不動産の噂の真相 2017 Vol.11
2018.01.21
LIFE STYLE

リビングで勉強する子どもは頭が良くなるって、本当?

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不動産の噂の真相Vol.11
オーシャンズ世代にとって“避けては通れない未来”のひとつに、「住まいをどうするのか」というテーマがある。結婚し、子どもが生まれ、やがて巣立っていく――そんな人生の物語をつむぐ舞台=住まいについて、実は私たちはそこまで深い知識を持っていない。なんとなく周りの意見やメディアの見出しやウワサ話に踊らされてはいないだろうか。この連載では、元SUUMO新築マンション編集長が、世の中に出回っている“不動産のウワサ”について徹底検証。信じるも信じないも、あなた次第です。

東大生の過半数がリビング学習していた、というアンケート結果が根拠?

先日、大学センター試験が行われたが、2月初旬には多くの私立中高一貫校の入学試験が控えているなど、今はまさに受験シーズン真っただ中だ。この時期になるとなぜか思い出すのが「リビングで勉強すると子どもの頭が良くなる」説だ。ネットを見れば、この説を唱えるサイトがいくつも見つかるが、多くのサイトで説の根拠としているのが、東大生を対象にしたあるアンケート調査の結果だ。

その調査によると、アンケートに答えた東大生の過半数が、自宅で学習した主な場所をリビングと答えていて、自分の部屋と答えた学生は3割程度だったそうだ。この調査結果をもって、リビングで学習すれば子どもの頭が良くなる(はず)、と多くのサイトで主張されているわけだ。一見、もっともらしいが、リビング学習が多いのは、単なる現代のライフスタイルの傾向かもしれず、他の大学の学生に同じアンケートをとっても同様の結果になりはしないか? という疑問も浮かぶ。しかし、なぜか調査対象は東大生のみで、他大学の学生と比較したデータはない。したがって、この調査結果だけで「リビング学習をしたら頭が良くなる」と読み解くのは統計学的に無理があるし、強引に過ぎるのではないかと感じてしまう。

そんなわけで、筆者はリビング学習自体を否定するつもりはさらさらないが、リビング学習で頭が良くなるとする説には懐疑的だ。サイトによっては、わからないところをすぐに質問できるとか、親が近くにいると安心して勉強に集中できるとか、親と会話が増えてコミュニケーション力がつくとか、調査以外のリビング学習の利点も挙げられている。が、物理的に質問がしやすいこと以外は、やはり科学的な根拠や学力向上との因果関係が不明だ。質問のしやすさにしても、親が問いに正しく答えられなければ逆効果になりかねないわけで、正直、後付けの理屈に見えてしまう。

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子どもの学力向上は「どこで学習するか」よりも「どれだけ学習するか」

なぜ、このような非科学的な説があちらこちらで語られるのかといえば、「東大生はこうだ」という事実は、さまざまな商材の有力な販促ツールとして使えるからだ。実際に、この説が語られているサイトを検索すると、住宅や家具関連の企業のサイトがたくさん出てくる。子どもが学習しやすいリビングにリフォームしましょう、リビングで学習しやすい椅子やテーブル(学習机ではないところがミソ)はこれですよ、といった提案がそれらのサイトの落としどころである。東大生云々は、その入口にすぎない。

企業が学習に向く空間づくりや家具を提案すること自体は悪いことではないし、そこで提案されている内容も「なるほど」と思えるものは多い。しかし、だからと言って、学習に向くリビングや家具を手に入れれば、それだけで子どもの頭が良くなると思い込ませてしまうようなアプローチはいかがなものか、とも思う。当のアンケート調査は、あくまで東大生の過半がリビングで学習していたという事実を示しているだけで、その割合が他の大学の学生より高いとは証明されていないのだ。

筆者は教育の専門家ではないが、三十数年前の自身の受験や数年前に受験生の親となった経験から言うと、子供の学力向上には、「どこで学習するか」より「どれだけ学習するか」のほうがはるかに重要だと思う。これに異論がある人はまずいないはずだ。場所については、子供のやる気が出やすいのがリビングなら、リビングの環境を整えればいいし、個室のほうが集中できる子なら、個室を整えたほうが合理的である。そうした、子供のやる気や集中力を妨げず、学習が習慣づきやすい環境という意味で、勉強する場所は大事な要素には違いない。しかしだからこそ、子供の性格を考慮せず「リビングで学習すると頭が良くなる」と一元的に決めつける説に筆者は違和感を覚えるわけだ。

オーシャンズ世代には、子供が受験を迎えるのはもう少し先の人も多いだろうが、そのときに備えて、子供が自宅で学習しやすくなる場所を今から整えても決して早すぎることはない。家具の入れ替えにしろ、住み替えやリフォームにしろ、何もしないよりは、できることはやってあげたほうがいいと思う。ただし、場所を整えさえすれば子供の頭が良くなる、なんてうまい話はないと心得るべきだ。子供の教育がそんなに簡単なら、今頃世の中は秀才だらけになっているはずだが、現実はそうなってはいないのだから。

取材・文/山下伸介
1990年、株式会社リクルート入社。2005年より週刊誌「SUUMO新築マンション」の編集長を10年半務め、のべ2700冊の発刊に携わる。㈶住宅金融普及協会の住宅ローンアドバイザー運営委員も務めた(2005年~2014年)。2016年に独立し、住宅関連テーマの編集企画や執筆、セミナー講師などで活動中。

 

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