Running Up-date Vol.17
2020.04.11
LEISURE

美容師トレイルランナーが、店を1カ月閉めてまでやりたかったこと

藤川英樹

「Running Up-Date」とは…

恵比寿にあるヘアサロン「ブロッコリー」のオーナー藤川英樹さんは、砂漠マラソンや100マイル(約160km)のトレイルランニングレースを走ってしまう、飛び抜けてコアなランナーだ。しかも髪型はドレッドヘア。

柔和な物腰からはちょっと想像できない、個性あふれるエネルギーが詰まっている。

山ランにハマった理由は「買い物中毒」から抜け出すため

学生時代は野球場で白球を追いかけ、20代で世界一周も体験し、帰国後30歳で「ブロッコリー」を立ち上げた。

「当時は多忙を極め、草野球をする機会も減ってしまい、気が付いたらお腹にお肉がついてきちゃって。そこでダイエットのために走り始めたのがきっかけです。最初は週に2、3回、5kmほどを走ってました。代々木上原の銭湯を目的地にして。飲みに行かない日のルーティンでしたね」。

藤川英樹

するするっと体重が落ちていき、その感覚が楽しかった。ちなみに美容業界は週末が忙しく、火曜日を休みとするパターンが多い。

「だから、走ることにハマっていっても、レースに出ようという発想にはなりませんでした。その代わり休日にバックパックを背負って、だんだんと長い距離を走るようになっていったのですが、東京の街中を走るのはある意味、危険なんですよ。だって魅力的なショップがたくさんあるじゃないですか。服やテーブルウェア、雑貨など、気が付けばバックパックが満杯になって、最後には両手に紙袋を持って走ってました」。

そんな買い物中毒の自分が嫌になりかけていたとき、カットに来ていた知人がトレイルランニングのことを教えてくれた。

「山にはお店がありませんから、誘惑もないですよね。『そりゃいいな』とギアを揃えて、高尾山に向かいました。自然の中を走る楽しさに、すぐハマりましたね。頭の中がクリアになるんですよ。

街中を走るといろいろと目移りしちゃって音楽を聴きながら走れないのですが、山の場合は音楽やポッドキャストを聴いて走ってます。『オーディブル』という朗読アプリがあって、だいたいそれを聴きながら走ってますね。おまけに登山口まで移動する電車の中でも本を読めます」。

藤川英樹

オーディブルはamazonによる朗読アプリで、サブスクリプション登録すれば月額で実質読み放題(聴き放題)となる。興味の幅が広い藤川さんには持ってこいなのだ。

「あとは仕事や家族のことを考えながら走ることが多いですね。山を走っていると不思議と名案が思いつくんですよ。途中で立ち止まってメモったりもします。でも、よくよく思い返してみると実は考えてるようでいて、無になれている時間が多いのかも。思考がポジティブになるのも良いですね」。

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チャレンジした経験が、働き方改革への大胆な一歩に

「逗子にトレイルランに行った帰り、コースをアテンドしてくれた地元の友人宅にお邪魔して『アタカマ砂漠マラソン』のテレビ番組を観たんです。

1日数十kmのコースを何日かかけて進むステージレースで、道中の食糧や寝具を背負って走る。しかも砂漠の中を進む。そんなチャレンジングすぎる大会なのですが、ゴールシーンで感動しちゃって。これはちょっと自分も出たいぞと、その場のノリで翌年のレースにエントリーしていました」。

そのバイタリティが凄い。

藤川英樹

「そこからはアスリート寄りになっていきました。ギアも機能性に目が行くようになり、トレーニングを積んでだんだんと自分が強くなっていくのがまた楽しいんです。今まで走れなかった登りが走れるようになったりするのは気持ち良いものです。

でも、わき目もふらずやっているわけではなくって、仲間とおしゃべりしながら走ったりしますよ。『ブロッコリー』の渋谷店を任せているスタッフは、もともと走りながら親交を深めて、その人間性でスカウトしたんですよ」。

こうして2018年、南米チリで行われた「アタカマ砂漠マラソン」へと参加し、見事完走を果たす。ブッ飛んでいるが、それ以上にブッ飛んでいるのは、3週間の休暇をとって砂漠マラソンへと参加した経験から、自身のサロンに長期休暇を導入した点だ。

藤川英樹
お客さんには長期休業の前後に予約をお願いすることで夏場にも仕事のピークができた。1カ月の休みで経験したことが会話のネタになって盛り上がる。多少は売り上げが落ちたが、得られるメリットも大!

「チャレンジ&エクスペリエンス制度、略してC&E制度と呼んでいますが、2019年の夏に1カ月ほどお店を閉めました。完全にクローズはせず、スタッフが順番に1カ月の休みを取るということも考えましたが、それだと自分が休んでいる間もサロンのことを気にしてしまうかなと思ったんですよね。ならば思い切って一斉休業したほうが業界に対してインパクトもあるだろうと。

C&E制度と名づけたのは、スタッフには長期休暇中に何でもいいいので、いつもと違う経験を積んでもらいたかったから。2週間の休みを2回だと、やれることが想像の範囲に収まってしまいそうじゃないですか。だから1カ月にしたのですが、なかにはラオスに行って象使いの研修を受けたスタッフもいます。

C&E明けのスタッフの成長度合いが凄かったので、2020年以降も続けていく予定です。それもこれも、自分が海外のレースに出るために休暇を取りたかったのがきっかけなんですけどね(笑)」。

レースでの経験ももちろんだが、長期休暇をとって何かに挑戦するということ自体をスタッフにも経験してもらいたい。ランナーならではのアップデートされたチャレンジングな働き方改革だ。

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仲間と切磋琢磨するチキンハート・ランニングクラブ

「今はトレイルランの長距離レースに真剣に取り組んでいます。ロードのフルマラソンくらいの距離だと脚の速い人にはとても敵いませんが、ウルトラトレイルでは思いや工夫次第で勝負できる。そこが面白いですね。まだまだ走りたい山やレースがたくさんあるので、好奇心に従って目標設定するようにしています」。

ランナーとしてレベルアップしたければ、走ることを習慣化することが大事になる。

藤川英樹
チームのオリジナルワッペン。

「ランニングチームを作りました。『チキンハート・ランニングチーム』といって、ビビリなやつらでもこんなことできるぜ! みたいなノリです。トレイルの100マイルレースに出てみたいねと、ちょっとしたきっかけで立ち上がったチームですが、やるときはやる、強くカッコよく本気で走る! そんな感じで切磋琢磨しています。

今は新型コロナウイルス感染症の影響でお休みしていますが、木曜の夜と日曜の朝には各自のペースで追い込みます。地元の代々木上原は坂がたくさんあって、鍛えるにはもってこいです」。

代々木上原には1.6kmの「アスファルトレイル」なるコースを作っていて、そこを走るのが定番コースでもある。ドレッドヘアで疾走するランナーは、一度見たらきっと忘れられない。身に着けるギアもこだわりが満載だ。続きは後編で。

藤川英樹

「Running Up-Date」
ランニングブームもひと昔まえ。体づくりのためと漫然と続けているランニングをアップデートすべく、ワンランク上のスタイルを持つ “人”と“モノ”をご紹介。街ランからロードレース、トレイルランまで、走ることは日常でできる冒険だ。 上に戻る

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RUNNER’S FILE 09
氏名:藤川英樹
年齢:38歳(1981年生まれ)
仕事:美容室「ブロッコリー」経営
走る頻度:毎日、朝晩どちらかで1~1.5時間ほど
記録:砂漠マラソン完走、100マイルトレイルレース上位入賞など

 

礒村真介(100miler)=取材・文 小澤達也=写真

# Running Up-Date# トレイルランニング# ブロッコリー# ランニング# 藤川英樹
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