37.5歳からの愉悦 Vol.132
2020.02.13
FOOD&DRINK

東松原の洒落たカフェバーで、看板娘が“裏ボス”の一面を覗かせた

看板娘という名の愉悦 Vol.103
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。

渋谷と吉祥寺を結ぶ京王井の頭線。沿線には下北沢や明大前など、若者で賑わう駅も多い。しかし、その中でもいわゆる“閑静な住宅街”が東松原だ。

外観
今回訪れたのは駅を出てすぐのカフェバー、kurukuru。

とにかく寒い夜だった。気温は1℃。やがて氷点下になるという。

内観
暖かい店内はほぼ満席。看板娘の姿も……。

さて、何をいただこうか。

メニュー
ドリンクメニューを眺める。

ひと通りのお酒は揃っているが、「Cono Sur」というチリワイン(650円)がよく出るらしい。それでお願いします。

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看板娘、登場

看板娘
「お待たせしました〜」。

こちらは、神奈川県は大船出身の沙織さん(33歳)。「横浜からも鎌倉からもハブられる街です」と謙遜するが、大船といえば新幹線の車窓からも見える巨大な観音像があるじゃないですか。

「幼稚園の遠足で内部に入りましたが、御札だらけでトラウマになるぐらい怖かったんです。それ以来、近寄っていません」。

白ワイン
柑橘系の香りにリンゴとパインの果実味が混じった芳醇な味わい。

「東松原は、このコンパクトさが好き。気張らないで暮らせるし、何よりも地下鉄が嫌いなので井の頭線万歳です(笑)」。

この店は2007年にオープン。イケメン店長の加藤雅彦さん(41歳)は俳優を目指していた。

店長と看板娘
kurukuruエプロンが店の制服。

加藤さんは言う。

「所属していたのは小さい事務所で、唯一配役をもらえたのはVシネマでした。料理人の役で料亭の女将さんといろいろやっちゃう……要するにエロ作品です(笑)」。

一方の沙織さんは小中高と美術部。小学校には焼き窯があり、お父さんのために灰皿を作った。

灰皿
父は禁煙したが灰皿は大切に残している。

「母が亡くなったので父はひとり暮らし。生存確認も兼ねて定期的に帰省したり一緒に出かけたりしています」。

さいたま市の鉄道博物館に行ったときの記念写真(中央は叔母)。

ちなみに、沙織さんの身長は152cm。これは小学生時代からほぼ変わっていないそうだ。

遊園地での様子
小学生時代から着続けているデニムのジャケット。

地元の高校を卒業して服飾大学に入学。その後はアパレル会社に就職、デザイナーとして働いていた。

「でも、外部との接触はほとんどなくて1日中マンションのアトリエに缶詰状態なんですよ。顔を合わせるのは宅配便のお兄さんのみという日々。これに疲れて飲食業界に身を転じました。今はここと渋谷のイタリアンレストランで働いています」。

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人生いろいろだなあと思いつつ、ふと横をみると……。あれ、ホッピーだ。こんな洒落たカフェバーで出会えるとは。

ホッピー
赤い王冠が白、白い王冠が黒というのがややこしい。

「うちはホッピー好きのお客さんが多くて、カウンター全員がホッピーを飲んでいることもよくあります」。

すかさずホッピーセット(640円)を注文した。

お酒とおばんざい
おばんざい3点盛り(750円)を添えて。

ギョーザ入りあつあつ酸辣湯、キューリと人参の出汁マリネ、肉厚しいたけのバター醤油焼き。手の込んだ品々は、すべて沙織さん作だ。

ストーブ
末端冷え性の看板娘。

カウンターでは常連の紳士たちがアメリカの大統領予備選について話している。

「ほら、何だっけ。あの民主党の若い候補。名前が難しくて覚えられないんだよ」。「ブディジェッジね」。ここで、沙織さんが「ジョコビッチみたいですね」と茶々を入れる。

お客さんと看板娘
手前の紳士は大森から通っているという。

カウンターの反対側に若い男性が静かに飲んでいた。聞けば、沙織さんが兼務しているイタリアンレストランの後輩だという。

お客さん
若いのに渋い飲み方をしていた。

「沙織さんですか? いい意味でスタッフやお客さんを転がすのが上手い。基本やさしいけど、現場では影の王様というか裏ボス的な存在ですね」。

看板娘
後輩のコメントを聞き流しつつ、ローソンのツイストドーナツを頬張る裏ボス。
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沙織さんにはアクセサリー作家というもうひとつの顔があった。

インスタグラム
新作はインスタでチェックできる。
販売ブース
渋谷TSUTAYAの6階にもブースがあるというからすごい。

この日は沙織さんのアクセサリーの大ファンだという女性も来ていた。

「元々ピアスが大好きで、彼女のアクセサリーを見てファンになりました。自分でも着けますが、友達の誕生日とかにもプレゼントします」。

ファン
「標本シリーズ」と名付けたクリアピアスは髪の色に馴染むシックな色味。

ここで、アメリカ・オレンゴン州から来日した女性が、沙織さんに「何年かぶりに少女漫画にハマったんですよ」と話しかける。

お客さん
『別冊フレンド』で連載している『PとJK』。

わかった。この店はお酒も料理も美味しいが、何よりも“裏ボス”の沙織さんの周りに集まってくる人々が面白い。大森から通いたくなるというものだ。

お会計をして外に出ると気温は0℃だった。しかし、駅はすぐ目の前だ。最後に読者へのメッセージをお送りします。

メッセージ
油断している筆者の後ろ姿をデッサンするという離れ業。

【取材協力】
cafe bar kurukuru
住所:東京都世田谷区松原5-1-8
電話:03-3327-7449
https://cafebarkurukuru.owst.jp

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石原たきび=取材・文

# kurukuru# カフェバー# 東松原# 看板娘
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