豊富な知識と経験を頼りに、深遠なる機械式時計の魅力を探求する男たち。そんな彼らが考える、素晴らしい時計とはいったいどんなもの?
「筆舌に尽くしがたい」時計のことを、無理言って“尽くして”もらいました。まずは前編をお届け。
GRAND SEIKO
グランドセイコー/SBGH267
異なる3つの面を磨き上げた高度すぎる職人技にびっくり!
腕白編集者安藤夏樹 さん Age 431975年、愛知県生まれ。ラグジュアリーマガジン「MOMENTUM」の編集長を経て、現在は腕白に。時計を中心としたラグジュアリー分野から、北海道の木彫り熊まで、その守備範囲は広い。東京903会会員。
キャリバー9Sの20周年記念モデルを発表したグランドセイコー。限定20本のプラチナモデルでは超高精度に調整された伝説の「V.F.A.」を復活。新キャリバーをあえて作らず、従来ものをチューンして平均日差+3秒〜−1秒を実現し9Sの実力を証明した。
でも記念モデルの見所は機械だけじゃない。実はザラツ研磨によって生み出されるケースがスゴイ。鏡面とヘアラインで仕上げられた3つの面が、ラグの頂点で1つになる造形はかなり高度な職人技が必要。
このいかにも歩留まり悪そうなケースを、貴金属製モデルだけでなく、100万円アンダーのSSモデルでも採用したのは、ほんとびっくりなのである。
OMEGA
オメガ/シーマスター 300 マスター クロノメーター
男の腕っぷしを鍛える、究極の自己満足時計
時計ジャーナリスト柴田 充 さん Age 561962年、東京都生まれ。時計だけでなく、クルマやファッションにも精通する。深い知識と見識を持ってジャンルを横断してモノの本質を的確に捉え、その周辺にあるライフスタイルまで見据えた文章に定評がある。
オメガ史上初のコレクションとなったシーマスターは、今年で誕生70周年を迎えた。その数多いラインナップでもシーマスター 300は、タイムレスなスタイルと機能美漂うデザインで高い人気を誇る。
そこでおすすめするのがフルプラチナ仕様だ。見た目はSSとなんら変わらず、ラピスラズリ(半貴石)を採用した美しい文字盤が唯一エクスクルーシブであることをアピールする。
だが手に取れば、想像を超えた重さに驚かされ、薄さや軽さを競う時代とは逆行する気骨が伝わってくる。そんな男心をそそる重厚感に、60年以上のロングセラーに相応しい存在感と不変の価値を併せ持つのだ。
BVLGARI
ブルガリ/オクト フィニッシモ ミニッツリピーター
美しい音色を反響させる驚きのミニッツリピーター
時計ジャーナリスト篠田哲生 さん Age 431975年、千葉県生まれ。時計専門誌からビジネス誌、ファッション誌、WEBなど幅広い媒体にて、硬軟織り交ぜた時計記事を担当する。時計学校を修了した実践派。
いわゆる“超複雑機構”の中で、最も格上とされるのが、ハンマーでゴングを叩き、音を奏でて現在時刻を知らせるミニッツリピーター。格上の理由は“音”にあって、どれだけ製造技術が上がっても、楽器と同じように最後は時計師の耳を頼りに調律しているからだ。
それゆえ各ブランドは、音自慢のミニッツリピーターの開発を進めるが、このモデルには驚かされた。
“軽くてタフ”という特性を持ち、良い音とは関連がなさそうなカーボンケースを使っているのに、驚くほど美しい音色を奏でるのだ。インデックスを切り込み状にして時計前面に音を反響させる特殊構造も効果的で、音量もかなり大きい。
音自慢のリピーターはいくつか聞いてきたが、本作はそれらを超越していて、いつかまた聞きたい1本だ。
CARTIER
カルティエ/サントス ドゥ カルティエ スケルトン LM
歴史あるモデルのDNAを継承しつつ、モダンに進化
「腕時計王」編集長前田清輝 さん Age 461972年、大阪府生まれ。モノ雑誌、メンズファッション誌などに携わったあと、ライフスタイル誌「一個人」編集長代理、会員誌「Gracious」編集長を経て、2014年9月より現職に就く。
1904年、ブラジル人飛行家アルベルト・サントス=デュモンが飛行中に時刻を確認するために、カルティエがかなえた世界初の紳士用の実用的腕時計「サントス」。
メゾンを象徴するこの名作が、SIHHにてフルコレクションとして刷新されました。なかでもスケルトン仕様のSSモデルが注目です。
地板とブリッジを兼ねるローマ数字と、そこから覗くムーブメントとのバランスが何とも見事。また、特徴的なビスが飾られたベゼルは形状を新たにし、ブレスレットやストラップと一体感あるデザインに。
一方で、ブレス(ストラップ)の交換やコマ調整が手軽にできる独自の新機構を採用するなど、実用性の高さも魅力です。
※本文中における素材の略称は以下のとおり。
SS=ステンレススチール