夏まで待てない……「Tシャツ」大特集! Vol.52
2020.07.18
LIFE STYLE

「サニーフィルム」有田浩介さんがドキュメンタリー映画に感じる、ルームウェアのリアリティ

「一般人が知らない場所、知らない生活について伝えてくれるのがドキュメンタリー映画の価値のひとつ。我々が普通に生活していたら知りえない、言うなれば“世界の僻地”に触れることができるということです」。

そう語るのはドキュメンタリー専門の配給会社、サニーフィルムの代表を務める有田浩介さんだ。

ドキュメンタリーの中の部屋着は衣装係もいない、リアルクローズ。だからこそ、“世界の僻地”の実情が滲み出ている。そこから何を読み取るのか? それがドキュメンタリーの醍醐味のひとつだと思う。

『CRESTONE』米コロラド州クレストンにて、マリファナを育てながら暮らすラッパーたちを追う。
『CRESTONE』米コロラド州クレストンにて、マリファナを育てながら暮らすラッパーたちを追う。

「まずは『CRESTONE』というドキュメンタリーを。タイトルはロッキー山脈の麓にある街の名前。そのクレストンの中心部から離れた砂漠地帯で、マリファナを育てながら暮らす“サウンドクラウド・ラッパー”たちを追っています」。

そう聞くとギャングスタ的ラッパーを想像してしまうが、映るのはどこにでもいそうなアメリカの若者たち。ダボダボのチノパンを腰ばき。上半身はTシャツあるいは裸である。

『CRESTONE』監督は女性で、自身の高校の同級生でもある彼らに会いに行くという体裁を取っている。いわゆる「クリエイティブ・ノンフィクション」というジャンルだ。
監督は女性で、自身の高校の同級生でもある彼らに会いに行くという体裁を取っている。いわゆる「クリエイティブ・ノンフィクション」というジャンルだ。

「インターネット上で自分をどう演じるかばかり考えているような、現代っ子なんですよ。“目指せ100万回再生!”みたいな(笑)。

彼らの音楽ジャンルはトラップ(ハードコア・ヒップホップの一種)。音楽レーベルとは契約せず、SNSで配信しながらインターネットミームを狙う。若いラッパーの典型的なスタイルですね」。

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『ゲンボとタシの夢見るブータン』実に1000年以上続くという仏教の古刹と、その寺の家族の葛藤を描く。
『ゲンボとタシの夢見るブータン』「世界一幸福な国」と称されるブータン。しかし急速な近代化にともない、人々は多様な価値観を持つようになる。実に1000年以上続くという仏教の古刹と、その寺の家族の葛藤を描く。伝統衣装「ゴ」の着こなしにも注目を。 © SUNNY FILM

続いては急速な近代化の波が押し寄せるブータンを舞台にした『ゲンボとタシの夢見るブータン』だ。

「16歳の兄ゲンボと、15歳のトランスジェンダーの妹タシが主人公。彼らの家というのが、1000年以上続く古い寺。ブータンは今、仏教によって幸福を得るという親の世代と、あらゆる情報が手に入る若い世代の間に、価値観の違いが生まれているんです」。

父はゲンボに仏教の大切さを説き、タシに女の子らしく生きる努力をしなさいと諭す。もちろん子供たちの将来を慮るゆえだ。世界のどこにでもある家族の葛藤であり、それが装いにも現れる。

「ブータンではKーPOPが大ブーム。タシは韓流スターのスウェットを着用。ゲンボは、本当は寺を継ぐのではなくサッカー選手になりたい。だからナイキのウインドブレーカーを着ているんです」。

『大いなる沈黙へ』舞台はフランスのグランド・シャルトリューズ修道院。修道士たちは毎日を祈りに捧げ、一生を清貧のうちに過ごす。
『大いなる沈黙へ』舞台はフランスのグランド・シャルトリューズ修道院。修道士たちは毎日を祈りに捧げ、一生を清貧のうちに過ごす。ここに入るとき持参できるのは、身の回りの品を入れる小さなブリキの箱のみ。世俗と隔絶された世界である。 © A Philip Groning FilmProduction

2014年公開の『大いなる沈黙へ』は、近年のドキュメンタリーにおける最大ヒット作のひとつ。

「グランド・シャルトリューズ修道院への潜入記。ここにカメラが入ったのはもちろん世界初」。

撮影の許可が下りるまで実に20年近い年月を要したとか。ただし、インタビューも照明の持ち込みも不可。タイトルのとおり全編にわたり沈黙が支配する。

「年老いた僧侶が台所に立って野菜を切る。そのトン、トン、という音が実に印象的。また彼の着る青いローブが、フィルムの中で実に格好良く映る。フェルメールの絵画のようなんです」。

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『サファリ』アフリカで繰り広げられる「トロフィー・ハンティング」とは? 獲物との距離を詰め、ハンターはスコープを覗き込む。
『サファリ』アフリカで繰り広げられる「トロフィー・ハンティング」とは? 獲物との距離を詰め、ハンターはスコープを覗き込む。草原にライフルの発砲音が響き渡る……。人間の業と欺瞞に、鬼才ウルリヒ・ザイドルが切り込んでいく。 © SUNNY FILM

最後は’16年に公開され世界を震撼させた問題作、『サファリ』。裕福な白人たちが合法的にアフリカの野生動物を狩猟するレジャー、“トロフィー・ハンティング”に同行したものである。

「トロフィーは戦利品という意味で、動物の剥製のこと。ハンターたちが仕留めた動物は、現地のガイドたちが皮を剥いで剥製にするんです」。

© SUNNY FILM

本作はナミビアで撮影。ドイツ、オーストリアからのハンターたちと、ハンティングロッジを経営するオーナー、そして現地のガイドたちの姿を映し出す。

「カメラワークが実に秀逸。でっぷり太った白人夫婦が日光浴しているところを、正対で、少し引き気味に撮る。人間の卑しい部分を映像として見事に捉えている」。

© SUNNY FILM

裕福な白人たちは、おしなべてコロニアル調のサファリウェアを着こなしている。その姿を見ていると、植民地時代の白人のスタイルに自分たちを重ねているようにも思える。

「仕留める動物によって料金が違います。アンテロープ(ウシ科の動物)はいくら、シマウマはいくらと料金表がある。トロフィー・ハンティングは現在、アフリカ諸国の一大観光資源。いろんな意味で、重い現実を見せつけられる映画です」。

有田浩介●1979年、米テキサス州ヒューストン生まれ。大学で国際取引法を先行したのち、レコード会社でアーティスト・プロモーションの仕事に携わる。フリーランスの映画PRを経て、2019年にサニーフィルムを設立。世界中からドキュメンタリーを発掘し、配給する。

 

加瀬友重=文

# ドキュメンタリー# 映画
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