37.5歳からの愉悦 Vol.74
2018.12.27
LIFE STYLE

有楽町のソーシャルバーで、OLラッパーの看板娘にノセられた

看板娘という名の愉悦 Vol.46
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。

地下の薄暗いバーも悪くはないが、窓外の景色が良い店はテンションも大いに上がる。今回は、なんと「新幹線ビュー」だ。向かったのは有楽町。

駅を出て新橋方面に進む。

やがて、飲み屋が集まる賑やかな一角に到着。ここに、目指すバー「PORTO(ポルト)」がある。

目印はさりげなく置かれたこの看板。

美容師、ダンサー、歯科医、ゲストハウスオーナーなど、多彩な本業を持つ人々が日替わり店長としてカウンターに立つ「ソーシャルバー」だという。

小さいながらも典型的な飲食店ビル。

階段で4階まで上がり、椅子に座る。まずは、ドリンクメニューを拝見しつつ、看板娘にお勧めを聞いた。

「カクテルなら『ナガサワマサミ』が一番人気ですね」。

「ヒロセスズ」や「アヤセハルカ」も気になるが……。

やがて、「ナガサワマサミ」が運ばれてきた。

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「お待たせしました〜」

「映画『モテキ』の頃の長澤まさみをイメージして作られたカクテルです。爽やかだけど色気もあるというか(笑)」

そう説明してくれた看板娘はノセレーナさん(25歳)。多摩美術大学を卒業後、新橋でOLとして勤務。この店ではロゴのデザインを手掛けたり、毎月第2水曜日にイベントの企画を手伝ったりしている。

スミレのリキュールをグレープフルーツジュースとトニックウォーターで割る。

カクテルは美味しいが、運んできたときのノセレーナさんの手付きは何だろう。

「ラップのポーズです。今年の6月からOLラッパーとして活動を始めました。ここ数年、フリースタイルのラップが若者に人気だと聞いて『ずるい! 私もやりたい!』と思ったのが始めたきっかけです」

「みんなのことをノセてーな! ノセレーナ!」

お客さんをラップでいじる看板娘。この半年間、「性格的に相手をディスれない」という致命的な悩みと闘いつつ、都内各地で開催されている「サイファー」というッパーの集会場に日参して腕を磨いた。

「サイファー」を回ってみた所感をまとめたイラストマップも作成。

「私がお手伝いする日は『ノセナイト』になるので、お客さんが来るたびに隣のオーナーと一緒に『ようこそ、ノセナイトへ〜!』という挨拶でお出迎えします」。

陽気にお出迎えされた。
他のお客さんたちも、おおむね楽しそうだ。

オーナーは嶋田匠さん(25歳)。フリーでコンサルティング業を営むかたわら、クラウドファンディングで約190万円の開店資金を集めて今年の6月にこの店をオープンさせた。

ノセレーナさんについては「いやあ、肝が座った子だと思います」と笑う。

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「ラッパーとしてのデビュー戦も見に行ったんですが、金網デスマッチみたいなガチの雰囲気で。ほとんど初心者なのによく出場するなあと感心しました」

本当に金網デスマッチだった。

ラップに対する真摯な取り組み方に唸らされる。そのとき、列車が走る音が聞こえた。窓から覗くと新幹線。目線の高さにレールがあるのだ。

こちらが冒頭で触れた素晴らしき「新幹線ビュー」。

ノセレーナさんに、最近楽しかったことを教えてもらった。

「銀座のナイルレストランが好きすぎて、去年、オーナーさんの誕生パーティーに参加したんです。ドレスコードが『派手』だったので、友達とピカソの『泣く女』の扮装をしました」

さすが美大卒というクオリティの高さ。

そんなノセレーナさんが一番好きなお酒はビール。

ビールのジョッキを被りながら楽しく飲んだ日もあった。

「あとは、大学生の頃から乾杯の瞬間を『写ルンです』で撮り続けています。開始のための儀式なのに、それ自体で完結しているのが面白いと思って」

撮り溜めたコレクションは数千枚にのぼる。

さらに、「人の話を聞かないメンバーが集まって人の話を聞きに行く」というインタビュー連載も最近開始した。

匠さんに頼まれてデザインした店のコースターとシール。

ここでお代わり。ノセレーナさんがお勧めするビールを注文した。

お勧めされた『ハートランド』。

ビールはもちろんだが、隣に添えられたカブの酢漬けのようなものが感動的に美味しい。

「福島の農家から仕入れた桃で作ったピクルスです。あ、チョコレートを買ってきたので盛り付けを変えましょうか」

おお、桃だったとは。

「お皿にチョコもノセてーな」

ちなみに、ノセレーナさんは高校時代にモスバーガーでアルバイトをしていたそうだ。しかし、あまりシフトに入らなかったため、バーガーを作らせてもらえず、主にチラシを折る担当だったという話も面白かった。

そうこうするうちに、彼女の知り合いが続々とやってくる。肝が座っているだけでなく、人望も厚いようだ。さて、席を空けないと。お会計をお願いします。

「ナガサワマサミ」を含め、友人と2人で計3200円。

読者へのメッセージも書いてホシーな。

もちろん、ラップで応じてくれました。

【取材協力】
PORTO(ポルト)
東京都千代田区有楽町2-3-2 宮内ビル4F
http://porto.tokyo

石原たきび=取材・文

# ラッパー# 看板娘
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