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2018.09.29

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学びへの姿勢が違う。天才パン職人・杉窪章匡の尋常じゃない修行


OCEANS’s PEOPLE ―第二の人生を歩む男たち―
人生の道筋は1本ではない。志半ばで挫折したり、やりたいことを見つけたり。これまで歩んできた仕事を捨て、新たな活路を見いだした男たちの、志と背景、努力と苦悩の物語に耳を傾けよう。『365日』は、東京都渋谷区の私鉄沿線にある人気のパン屋さん。特筆すべきは「世界一である」という点だ。ギネスブックには載っていない。だが店主の杉窪章匡はサラリと言う。「僕のルールでは世界一です」。
杉窪章匡のインタビューを最初から読む

30代以上のロールモデルにはならないかもしれない。だが……。

このインタビューは、「30代以降で自分自身の人生のあり方を変えた人」をテーマにしている。今その時代を生きているみなさんに、まだこれから変わるチャンスはあるということを知ってもらう、というのが狙いのひとつだ。
だが、杉窪章匡はそうしたロールモデルにはなりにくい。
菓子職人としてキャリアをスタートし、独立して「365日」というパン屋さんを開いたのは、確かに40歳。だが、23歳のときに1年間パンの修行を経験していた。店で職人として仕事をし、技術書を読み「日本の正しいパン作り」に疑問を抱き、同じタイミングで自ら問題を解決した。今、彼が提供しているパンの作り方の根本は、そのときすでにできあがっていたのだ。それだけじゃなく、彼自身「重要なのは育ち」と断言している。
そして、その「育ち」が彼の仕事に向き合う姿勢を完全に決定づけている。
ここでは、杉窪さんの修行時代の続きから独立するまでのエピソードを語る。天然自然に彼のように仕事をすることはできないかもしれない。だが、その仕事っぷりから学べることは少なくない。正直、めちゃくちゃハードではあるけれど。
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修行は1軒1年限定。学ぶのは味と技術だけではない

辻調理師専門学校を卒業後、17歳で洋菓子店に就職し、24歳でシェフ・パティシェとなった。そして27歳の時に渡仏。このおおよそ10年のあいだに、杉窪さんは5軒の店に勤めている。
「最初の店には3年以上勤めました。社会に出たら、最低そのぐらいは働かないと信用が得られないと思ったから。序盤は、にも言いましたけど天然で過ごしていました」。
20歳でオタクモードになってからがすごかった。朝から晩までみっちり店で働き、嫌な先輩からも “神様のフィルター”で何かを吸収して、家に帰ってからは技術書で勉強、休日には食べ歩き。
「食べ歩きっていっても、そのお店が美味しいとかまずいとかどんなお菓子やパンを出してるかっていうだけじゃなく、客単価にお店のつくり、プライスカード、座席数、スタッフ数、営業時間とか、あらゆるものを見てきました」。

そして最初の店以降は、業界内で収集した情報をもとに、自分に足りない技術や知識を得ることができる店、本当に評判の良い店を狙って就活した。
「ええ。でも2軒目の以降のお店に関しては“1年で辞める”って決めて入っていました。80歳までのタイムスケジュールを考えたって言いましたけど、目標を達成するために、自分がいつごろどれだけのスペックを持っていないといけないかを把握するために逆算できるよう設定しているだけであって、そのタイムスケジュールを守ることはさほど重要ではないんです。より重要なのは、自分を攻略すること。例えば3年ぐらい働こうって思っていると、“今日見逃しても明日見られるな”とか、“今年はダメだったけど来年できるよな”っていうメンタリティーになってしまうんです。それを“1年”って決めたら、少なくとも来年はないですよね。下手したら今日見逃すことで一生見られなくなるかもしれない。そのくらいの集中力を自分に課す必要があると思ったんです」。
30代や40代になったればこそ、私たちは実感するだろう。「ああ、もっとちゃんとやっておけばな」と。大切な時間を無駄に費やしてきたこと後悔する。そんな自分を「成長した」と評価したりする。笑止千万なのである。経験する前に、後悔する前に、自らタイムリミットを設定して修行してきたこの青年、当時まだ二十歳。それどころか……。
「だから長くとも半年では、その店での全部のことを覚えてましたよ。それで残りの半年は、恩返し。学んだお礼のために働くわけです」。

だから当然、店ではすごく仕事ができる人なわけだ。何しろ学びへの姿勢が違う。その店で働くのも、日々の生活ではなく数十年後の自分への投資。24歳のときにシェフになるのも、さもありなんなのである。で、またシェフになってからも、自らの修行のルールに則って平気でやめてしまう。シェフにやめられるとお店も困るだろうに。
「まあそうかもしれないですね。でも僕、お金に興味がないので、それを超えて惹きつける何かを提供してくれないと残れなかったですね」。
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