ブロックを組み立てるだけで「考えるチカラ」が身につくとは!?
今回取材したのは、小学校までの子どもたちに、レゴ(R)ブロックとプログラミングを通じて「考えるチカラ」を身につける授業を行っている『Kicks』(中央出版)という教室だ。ここでは、マサチューセッツ工科大学(MIT)とレゴ社の協力のもと開発した、レゴ(R)ブロックにモーターやセンサーを組み合わせたプログラミング学習キット『WeDo 2.0』を使い、独自に作成したカリキュラムでプログラミングの基礎を教えている。
……と、概要を説明すると、いかにも難しい授業を行っているようだが、辰巳先生(日吉教室)によれば、
「授業といっても、まずはテーマにあわせてブロックを組み立てることから始めるので、生徒さんにとっては、遊んでいる感覚とほぼ同様。子ども達自身が『学びたい』という気持ちになることが重要なんです」
とのことだ。
プログラミングの技術より大切なのは、やはりモノづくりへの理解
今回は特別に、小学校低学年向けレベルだという『スタンダード』クラスの授業を体験させてもらった。テーマは「せんぷうきをつくろう」である。
「はい、それでは最初に、せんぷうきの羽を組み立ててみましょう。まずは、センセイと同じようにブロックを選んで組み立ててくださいね」
当然ながら、普段は小さなお子さんを相手にしているだけに、オッサンに教えるのがいかにもやりにくそうな先生だが、ここは辛抱していただくしかない。ていうか扇風機の羽くらい、オッサンだからひとりでデキるもん!
「おや、そこはパーツを組み合わせる位置が違うんじゃないかな~?」
え? あ、そうなんですね(ぎゃふん)。先生の言うことを聞かず自分の判断で勝手に作っちゃダメですな、やっぱり。大人になっても、そういう人いますよねぇ(つまりワタクシ)。
とかなんとか、いきなり躓きつつも、なんとか扇風機の羽が完成。ここでいったん、製作から離れ、扇風機の羽を回転させるために重要な「ギア比」の授業が始まる。大きな歯車と小さな歯車を組み合わせると、大きな歯車より小さな歯車の方が早く回転する……って、理科の授業で習ったアレだ。
先に言っておくと、実はこの教室のカリキュラムは、「プログラミング」技術の習得だけに的を絞ったものではないという。
「『Kicks』のカリキュラムは、近年注目されている“STEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)教育”に則っている点が大きな特徴。レゴ(R)ブロックを使い、子ども達が能動的に学ぶことを主眼としているんです」
連載前半で紹介したソニーの『MESH』の場合もそうだったが、結局のところ「プログラム」は、あるモノを作る上で必要な“パーツ”でしかない。扇風機の場合で言えば、扇風機の羽を回すモーターを制御するプログラムを組むためには、モーターの力を羽に伝えるギアや、効率よく風を起こす羽の構造を、まず理解しなければ意味がない、というわけだ。
ちなみに『Kicks』の授業で利用している『WeDo2.0』のプログラムアプリも、パソコンを使ってはいるがソニーの『MESH』と同様に、基本的には機能を呼び出すアイコンを配置するだけでプログラムが組める簡単なもの。とはいえ、アイコンを並べながらプログラムの構造を視覚的に理解することで、より高度な言語を使ったプログラミングにも対応できる「考えるチカラ」を身につけることができるという。
自分で考え、行動する能力を養うことが何よりも大切
言われてみれば、確かにごもっとも。実際、体験した授業の中で最大の“難関”となったのは、先生の指示に従い完成させた扇風機の羽を、ちゃんとした風を起こせるように改良する工程だった。
確かにこのままでは、大した風は起こせない。そこで、実際の扇風機の羽の形状を思い出しながら、他のブロックを組み合わせていくわけだが……。
形状は似た感じなのに全然風が起こせなかったり、ブロックをつけすぎて扇風機が倒れてしまったり。
何度も試行錯誤を繰り返しながら“正解”を目指していく。
「といっても、こちらでハッキリとした“正解”を用意してあるわけではありません。答えを当てにいくのではなく、自分で納得できるゴールまで能動的にもっていくことが、いちばん大切ですからね。教室側はあくまでも、その補助をするスタンスなんです」
あぁ、なるほど。これが最近話題になっている「アクティブ・ラーニング(能動的学習)」なのか。思い起こせば、我々の世代で“勉強”といえば、ひたすら暗記してるか、傾向と対策とかいいつつ“当てる”ための知恵ばかり磨いてきたもの。
故に「数学できんが、なんで悪いとやぁ!!」みたいに『高校大パニック』チックなセリフを、今でもついうち吐いてしまいがちな我々なのだが、こんな感じで、今学んでいる事柄の関連性を総合的に理解できるような学び方をしていれば、プログラミングや最新テクノロジーに対しても、ここまでナーバスにならなかったのかなぁ、と。この点では、本当にイマドキの子どもたちが羨ましい限りですよ。
小学生でプレゼン能力まで! 奥深すぎる「プログラミング」教育の現場
辰巳先生によれば、『Kicks』のカリキュラムは理系を総合的に学ぶSTEM教育をベースとしているものの、学ぶ際の導入やゴールは、さらに広く設けているという。
「たとえばブロックを使ってベルトコンベヤーをつくるテーマの場合なら、ベルトコンベヤーが青果市場などで商品の運搬に利用されていることから、最初にベルトコンベヤーに載せる野菜や果物などの産地について学ぶ、といったように、テーマごとにさまざまな“入り口”を設けています」
この方針は、小さな子どもの興味がそもそも幅広いことに加え、自分たちが学んでいることと社会との関わりを、よりビビッドに理解してもらうためなんだそう。それもあって『Kicks』では、定期的に生徒たちの“発表会”も開催しており、そこでは単に完成した製作物の紹介だけではなく、何故このテーマを選んだか、製作物がどのように応用できるかといったことを発表するプレゼンテーションまで行うという。プレゼンにはパワーポイントを使う場合もあるというのだから、もはや「ビジネス」の授業といっても過言ではないレベル。こんな授業を、小学校低学年で学んじゃうんですよ、旦那さん!
ちなみに、今回体験した『スタンダード』クラスを含む『Kicks』のコースの先には、同じくレゴ社の『マインドストーム』という、いわば『WeDo2.0』の上級版にあたるキットを使った、ロボット製作を含む高度な技術を学ぶ『Crefus』コースも用意されているとのこと。
ここまで進むと、自分で迷路を脱出するロボットや、サッカーをするロボットなどが製作できるという。いやはやなんとも末恐ろしいというか、日本の未来は明るいというか、ますますオッサンの居場所がなくなりそうというか。想像を遥かに超える内容に驚愕した、子どものための「プログラミング」教育の現場。まったく同じ内容でもいいから、というか、むしろまったく同じ内容がいいので、オッサンのための教室があったら、ぜひ通ってみたいと思うのは、筆者だけではないはず、ですよね??
取材・文:石井敏郎
取材協力:Kicks日吉教室
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