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2018.09.22

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天才パン職人・杉窪章匡が修業時代に身につけた「自分の攻略法」


OCEANS’s PEOPLE ―第二の人生を歩む男たち―
人生の道筋は1本ではない。志半ばで挫折したり、やりたいことを見つけたり。これまで歩んできた仕事を捨て、新たな活路を見いだした男たちの、志と背景、努力と苦悩の物語に耳を傾けよう。『365日』は、東京都渋谷区の私鉄沿線にある人気のパン屋さん。特筆すべきは「世界一である」という点だ。ギネスブックには載っていない。だが店主の杉窪章匡はサラリと言う。「僕のルールでは世界一です」。
杉窪章匡のインタビューを最初から読む

自分で考え続けてきた

「小学校1年生から学校教育を放棄しているので、人から教えてもらってないんです。入学した4月、算数の時間に同級生が“2たす3はいくつですか?”って当てられたんですよ。そしたらその子が“え〜っとえ〜っとえ〜っと……”ってずーっと言ってて。それで、もう“無理!”って。だって2たす3ですよ。指使ってもいいんですよ。でもやらない。すでに思考停止してるわけです。それを待つ心の広さは当時の僕にはなかった」。
小1の4月で学校教育を見切った。それはそれで極端な話だけれど、以降、「一切教科書も開かないし、ノートも取らなかった。夏休みの宿題もやらない」。人に教えを請うことをせず、自分で考えて問題を解決する姿勢を自ら身につけた。例えば小学4年生のときの話。
「“あいさつ運動をしましょう”っていう学校ぐるみのイベントがあったんです。そういうときに言うんですよね。パッと手を上げて“あいさつって強要されるもんじゃないと思います”って。で、理由を尋ねたら、みんながあいさつできてないからって言うんです。でも過去何年もやってきてるんですよ。その成果が全然出てない。それを繰り返すことに何の意味があるんですか? そんなにあいさつしてほしいなら、あいさつされるような人間になればいいんんじゃないですか?……そんな小4でした(笑)」。
「無理!」は義務教育のあいだ続いたけれど、侠気があって先生や上級生にばかり楯つくから不思議と人望は厚く、普通にクラス委員なんかを任されていた。そして高校にも一応進学。だが、1年のうちにケンカが元で放校になってしまう。
それが料理の道を志すきっかけ。だがそこでの判断の仕方は超クールでシビアなのであった。
「高校をやめると、将来の選択肢がグンと狭まるなあっていうのはわかったので……。そのとき、僕が思いついたのは4つ」。
(1) ヤクザ (2)美容師 (3)土建業 (4)料理人
「性格的にはヤクザが一番向いてたと思うんですけど、顔がこわくなかったからナメられると判断して除外。美容師は女の人の髪の毛触るでしょ? 自分は硬派のつもりだったから、そんなことはできないなと外しました。あとは二択。当時の勝手なイメージで、飲食のほうが独立しやすいと思ったので、選んだんです」。
それで、同級生が高校2年生になる年に辻調理師専門学校に進んだ。1年間基礎を学び、洋菓子店に就職。それはずっと先を見据えた決断だった。
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「和食の修行ってなんかすごく理不尽なイメージありません? だから最初はフレンチかなと思ったんですが、当時、学校で日本のフランス料理のトップの人のドキュメンタリーを見たんです。そしたら100℃に温めた皿を素手で持たせていた…… 意味がわからないですよね(笑)。フランス料理のトップがそれなら、洋のほうにも理不尽はあるんだろうなって思いました。そこで“独学しやすいジャンル”を考えて、お菓子を選んだんです」。
レストランに比べると単価が安いので、自分で食べ歩きして勉強ができる。さらにはオーダーを受けて作るのではなく、「作ってお客を待つ」業態なので、本気度があって時間をうまく使いさえすればすごいものを作ることができる! と判断したのだという。それが17歳のときの話だから、すごい。
もっというなら、この時点で老後の自分の在り方まで想定していた。なにしろ“義務”教育は完全スルー。十数年の人生において、いつもゼロから自分で考え決断し、回答してきたのだ。
「80歳頃の自分の姿を想定して、そこから逆算して、そうなるために今何をしておかないといけないかを考えたんです……でも、職人の家で、自分の身の振り方は自分で考えるよう教わってきたので、それが特殊なこととは思っていなかったんですね」。
生きていくためには当たり前のことなのである。専門学校でも、もちろん「無理!」な仲間はいただろう。イライラして付き合いきれない状況も訪れたに違いない。
「学生時代から、人に決められたことを理由もわからず自分がやることには反発してきましたけど、料理の道は自分で決めたことですからね。それを投げ出すようなら、ずっと自分が言ってきたことに嘘をつくことになります。“結局そんな人間なんだ”って思われてしまうので、そうならないように頑張りました。まあ結局は硬派なんで、男として恥ずかしくないことが重要だったんです」。
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