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2019.06.25

ライフ

13年間全く昇進しなかったダメリーマンが、売れっ子作家として覚醒するまで【後編】

【前編】を読む

『夢をかなえるゾウ』作者・水野敬也との出会い


作家デビューを果たす37歳まで、大手通信会社の一社員としてくすぶっていた大橋弘祐さん(41歳)。その人生を変えたのは、現在も共に奮闘する1人の先輩作家との出会いだった。

モヤモヤした気持ちを抱えつつ、合コン必勝ブログを書き続けた大橋さん。知人から誘われ、小説『夢をかなえるゾウ』の作者・水野敬也氏のもとで「ベストセラー作家を目指す」という、現代版トキワ荘のような私塾に入るキッカケを得る。

これが人生のターニングポイントとなった。

大橋さん

「僕、本を全然読まなかったので、そんな人間が小説を書こうとするなんて、いま考えても無謀ですよね。もちろんすぐにうまくいくこともなく、その私塾に5人ほど集まったメンバーの誰も本を出版する機会を得ることなく、ただパソコンのキーボードを叩きまくる“謎の集団”である時期がしばらく続きました(笑)」。

平日は会社員をしていたため、仕事終わりと日曜日に参加し、執筆活動に勤しんだ。カレーを作ってメンバーみんなで食事を共にしたり、完成した原稿を読み合うなど、アットホームな場ではあったが、創作活動は苦しく、納得のいくものはなかなか書けなかったという。

「水野さんから、『大橋は恋愛が得意だから、恋愛モノを書いたらどうか』と勧められて恋愛小説を書き始めました。合コンに行っていただけで、恋愛はまったく得意ではないんですけど(笑)。しかもなにを思ったのか、主人公を女性にしてしまったので、男の僕にとって、女性の心理はわからないことも多くて、本当に苦労しました」。

苦心して作り上げた最初の小説。完成するまでには、5年の歳月を要した。

しかし、その期間を経たことで、大橋さんのなかに徐々に会社を辞めるという決意が芽生えていく。決定打となったのは、会社の研修を受けに行ったときの体験だった。

大橋さん

「会社の研修でグループディスカッションを行なったんです。就活のそれと一緒で、面接官がいるなか討論をして、なんとなくそれっぽいことを言って、活躍している雰囲気を出さなければいけません。上司にも『頑張れよ!』って送り出されて、うまくいけば昇進できるという場でした。

実際、僕は『〇〇さんの意見に賛成ですが、こういう改善をするとより良くなります!』のような、いかにもグループディスカッションで評価されるための言葉を口にして、その場をなんとかやり過ごしました。でも、自分の心の中にない言葉を発したせいか、帰りのバスの中で、どっと疲れて心が泣いている感じがしたんです。そのとき『ああ、俺はもうこの仕事は続けられないんだな』って思いました」。

ちょうどその頃、5年を費やして書き続けた原稿は、完成の兆しが見えていた。小説を書くことは辛くもあったが楽しかった。なによりそこには、自分の意思と反する言葉はひとつもなかった。

完成した小説は、水野氏らが新たに立ち上げた出版社・文響社から刊行されることが決まる。それが、『サバイバル・ウエディング』だ。

「作家だけで食べていくのは難しいだろうと思ったので、編集者の仕事もしながら、執筆活動をしていくことに決めました」。

大橋さんはすぐに編集者としても才能を発揮。それが累計39万部を突破した『難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください』だ。

『難しいことはわかりませんが』シリーズ 『難しいことはわかりませんが』シリーズ3作。いずれもそのわかりやすさが評判を呼び、ベストセラーに。


「5年かけた小説よりも、短期で作り上げたビジネス本のほうが売れるっていう……(笑)。でも本を作る過程で共通しているのは楽しいっていうこと。なんだ仕事って楽しいじゃん! と社会人になってやっと思えました」。



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