37.5歳からの愉悦 Vol.76
2019.01.17
LIFE STYLE

御徒町のビアバーで、ニーチェ推しの看板娘に元気をもらった

看板娘という名の愉悦 Vol.48
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。

世界のビールを供する店は珍しくない。しかし、世界の「生ビール」となると相当レアだろう。旅人気分で訪れたのは御徒町。

アメ横前の横断歩道
上野駅とアメ横で繋がっている。

JR御徒町駅から徒歩20秒という好立地にある「Hitch×kakeru*(ヒッチとカケル)」は、世界一周を果たした夫婦が営む店だ。

外観の写真
店はカラフルな階段の上。

常連客からは「ヒチカケ」という愛称で親しまれている。ドアを開けると楽しそうに働く看板娘の姿が見えた。

店内の様子
毎日がパーティーのような賑やかな内装。

冷蔵庫には見たこともない世界のビールがずらりと並んでいた。

世界のビール
70種類以上のビールが選び放題という天国。

しかし、お目当ては4基のサーバーから注がれる生ビールだ。「レアな樽は1日で空いちゃうこともあります」と看板娘。では、オススメをいただこう。

生樽の種類は日々変わるため、まさに「一期一会」の出合い。
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ほどなくして、看板娘が自ら丁寧に注いだ生ビールが運ばれてきた。

ビールを運ぶ看板娘
「お待たせしました〜」

「『ブルームーン』というアメリカのクラフトビールです。試飲会でこれを飲んだ人が『Once in a blue moon!』、つまり『極めて稀なこと』と声をあげたことから、この名前が付いたそうです」

今回の看板娘は千葉県柏市出身のアニーさん(22歳)。学習院大学で哲学を専攻する「ニーチェ推し」ガールだ。

ラージサイズのビール
ラージサイズは900円。

香り高いベルギー産の小麦を使用し、最高級のバレンシアオレンジのピールがほのかな甘みを生み出す。

メニューの写真
世界各国からアイデアを得たオリジナルメニュー。

これに合わせるフードは何にしようかとメニューを眺めていると、「料理は日替わりで変わりますが、今日は大人気の『ルーロー飯』がありますよ」と看板娘。

料理を運ぶ看板娘
満面の笑顔で「最高のやつです」と言うアニーさん。

「ルーロー飯」は台湾の代表的なかけご飯。つゆとネギ油が添えられており、これは経営者夫婦が本場・台湾で食べて美味しかったものを再現したそうだ。

1000円で本場の味が体験できる。
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ちなみに、ニーチェを推す理由を聞いたみたところ、予想以上に熱い回答が返ってきた。

「社会への反抗心や諦観から生まれるニヒリズムという思想は、今も昔もどこかに漂っています。ニーチェが生きた時代も同じように、大衆がニヒリズムの波にのまれていました。でも、ニーチェだけはその反抗心すらも超越して、生をとことん肯定しようという境地に達したんです」

後ろで聞いていた奥さんが「めんどくさ」とつぶやきながら、優しく笑った。

スタッフと看板娘
ご夫婦と談笑する看板娘。

アニーさんのいいところを教えてくださいよ。

自分から「気が利く」というアニーさんを制して、奥さんが口を開く。

「この子がいるとお客さんも私たちも元気になれるんですよ。とにかく、底抜けに明るい」

なお、このご夫婦は2012年に世界一周食の旅に出発。1年4カ月をかけて5大陸、47カ国を巡ったのちに、ここ東京で世界のビールと料理を提供する店をオープンさせた。

思い出の写真
世界各地で撮った写真も大切に保存している。

旅の話に耳を傾けていると、アニーさんがおもむろに自撮りを始めた。「あ、あれはお店の情報を動画にしてインスタに上げているんですよ」とマスター。

「トゥルルルットゥル〜」という自前のジングルで始まる。

「こんばんは。大事なニュースです。年内はなんと今日と明日で営業終了! でも、ヒチカケファンの皆さん大丈夫! 新年は4日から営業しますよ〜」

楽しそうに働くアニーさんは、「森安彩火」という芸名で女優活動も行なっている。

「とにかく、ずっとひとりで遊んでいる子供だったみたいです。拾ってきた石に生命を宿したうえで、イルカ陣営とライオン陣営に分けておままごとをしていたのは覚えています」

ネイルサロンに通うという乙女な一面も。


「私、飽き性だからバイトもすぐに辞めちゃうんですが、ここだけは自分でも驚くほど長く続いています」

そんなアニーさんは、自分の生誕祭も大好きなこの店で行った。

「ガチの誕生日にです(笑)。自分の半生を皆さんに知ってもらおうと、昔の写真をプリントして持ってきました」

アニーさんの昔の写真
すべての写真に学芸員並みの解説付き。

ここで常連の女性がスマホの画面を見せてきた。

「アニーは絵も上手なの。これはアイウエオ作文のような『折り句』のコンテストで私を描いてくれたもので、1000作品ぐらいの中から佳作に選ばれたんですよ」

常連客のスマホ写真
「きょうこ」という名前が見事に詠み込まれている。

じつに平和な店である。その片鱗はトイレにもあった。

トイレにあった飾り小物
犬と馬がキスをしていた。

さて、そろそろお暇をしようと思っていたところに、マスターから「最後にあれを見てもらいなよ」という言葉が。

看板娘と操り人形
操り人形を持って近づく看板娘。

ビールおじさんに憑依したアニーさんが「ワシと乾杯すると幸せになるんじゃよ」と言ってくる。自分の幸せを祈願してありがたく乾杯させていただいた。

「この子がいると元気になれる」という奥さんの言葉を実感したところで、後ろ髪を引かれながらお会計。もらった領収証をズボンのポケットにねじ込み、店を出た。家に帰ってから何気なく確認すると、アニー劇場はまだ終わっていなかった。

メッセージ入りの領収書
全方位的に「かわいこちゃん」でした。

読者へのメッセージにもたっぷりの愛が注がれる。

看板娘の直筆メッセージ
声が聞こえてくるかのような名文。

【取材協力】
Hitch×kakeru*(ヒッチとカケル)
住所:台東区上野6-2-2 ライフビル2F
電話番号:070-1305-1254
www.facebook.com/hitchxkakeru/

取材・文=石原たきび


# Hitch×kakeru# ヒチカケ# ヒッチとカケル# 世界の生ビール# 御徒町
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