナガリ
服を媒介として、着る人の個性を表面化させる。そんな職業柄か、スタイリストの梶さんにとって自身の時計選びは簡単なものではなかった。「時計は雄弁に持ち主を語るもの。だからこそ、自分にとって名刺代わりとなる時計は何かと悩み、長らく答えが出せないままでいたんです」。今、彼の腕元にはカルティエが光っている。
「昨年の11月に結婚したんですが、妻との共通の知り合いから結婚祝いにと、このマスト ドゥ カルティエをいただいたんです。実はそのタイムレスなデザインが以前から気になっていた時計で」。目まぐるしく移ろうファッションの世界に身を置くからこそ、不変のモノへの愛着が高まる。そんな梶さんの目に留まったのが、長い歴史の中で育まれたレクタンギュラーウォッチの美しさだ。
「使い込むうちに味わい深くなってきたアリゲーターストラップの風合いも気に入っています」。まるでしなやかに円熟していく夫婦の絆のように、この時計はゆっくり時を刻むのだろう。
梶 雄太さん
PROFILE●1974年東京都生まれ。メゾンからストリートブランドまで守備範囲の広いスタイリングで、多くのメディアで活躍。フォトグラファーやクリエイティブディレクタートしてもマルチな才能を発揮。
鈴木泰之、恩田拓治、小林孝至、蜂谷哲実、高橋絵里奈=写真 柴田 充、髙村将司、中村英俊、戸叶庸之=文、菊地 亮=取材