20代から好かれる上司・嫌われる上司 Vol.33
2021.01.08
LIFE STYLE

理想は高ければ高いほうがよい、と息巻く上司は20代から煙たがられる

「20代から好かれる上司・嫌われる上司」とは……

すごい成果に理想は必要か

「夢を見たところで99%実現などしない。しかし夢を見なければ100%実現しない」などと言います。理屈的にも正しいですし納得できる言葉です。確かに、さまざまな経営者やプロスポーツ選手などの成功者たちも、よくこのような言葉を投げかけます。

だからといって、即「みんな夢を見て高い理想を掲げるべきなのだ」という結論につなげるのは、私は少し躊躇します。というのも、人は理想を掲げて計画的に実行したから理想を成し遂げているわけではなく、何の気なしにやっていた結果、ものすごい成果を出してしまうことだってあるからです。

 

偶然のチャンスを逃さないことも重要

人事担当者であれば誰でも知っている有名な理論に、「計画された偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」というものがあります。

スタンフォード大学のクランボルツ教授が提唱したキャリア理論で「個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される」とし、その予想外の偶然の出来事にベストを尽くして対応する経験の積み重ねで、よりよいキャリアが形成されるという「キャリアデザイン」とは真逆の考え方です。

同じような対語として、経営学者の金井壽宏先生が提唱する「キャリアドリフト」という言葉もあります。これも予期せぬ出来事をチャンスにするためには、あえて状況に流されてみることも必要だ、との考え方です。

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理想が邪魔をすることもある

そこからわかるのは、理想を高く掲げることは、目の前に現れた予期せぬチャンスを阻害することもある、ということ。強い理想を持つことで、それとは異なる道が現れても、そちらに向かおうとは思いにくく、理想は視野狭窄をもたらすこともあるのです。

明治維新で最終的な勝利を納めた人たちは、最初に掲げた高い理想を現実に合わせてどんどん変化をさせていきました。最初は「尊皇攘夷」などと外国勢力を追い出せと言っていたのが、外国の強さを知るや開国に考え方を変えました。

ほかにも、幕藩体制よりも中央集権国家の樹立が重要としたり、武士階級の支配を徹底するよりも四民平等で有能な人の抜擢を重視したり、さまざまに考え方を変えています。むしろ、大切にしていた高い理想にこだわった人々は、敗者となっていきました。

 

自分は「理想家」か「現実家」か

このように見ていくと、成功する人には、高い理想を掲げて計画的に一歩一歩努力を積み重ねていくという「理想家」タイプと、明確な理想を掲げるのではなくその時々の現実に身を任せて進んでいく「現実家」タイプがあるようです。

どちらの方針が良いのかはどう決まるのでしょうか。ひとつは個人の資質があるでしょう。そもそも先を見通して理想を置くことが苦手な人は「理想家」タイプにはなれません。

性格によって向き不向きがあるということです。しかし一方で、自分の性格の適応度だけで選んでも、それが自分の今いる環境に適合するかどうかはわかりません。

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環境の変化の激しさによってどちらがよいかは変わる

それは、自分を取り囲む環境の変化がどの程度激しいかは、その人によって異なるからです。例えば、スポーツや音楽や伝統芸能のように、下手すると何百年間も大枠の「ルール」が変わらないようなものについては、できるだけ早い時期に理想を定めて、そのゴールに向かって計画的に努力をしていく方が良いでしょう。

むしろ、そうしなければ一流になることはありません。性格いかんに関わらず、「理想家」でなければならないのです。

ビジネスで言えば、不動産や保険や薬の営業など、昔から勝ちパターンがあまり変わらない成熟した業界にいる人はこちらに近いでしょう。

 

変化の激しい現代では、理想を盲信してはいけない

逆に、IT業界などの新しい領域で「勝ちパターン」ができていない、あるいはどんどん変化する業界にいる人は、「現実家」となって変化をしていかなければ、いくら頑張っても間違ったゴールに向かってしまうかもしれません。

そして、言うまでもなく今は変化の激しい領域が多い時代です。そうであれば、「現実家」として生きていく方が、うまくいく人は多いのではないでしょうか。

つまり、上司世代の若い頃、高度成長やバブル期くらいまでは、ひとつの方向に向かって努力すればよかったのが、今の若者はむしろ、理想を盲信しすぎずに、状況に合わせてどんどん変化する方がうまくいく可能性が高いわけです。

それなのに「理想を掲げて真っすぐ進め」と言う上司は、「それはあなたの時代の常識ですよね」と昔の人扱いされてしまうのも当然ではないでしょうか。

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「20代から好かれる上司・嫌われる上司」とは……
組織と人事の専門家である曽和利光さんが、アラフォー世代の仕事の悩みについて、同世代だからこその“寄り添った指南”をしていく連載シリーズ。好評だった「職場の20代がわからない」の続編となる今回は、20代の等身大の意識を重視しつつ、職場で求められる成果を出させるために何が大切か、「好かれる上司=成果がでる上司」のマネジメントの極意をお伝えいたします。
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組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス
『組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス』(ソシム)
曽和利光=文
株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。

石井あかね=イラスト

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