20代から好かれる上司・嫌われる上司 Vol.32
2020.12.21
LIFE STYLE

フィードバックで悪者になろうとしない上司は、20代から信用を失う

「20代から好かれる上司・嫌われる上司」とは……

「フィードバックの文化」

私が最初に新卒で入社したリクルートでは、自分たちの文化のひとつの特徴を「フィードバックの文化」という言葉で表現していました。

具体的には、部下や後輩、場合によっては同僚や上司に対してでも、あまり聞きたくないであろうと思われるネガティブなことも含めて、その人のパフォーマンスに関する情報を伝える。

評価者という役割としてする場合はもちろんですが、そういう役割を特に担っていない人達同士でも、お互いにフィードバックし合うことによって、自己認知が深まり、最終的には成長につながるのだという考えから生まれていた文化でした。

NEXT PAGE /

最初はあまり好きではなかった

私は心理学を専攻していた内向的な人間でもあったせいか、最初はその「フィードバックの文化」はあまり好きではありませんでした。

大学であれだけ繊細に対応するようにとされていた人々の心に「土足で踏み込む」行為のような気がしたからです。人の心を動かすとか、さらにその人の行動を変えるとかはとても大変なことであり、ストレートにズケズケとモノを伝えればわかるというような雑なものではないと思っていました。

実際、最初の頃、(私が悪いのですが)周囲をまだそこまで信頼できていない時期に上司や先輩からたくさんフィードバックを受けたのですが、まったく耳に入らず、行動も変わりませんでした。

 

なぜあんな面倒なことをしてくれたのか

その後、いろいろ一緒に仕事をしていくに従って、徐々に周囲の耳の痛いフィードバックもちゃんと受け止められるようになり、それをもとに行動を改善するようになったことで、最終的にはなんとか成長できたように思うのですが、おそらく私を育成するは手間がかかったことでしょう。

いろんな人からのサポートの賜物です。今更ながらあの頃の「不良」な自分に面倒なフィードバックをしてくださった方々に対して感謝をしています。

それにしても思うのは、なぜ聞く耳を持たない私に対して、ネガティブフィードバックという嫌われるかもしれない面倒くさいことをしてくれたのでしょうか。

NEXT PAGE /

社員全員が厳しいフィードバックを受けた経験がある

「それが文化だから」と言ってしまえばおしまいですが、それではなぜ文化になるまで定着したのでしょうか。

最も重要なことは、創業者の江副浩正さん自身がとてもフィードバックを重視していて、社員同士の個別の口頭でのフィードバックの推奨だけではなく、360度評価のサーベイなどを用いて、ことあるごとに何でも計測し、それを当人に厳しく伝えることを仕組みとして繰り返していたことではないかと思います。

そうすることで、社員全員が厳しいネガティブフィードバックを受けた経験を持っていたのです。そして、そのことを「良いことであった」と感じているから、新人や後輩にもできたのでしょう。

 

セーフティネットとなるインフォーマルネットワーク

もうひとつ、「フィードバックの文化」を支えたものが、リクルートの強いインフォーマルネットワーク(非公式な人間関係)ではないかと思います。

どれだけ正しかったとしても厳しいフィードバックを受ければ、人は自我が傷ついて自己保身的になります。認めなかったり、攻撃したり、逃走したりします。そうなってしまうと、フィードバックは結局効きません。

傷ついたときに、どこかから手が差し伸べられて、受けたフィードバックに対しての解釈のサポートや、受け止める強さを持つための励ましなどを行ってくれる人が必要なのです。それがあるがゆえに、フィードバックの効果が担保されるのではないでしょうか。

NEXT PAGE /

「良い警察官と悪い警察官」戦術に似ている

要は、警察官が犯人を口説くときのように、厳しい「悪い警察官」のような人と、優しいことを言ってフォローする「良い警察官」のような人の絶妙な組み合わせのバランスが、リクルートの「フィードバックの文化」を作っていたのではないか。この役割の中で、「良い警察官」になるほうは楽ですから、成り手には不足しません。

しかも、リクルートは何十年もいわゆるリファラル採用(社員の個人的ネットワークを通じて候補者集団形成を行う採用)を行ってきた会社なので、そもそも大学やゼミやクラブ・サークル、アルバイトなどの先輩後輩などの仲の良いネットワークがそこら中に存在していました。

 

「悪者」になれる人こそ信頼を得る

ところが、もう一方の主役である「悪い警察官」、つまり「悪者」には、インフォーマルネットワークが強く仲が良い組織なのであれば、なおさらなりたくないものです。

しかし、それを自ら引き受けることを厭わない、「悪者」フィードバックをする人たちこそが、会社や同僚に愛着を感じていたし、信じていたのかもしれないと今では思います。まさにそういう人たちがリーダーと言えます。

結局、甘いことしか言わない人は、メンバーから信頼を獲得できず、リーダーシップを発揮できていませんでした。むしろ、最初は嫌われるとしても「いつかわかってくれる」と信じて、ひるまずに率先して「悪者」役を引き受ける人こそが、多くの人の信頼や敬愛を受けていたように思うのです。

連載「20代から好かれる上司・嫌われる上司」一覧へ

「20代から好かれる上司・嫌われる上司」とは……
組織と人事の専門家である曽和利光さんが、アラフォー世代の仕事の悩みについて、同世代だからこその“寄り添った指南”をしていく連載シリーズ。好評だった「職場の20代がわからない」の続編となる今回は、20代の等身大の意識を重視しつつ、職場で求められる成果を出させるために何が大切か、「好かれる上司=成果がでる上司」のマネジメントの極意をお伝えいたします。
上に戻る

組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス
『組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス』(ソシム)
曽和利光=文
株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。

石井あかね=イラスト

# 20代から好かれる上司・嫌われる上司# フィードバック
更に読み込む
一覧を見る