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「たぶん書道ならなんとかなるだろう」と志した結果

現在42歳の小林が、本格的に書の道に進んだのは30歳のとき。……といっても、書家になろうと決意したわけではない。

当時、小林がやろうとしていたことに書が必要だったから。そして小学生のころ書道教室に通っていて六段までは取得していたから。

小学生時代の段位は、中学・高校以降の大人の書道になるとリセットされることが多いが、それも織り込み済みで「たぶん書道ならなんとかなるだろう」と、当時の小林は思ったのだ。

「全然、どうにもなりませんでしたけどね(笑)」。

日本人の多くは義務教育で書道をやる。ちょっと崩して、いい言葉を書いたりすることで“味がある”なんて言われることもある。だが、うわべだけのものはすぐにメッキが剥がれる。成人してから正当な書道教育を受けずにきた小林は、そうした“なんちゃって書道”にハマらぬよう研鑽してきた。

どうにもならなかった書道をいかにして進化させてきたのか、というお話は追い追い語っていくとして、ともかく、小林は今、全身全霊を込めて書に取り組んでいる。

「特にライブパフォーマンスなどがそうですが、実際書いている時間って10分〜20分程度だったりするんですね。でもその10分、20分さえあれば書けるものではないんです。僕は今42歳なんですが、これまで送ってきた人生の経験と会得してきた哲学をすべて、その時間に集約して出しているつもりです。書道って、手で書くものですが、手先で書くものではないと思っています」。



「まだ無名なので、これまでは知人からの紹介ベースで入ってくる仕事が多かったんですが、この1〜2年、状況が変わってきました。これは当然なんですが、知り合い以外から仕事や取材などのご連絡をいただくようになったんです」。

海外での活動やネットでの活動報告が少しずつ実を結び始めている。アジアのある国際的企業のウェブでのキャンペーンへの出演依頼が来たそうだ。だんだん作品を作る機会は増えてきている。ただ、1つひとつにじっくり取り組めるだけのペースは守れている。

「ペースを守れているのが幸い。これまで単に僕が経験してきたことだけでは、文字で何かを伝えるには圧倒的に非力です。だから、人前で書いたり人のために書いたりしていないときは、ちょっとカッコつけた言い方ですが(笑)、毎日、自分の魂を磨くことに時間を使っています」。


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