37.5歳の人生スナップ Vol.91
2019.10.28
LIFE STYLE

「平均の先に未来はない」証券会社をつくった男の普通じゃない生き方

【前編】を読む

2015年に創業した証券会社FOLIO(フォリオ)の創業者、甲斐真一郎さん(38歳)は、今年になって代表権を手放し、社長の座を退いたばかりだ。

甲斐真一郎

京大生でプロボクサー、そしてトレーダーから経営者へと転身を果たし、30代で社長から会長職へ。異例の経歴を持つ甲斐さんの「創業者」としての生き方はどのようなものだったのか。

もともとは起業して証券会社をやるなんて、まったく考えていなかったという。

 

リーマンショック後の閉塞感。「外の世界を見たい」

30代に入り、ゴールドマン・サックスからバークレイズ証券へと順調にトレーダーとしてのキャリアを積むなかで、甲斐さんが「起業」を意識するようになったのはいつ頃だったのだろう?

インタビューカット

「リーマンショックからしばらく経ってですね。金融規制が厳しくなって業界全体の閉塞感が高まっていた。緩やかに縮小均衡していく空気を、なんとなく肌で感じるようになってきていたんです」。

一方で2014年に上場し、融資総額6000億円規模にも及んだアメリカの会社「レンディングクラブ」(※)のように、当時ほぼ無名のベンチャー企業が突如頭角を現す衝撃を、甲斐さんは忘れられないでいた。

「“外の金融”にはまだ僕の知らない大きな業態がたくさん生まれようとしている。これからの金融を動かしていくのは、こういう人たちだろうと思うと焦りがありました。もっと僕も個で意思決定をしたい……その気持ちは日々強くなっていきました」。

※2007年創業の融資型クラウドファンディングサービス。上場直後、時価総額1兆円まで達した、フィンテック・ベンチャーの草分け的存在だった。

NEXT PAGE /

自分にしかできない起業にしたい

想いは次第にしっかりと輪郭を持ちはじめ、甲斐さんは現在の共同創業者と共に起業のためのビジネスモデルを模索するようになった。

最終的に証券会社に決まったのは、起業するならば世の中に対して価値を創造したいと思ったからだという。

「ペインの解消なのかゲインの提供なのか、いずれにせよ誰にでもできることではなく、僕らがやる意味のあることにしたかった」。

長年、金融業界を見つめ続けた甲斐さんにしかできない思い切った決断だった。

「かなり思い切ったなって思います(笑)。いきなり証券会社つくるなんて。それだけ思い切ったからこそ、優秀な人材が集まったのかもしれない。僕らの起業によって資産運用の世界も変わる。どうせなら社会を変えられるくらいのことをやりたかった」。

ゼロから証券会社をつくるなんて無理だ。誰もがそんな固定観念に縛られ、挑戦できなかったことを甲斐さんは形にした。とはいえ、現在のように次々とサービスをリリースさせるまでには並並ならぬ苦労があったのではないだろうか。そうたずねると、長い沈黙があった。

「苦労……うーん。あんまり苦労だと思ったことはないんですよね。もともと非常にストレス耐性が高いので。人がハードシングスだと思う場面でもまあ大変だけど別に乗り越える方法を考えればいい、と考えてしまう。もちろん資金調達や事業・組織の問題はいつもスタートアップとして頭を悩ませてはいますが」。

NEXT PAGE /

平均や常識を疑え

ボクシングの経験や、長年のトレーダー経験が、甲斐さんのメンタルをより強固なものにしていた。常に状況をシビアな目でみつめ、冷静な判断を下す。軌道修正も素早い。甲斐さんの行動力の秘訣はどこにあるのだろうか。

「意思決定のときに人の言う『常識」に引っ張られないことでしょうか。世の中であたかも『常識』のように語られるものは、正規分布における平均のようなことが多い。でもスタートアップの成功確率の分布は正規分布ではない。それなのに“どのスタートアップもこんな感じ”みたいな正規分布の平均を指標とするような意見は意味ないと思うんですよね。よく『そんなの一般的じゃない』とか『普通は』とか言うけど、逆に『〜すべき』みたいな意見を疑うっていうのは大事かなと思っています」。

インタビューシーン

京大生でプロボクサー。それだって世の平均から見ればきっと外れ値のはず。固定観念を疑い、あえて外れ値を選び取る。それこそが【前編】で甲斐さんが語っていた”創業者の非常識”である。

新体制となったフォリオは現在LINEと連携し、「ワンコイン投資」というサービスを展開している。500円から積立投資が可能、来年4月までは手数料無料。株式投資を齧った人なら、「どうやって利益を出すのだろうか」と首を傾げたくなるサービスだ。

甲斐さん自身は今後フォリオのビジネスをどのように発展させていこうと考えているのか。

「決めているのは、フォリオという会社を成功させること。それはつまり同時に社会に価値を提供できている証しですから。それは時間がかかっても諦められないですね。あとは経営者として常に結果を残す人でありたい。やっぱり誰しも得意不得意があって、僕が得意なのはゼロからイチをつくって人やお金を集めること。それ以外の意思決定に関しては、別の人に任せた方がうまくいくこともあるでしょうから、柔軟に自分の立ち位置も含めて会社のために何をすべきかを常に考えられる人でありたいですね」。

今回、社長職を辞したのは、それが会社のためになると信じているからだった。

「会社の正義はひとつ。事業の成長です。そのための意思決定を創業者が怠ってはいけない。みんなが言う『こうあるべき』に合わせる必要も特にないと思います。だって僕たちの目指す世界は『平均』の先にはないんですよ」。

常識に沿って生きているだけでは絶対に見えない世界を、甲斐さんはこれまでもこれからもずっと夢見ている。

 

藤野ゆり(清談社)=取材・文 山本恭平=写真

# 37.5歳の人生スナップ# FOLIO# 投資
更に読み込む