OCEANS’s PEOPLE ―第二の人生を歩む男たち―
人生の道筋は1本ではない。志半ばで挫折したり、やりたいことを見つけたり。これまで歩んできた仕事を捨て、新たな活路を見いだした男たちの、志と背景、努力と苦悩の物語に耳を傾けよう。
小林龍人(42歳)は「墨筆士」である。これは、彼が自ら考案した肩書きだ。
日々、書をしたためる。そこに自身の経験と哲学をすべて込め、磨き上げた技術を用いて作品へと昇華する。企業や店舗からロゴとして発注されることもあれば、パッションのままに生み出した書をアートとして販売することもある。どちらにせよ、書が小林の生業だ。墨筆士とは、既存の肩書きでいうなら、つまりは「書家」。だが彼は、自らをそう呼ぶことに違和感を持つ。
小さいころから継続的に書道教育を受けてきたわけではなくて、本格的に始めたのが30歳。そしてその少し前までは典型的な、いわゆるチャラ男。そんな小林の紆余曲折。
まずは、今の彼の仕事を見てみよう。
異色の書家が生み出すのは「龍神書アート」これが小林龍人の代表的な書である。
「龍」の文字に、龍の頭部が出現している。
小林は、自らの書を「龍神書アート」と呼び、漆黒の侍の装いで筆を握り、書を通じて日本文化を発信すべく、海外でも積極的にパフォーマンスを行っている。これまで書道ライヴパフォーマンスを行ったのは、ミラノ、ローマ、ドバイ、アブダビ、パリ、アゼルバイジャン、シャルジャの4カ国7都市。
2015年、ミラノ万博の際には、日本館の認定イベントとして行われた「JAPAN ART TASTING EXPO 2015 in MILANO」のオープニングセレモニーでライブパフォーマンスを敢行。同じ年、ドバイでは現地へのセブンイレブン初出店レセプションで筆を振るい、UAEの教育系イベントにおいて、大臣の面前で書をしたためた。
小林が外国で人気を得ているのは、よくわかる。何しろ侍なので。そしてその書からは時折、龍が姿を現す。それはもうカッコいいし、神秘的だ。もちろん小林本人も、「パフォーマンスとしてのキャッチーさ」をかなり追求はしているはずだ。だが、それはあくまでも見せ方。
筆は両手で握る。紙に対して垂直に力強く押し当てながら、ぐるぐると回転させつつ線を引く。回転された筆先は渦のような筆致を残し、かすれながらそれらが連なって線となる。線と線が組み合わさって文字になる。
「筆って、何百本もの動物の毛からできてるじゃないですか。その筆ならではの必然性を紙に残したいと思ったんです。ツルッとしたキレイなだけの線を書くなら、筆じゃなくてもいいですからね。どんなふうに書けば、僕の書なのか。表現するうえで、墨と筆、和紙のポテンシャルを最大限に引き出せる書き方はどうすればいいのか、それを考えに考え、さまざまなやり方を試した末に確立したんです」。
これも、よく見ると最後のはねの部分に龍が姿を現しているように見える。普通はこんな書き方はしない。完全なる自己流で見出した書法である。
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