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負の感情が成功の鍵となった


大手通信会社の広報やマーケティング部で働いていた大橋さんが、なぜ出版業界ですぐに爆発的なヒットを生み出せたのか。大橋さん自身は、異業種のサラリーマン経験があったからこそだと分析する。

「僕は本自体そんなに読まないほうだったので、『本とはこうあるべき!』という、こだわりがないんです。作家さんは自分の世界を表現したいという方がやはり多いと思いますし、それは本当に素晴らしいことです。でも僕は『売れる本を作りたい』という意識も強い。それは自分で書いた小説でも、編集者として携わる書籍でも。そのこだわりの無さが逆に結果に繋がったのかな、と思います」。

自分で作りだした本はヒットさせたい。それは通信会社時代のマーケティング経験や、ブログでアクセスが集まるよう書いていた頃の意識の延長線上にあるものだった。本が売れない時代、大橋さんのいい意味で商業的な思考と手腕はヒットを生み出した。

自分の作りたいものと求められているものが違う。そんなクリエイターにありがちな悩みや矛盾を抱えながら葛藤し、作品に昇華させたのだ。

しかし、なぜ5年にもわたる執筆活動を続けられたのか。大橋さんは「負の感情」がスイッチになったと笑顔で語る。

大橋さん

「会社って上司を選べなかったり、なんの意味があるのかわからないようなことをやらされたり、理不尽なことも多いから、『俺ってなんのために生きてるんだろう』って悩むじゃないですか。僕なんか13年間昇進しなかったダメリーマンでしたから、なおさらです(笑)。でも、そういう負の感情が生まれれば生まれるほど、奮起できたんです」。

上司に長々と叱られた日、悔しさを抱えながらパソコンに向かうと筆が乗った。「悔しい、今に見ていろ」そんな気持ちが原動力になると気づいてからは、仕事で何かあるたびに気持ちを執筆にぶつけた。

「当時の上司からしたら迷惑な話でしょうけど、原稿が思うように書けなかった時期は、もっと上司に怒られたいと願っていたほどです。怒られたほうが書けますから(笑)。そう考えると今の僕のまわりは優しい人ばかりなので、もう少し理不尽なことを言われたいと思ったりします……(笑)」。

幸先の良い作家・編集者人生がはじまった。最近は自身の婚活をネタにしたブログを更新している。もちろんそれもまた執筆の一環でもある。

「常にネタを探して、ヒットするものを作りたい。僕のやり方に賛同できない人もいるかもしれないけれど、出版不況の時代に甘いことは言っていられないと思うんです」。

ダメリーマン時代に味わった悔しさ、そして自分自身に感じた失望を見返すかのように、大橋さんは新たな人生をイキイキとサバイバルしていた。

 

藤野ゆり(清談社)=取材・文

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