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2017.11.09

たべる

創業130年、最前線ワインを出す“ネオな”角打ち「相模屋本店」

「ネオ角打ち」という名の愉悦Vol.6
酒屋の店頭で飲むスタイルを「角打ち」と呼ぶ。「四角い升の角に口をつけて飲むから」「店の一角を仕切って立ち飲み席にするから」など名称の由来は諸説あるが、いずれにせよプロの酒飲みが集うイメージ。一般人には少々敷居が高い。しかし、最近では誰でも入りやすい新しいタイプの角打ちが続々と登場している。そんな「ネオ角打ち」の魅力に迫る連載です。
創業130年という老舗酒店。角打ちもある。いわゆる、昔ながらのスタイルかと思いきや、角打ちを始めたのは今年3月。雰囲気もお洒落だという。行くしかない。
乗り込んだのは東京メトロ銀座線。終点、浅草駅の手前、田原町駅で下車する。地上出口の脇にある露天の焼き鳥屋が気になったが、ここは立ち食い、あるいはテイクアウト専門のようだ。
「店頭での飲酒はご遠慮ください」とあった
徒歩3分、目指す「相模屋本店」に到着。今年3月のビル改装を機に角打ちスタイルを導入したらしい。
浅草駅からも徒歩5分と近い
浅草一帯は常にお祭りのような雰囲気で、気分も高まるのだ。
角打ちは15時オープンと志も高い
店内は17時の時点で早くも賑わっていた。外国人の姿も見える。
グラスを持ったイギリス人が今回の看板役者となる
オーナーは4代目の恩田健さん(52歳)。
「先代の親父が頑固者で、体を壊して入院してもすぐに帰ってきて店の真ん中にどっかりと座っているような人だったんです。3年前に他界してから、角打ちを含めて自由に動けるようになりました」
さっそく、オススメのお酒を聞く。
「うちはワインと日本酒がメインなんだけど、最近は体にもいい『ナチュール』という自然派ワインを推しています。以前はあまりオススメできなかったんですが、醸造技術が発達してかなり美味しくなりました。飲んでみますか?」
ワインは通常醸造段階で50~80mg/L程度の亜硫酸を添加するが、「ナチュール」は0mg/L〜20mg/Lしか使わないという。
「うーん、どれがいいかな」と吟味する恩田さん
店と倉庫を何度も行ったり来たりしつつ、ようやく2本のボトルが決まった。思い入れの強さが推し量られる。
イチ推しのナチュールワイン
左はTiberi La Torre Biancoで亜硫酸無添加。おお、何だこれは。柔らかい喉ごしでスッと入ってくる。さらに、右のBourgogne Aligotéは瓶詰め時に少量のみ。グラス価格はそれぞれ900円と1000円だ。
へえ、ワインにもこんな世界があるのかと感動していると、かなり仕上がった外国人が話しかけてきた。お国はイギリス、名前はユセフ。テーラーだという。
自作のスーツでポーズをキメる
「オクサンカワイイ」。どうやら、いっしょにいる小柄でかわいらしい日本人女性が奥さんのようだ。
明治神宮での挙式の様子を見せてくれた
連れの日本人男性に聞くと、ユセフと彼女が夫婦で自分はユセフの友人。もう一人のオトーサンは初対面とのこと。ちなみに、ユセフは『オクサンカワイイ』という日本語しか喋れないそうだ。
山口さん(右)とユセフ
ユセフいわく、「ヤマグチサン、ジャパニーズベストフレンド」。初めてここに来たというオトーサンもかなり出来上がっており、女性スタッフを相手に「小泉進次郎に説教した」というトークを展開している。
さらに、彼はカウンターに写真を並べ始めた。海上自衛隊に18年間いたらしい。
けっこう階級が高そうだ
カウンターの端にはいつの間にか女性グループも。
こちらも盛り上がっている
さて、美味しいワインの次は何をいただこうか。電気ブランのボトルを目ざとく見つけたが、恩田さんによれば「あれは角打ちでお出ししていないんですよ」。
浅草といえばコレだが残念
「日本酒行ってみますか。今は伊賀のお酒をプッシュ中なんです」という恩田さんの勧めに乗って「霧隠才蔵 純米生原酒」(400円)をオーダー。手作りのおつまみも美味しいらしいので、「銀杏と三つ葉のキッシュ」(300円)をいただこう。
おつまみも手が込んでいる
ほどなくして、お酒とキッシュが運ばれて来た。
この日は銀杏ではなく今が旬のムカゴだった
ムカゴは零余子と書く。いつかクイズ大会で即答してドヤ顔をキメたい漢字だ。そして、日本酒もキッシュも絶品だった。恩田さんが言う。
「お酒の品揃えは輸入ワインが約300アイテム、日本酒が約100アイテムです。今後は無農薬の日本酒に力を入れていきたいと思っています」
売り上げが多かったため、日本酒の蔵元から贈られた額
ふと店の外に目をやると、米俵を乗せた大八車がある。日本酒にちなんで米俵のディスプレイかと思ったが、地域のイベント用のものだった。
浅草の風景に馴染んでいた
生まれも育ちもここ浅草の恩田さんに「浅草ってどこか特別な感じがありますよね」と伝えたが、当の本人は「よく言われますが、僕にとっては普通の街なんですよね」。
我々は名のある街に物語を求めがちだが、長く住んでいる人にとっては単に“地元”というだけのようだ。
僕が美味しそうに食べているキッシュを見て、ユセフが女性スタッフに言った。「キッシュフォーミー」。
そして、「オクサンカワイイ」と言いながら大半を僕にくれた
ワイン、日本酒と来て、次はどうしようかと考えていると、「オリジナルのレモンサワーも好評ですよ」と恩田さん。それだ。
「どうぞ」
こちらはスタッフの岩倉久恵さん。ソムリエ兼料理人で、美味しいおつまみも無農薬の瀬戸内産レモンを使ったレモンサワーも彼女が開発したメニューなのだ。
何度目かの乾杯
相模屋本店は老舗の看板にあぐらをかかず、ナチュールワインなど最前線のお酒も紹介する“ネオな”角打ちだった。
見知らぬ女性に囲まれても「オクサンカワイイ」
さて、お会計だ。山口さんに「これから田原町で飲みますが、いかがですか?」と誘われたが、この幸せな感覚を忘れたくなかったので丁重に辞退した。近々、また乾杯しましょう。ユセフ、奥さんかわいかったよ。
取材・文/石原たきび
※記事アイキャッチ画像を修正しました。(2017年11月11日)


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