37.5歳の人生スナップ Vol.57
2019.05.15
LIFE STYLE

悪性リンパ腫と戦うプロレスラー・垣原賢人を支える強さの源

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悪性リンパ腫の闘病生活を続けながら、ミヤマ☆仮面として活動を続けているプロレスラー・垣原賢人。
悪性リンパ腫の闘病生活を続けながら、ミヤマ☆仮面として活動を続けているプロレスラー・垣原賢人。

前編の続き

人気プロレスラーだった垣原賢人が、34歳で引退後に選んだ職業は、なんとクワガタだった。幼い頃から、クワガタに魅了されてきた垣原は、プロレスと同じくらい熱中できる職業として、自らがクワガタの化身となり、その魅力を世の中に伝えていくことを決断した。

第二の青春が到来

垣原は現在、「昆虫ヒーロー・ミヤマ☆仮面」として、 昆虫バトルの 「クワレス」や「昆虫体操」、「むしクイズ」といったコンテンツを通して、虫の魅力や自然の大切さを伝えるイベントを全国で行なっている。特にゴールデンウィークや夏休みなどの大型連休のときは、キャンピングカー「ミヤマ☆仮面号」で全国各地をまわってイベントに出演し、多忙な毎日を送る。この活動を通じて、垣原には2つの強い想いが芽生えた。

1つ目は、「クワレス」を世界中に広めたいという想いだ。「クワレス」とはクワガタがレスリングを行う、リアルな昆虫の格闘コンテンツだ。

映像を見るとわかるかもしれないが、「クワレス」を見ているとまるでプロレスを見ているかのような錯覚に陥ってしまう。垣原はプロレスの世界で養ったエンタテインメント性を「クワレス」に投影しているのだ。その背景には、「クワレス」を通じて日本中の子供を虫好きにし、自然との共生を考えるきっかけを提供したいという使命感がある。そのために工夫を凝らしながら垣原は、日々「クワレス」を進化させ続けている。

カッキー企画=写真

2つ目は、家族との絆だ。垣原はこのイベントを家族全員で運営している。家族イベントのMCを、アイドルである娘・垣原綾乃さん(23歳)が務め、息子の垣原つくしさん(17歳)とともに、マスクを被った昆虫ヒーローを演じる。音響などの裏方は主に妻・美香子さんの役割だ。

そして移動&宿泊手段の「ミヤマ☆仮面号」で過ごす日々は、垣原一家のライフスタイルの一部となっている。このように家族全員で1つのイベントを作り上げるという運営方針は、実は垣原の幼少期の家庭環境によるところが大きい。

写真提供・カッキー企画

「ぼくは幼い頃に親が離婚しているんですよ。恥ずかしい話ですけど、父親はなかなか家に帰ってこないうえ、たまに家にいるときはお酒を飲んで暴れてばかりでした。そんな光景を見て育ったので、あたたかい家庭に憧れていたのかもしれません。一緒に仕事をし、一緒にいる時間が長い分、家族の口論も増えましたが家族の絆は深まっています」。

垣原にとって、昆虫イベントで結ばれた家族の絆は、何にも代えがたい大きな財産となっている。

[左]クワガタ仮面として父をサポートする息子の垣原つくし。[中]ミヤマ☆仮面に扮するプロレスラーの垣原賢人。[右]MCを務めるのは元バクステ外神田一丁目メンバーで現在もアイドル活動をしている娘の垣原綾乃。
[左]クワガタ忍者として父をサポートする息子の垣原つくし。[中]ミヤマ☆仮面に扮する垣原賢人。[右]MCを務めるのはアイドル活動をしている娘の垣原綾乃。写真提供・カッキー企画

なお、クワガタ愛に溢れた動画コンテンツ「クワレスちゃんねる」では昆虫イベントの様子も公開されているので、ぜひご覧になっていただきたい。

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2014年に過去最強の敵、現る!

そんな昆虫ヒーローを演じる垣原の前に、人生を左右する大きな転機が訪れた。2014年の12月末に、悪性リンパ腫であることが発覚したのだ。悪性リンパ腫とは、白血球の中のリンパ球ががん化した病気で、血液を通じて腫瘍が全身に転移してしまう難病と言われる。

それまで何度となく強敵と対峙するたびに、自らに芽生えた恐怖心に打ち克ってきた垣原。だが、最強の敵である悪性リンパ腫が自らの血液の中に潜んでいることを知ったときは、その恐怖を払拭することはできず眠れない夜が続いた。病を宣告された当時のことをこう話す。

「呆然自失とはこのことで、このときばかりは本当に落ち込みました。入院中、みるみる痩せ細っていく自分を惨めに感じましたし、ミヤマ☆仮面のことも、これからどうしていこうかという不安で押しつぶされそうでした」。

だが、そんなときに立ち上がったのが家族だった。「クワレスの灯火は消さない」と、息子のつくしさんはひとりでクワガタ忍者としてステージに立ち、テレビ出演の代役を自ら買って出た。妻の美香子さんと娘の綾乃さんは父親の不在を感じさせぬよう、いつも以上に会場を盛り上げ父の帰りを待ち続けた。

写真提供・カッキー企画

家族の強力なサポートに感謝しながらも、父親としていつまでも甘えてばかりいるわけにはいかない。そう感じた垣原は、病を克服することを決意。一刻も早くミヤマ☆仮面として復帰すること、そして“大きな目標を持つことによって心身ともに強くなっていくのではないか”と、なんとプロレスラーとして再びリングに立つことを自らに課したのだった。


リング復帰そして、未来へ

復帰へ向けたトレーニングを再開した垣原は、2017年8月14日、晴れてプロレスイベント「カッキーライド」でリングへの復帰を果たした。プロレスの世界に入るきっかけとなった恩師の藤原喜明を相手に、約10分間のエキシビジョンマッチを行い鋭い動きを披露した。これだけのコンディションを作り上げるのは、並大抵の努力ではなかったはずだ。それを知るファンたちによる盛大な“カッキー”コールを、垣原は全身で受け止めた。

「鳥肌が立つほど感激しました。ファンの声援は僕にとって何よりの治療です」と話す姿からは、今でも多くのファンに愛される人柄が垣間見える。

垣原は常に明るく前向きに振る舞うため、ついついがん患者であることを忘れてしまうが、食事療法を自らに課している姿を見ると、今でも再発という見えない恐怖と戦い続けていることを改めて思い出させられる。

一方で、プロレスの世界で養ったネバー・ギブアップの精神を持つ垣原なら、きっとこの難病すら克服してしまうように思えてならないのだ。

長尾 迪=写真(本人提供)

僕らは、いつも心のどこかでカッコいい大人でありたいと願う。垣原の力強い生きざまは、まさに「カッコいい大人」そのものだ。自分の家族にカッコいい背中を見せたいと願い、今日もステージに向かう。日本の子供達に自然の大切さを伝えるために、今日もマスクを被る。

「昆虫ヒーロー。ミヤマ☆仮面だ。よろしクワ〜」

今日もどこかで、ヒーロー・垣原賢人の元気な声がこだまする。


瀬川泰祐=取材・文

# 37.5歳の人生スナップ# プロレスラー# 垣原賢人# 悪性リンパ腫# 闘病
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