Camp Gear Note Vol.25
2020.01.05
LEISURE

サーフタウンから生まれたクライミングパンツの金字塔「ロックス」

連載「Camp Gear Note」
90年代以上のブームといわれているアウトドア。次々に新しいギアも生まれ、ファンには堪らない状況になっている。でも、そんなギアに関してどれほど知っているだろうか? 人気ブランドの個性と歴史、看板モデルの扱い方まで、徹底的に掘り下げる。

マイク・グラハム

’70〜80年代に、とある岩場で撮影された1枚の写真。これをひと目見ただけで、今回紹介するブランドがわかった方は、相当なアウトドア通だろう。

次の一手を探る端正な顔立ちのクライマーの名は、マイク・グラハム。当時、世界中の岩登りフリークたちが、そのスタイルに憧れた先鋭的クライマー集団「ストーンマスターズ」の発起人であり、のちに画期的なクライミングウエアを発明することになる男である。

ロックス
股下のガゼットとウェービングベルトが特徴的。

クライミングパンツのマスターピース

クライマー仲間のあいだで、マイクは「グラミチ」というニックネームで呼ばれていた。ここまで説明すれば、お気づきの方も多いだろう。自身の愛称をブランド名に冠し、彼が手掛けた独特な形状のパンツは、まさにクライミングパンツの金字塔を打ち立てたと言っても過言ではない。岩場やキャンプなどのアウトドアシーンだけでなく、ストリートファッションにまで幅広く履かれている名作であることは周知の事実だ。

今回は、このブランドを一旦離れたマイクが2000年に新たに立ち上げ、現在製品開発に力を注いでいるウエアブランド「ROKX(ロックス)」を紹介していこう。

マイク・グラハム
ヨセミテの大岩壁に挑む、若き日のマイク。
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サーファーからロッククライマーへ

マイクは、西海岸でも有数のビーチタウンであるニューポートビーチで育ち、毎日のように仲間とサーフィンを楽しむ少年時代を送っていた。しかし、クライミングに出会った日から、彼の足は山へと向き始める。

当時、クライミングは現在ほどメジャーな存在ではなく、流通するギアやブランドも少なかった時代だ。しかし、手先が器用で、創意工夫が大好きな少年であった彼にとってはなんの問題もなかった。クライミングに必要なギアは、なんでも自作してしまっていたからだ。

ヨセミテ国立公園
カリフォルニアのヨセミテ国立公園は、今も昔もクライマーたちの聖地。

クライミングを始めたマイク少年が、岩登りの聖地「ヨセミテ」に、どっぷりと入り浸るようになるまでに、それほど時間はかからなかった。なんとか高校を卒業すると、クライミングバム(仕事に就かず、通年クライミングばかりして過ごしている人のこと)としての生活を始めた。

そして、同世代の仲間たちとのグループ「ストーンマスターズ」を結成する。彼らは、登攀道具に頼らない独自のスタイル(岩を傷つけず自然に優しいが、とても危険!)で新たな難ルートを次々と切り拓き、あっという間に世界中に名を知られる存在へと成長していった。

ロックス
シーズン中のヨセミテには、テントで暮らすクライミングバムたちが溢れる。
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クライミングバムとしての生活手段

クライマーとしての名声は得たものの、仕事もせず、クライミングにばかり明け暮れていたので、当然彼らの財布の中身はいつも心許なかった。そこで、マイクは持ち前の器用さを生かし、クライミング仲間たちが欲しがる道具やウエアを作っては売り、そのお金を生活費や遠征費に充てていた。

ヨセミテで知り合ったイヴォン・シュイナード(パタゴニアの創業者)に見出され、ギア開発用の工房を与えられていたという事実は、その腕前とアイデアがいかに突出していたかがよくわかるエピソードだろう。

ロックス
「ストーンマスターズ」は、白いパンツ×バンダナスタイルがお約束。

ポータレッジ(簡易ベッドのようなもの)やハーネスなど、当時からさまざまなギアを手掛けたが、なかでも特に仲間うちからの需要が高かったのがクライミングパンツ。当時のクライマーは、軍の払い下げの真っ白なマリンパンツ(夏の直射日光を浴びても暑くなりにくい)やリーバイスのデニム(とにかく丈夫!)が定番のスタイルだった。

ロックス
クライマーたちは、登りやすい機能性はもちろん、スタイルにもとことんこだわった。

しかし、マイクが思いついたアイデアは、それらの機能性と耐久性を併せ持ちつつ、さらに動きやすさも備えたもの。さらには、クライミング時の服装のまま、夜には友人のパーティーやバーに顔を出しても違和感のない、汎用性の高さも兼ね備えたスタイリッシュなクライミングパンツだった。

ロックス
画期的なデザインのパンツがクライミング時の大胆なムーブを可能にする。
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シーンを選ばない機能性と汎用性

彼が考え出した最大の発明は、股下に設けられたガゼットだろう。特殊な形状のパネルを股下に配置することにより、クライミング特有の大きく足を上げたり、股を開くような動きの際にも突っ張りを感じない造りに仕上がっている。

また、縫製部分に負荷がかかりづらくなるため、耐久性が高まり、さらにはデザイン的なアクセントにもなるという副産物まで生み出すことになった。このパネルを構成するパーツ数や形状は、デザインや素材の特徴に合わせて少しずつ異なるそうだ。

ロックス
菱形に見えるパーツが、件のガゼット部分。

こうして生み出された抜群に動きやすいパンツは、クライミングのみならず、さまざまなアウトドアアクティビティに使われ、カジュアルウェアとして街でも市民権を得るようになっていった。

「岩場で履けないようなものではなく、常に本物のクライマーたちからも欲され続けるものを作りたい」。

開発から40年近くたった今も、フィールドでもバーでも着られるウェアという当時の基本コンセプトは変わらない。クライマーたちの必要があり続ける限り、マイクとロックスは新たなアイデアと共にシーンを切り拓き続けていくのだ。

ロックス
カリフォルニアにある自社ラボで、今日もマイクは新たなアイデアを形にし続けている。

[問い合わせ]
エスシーティージャパン
03-5436-6389
www.rokxusa.jp

池田 圭=取材・文 矢島慎一=写真
# Camp Gear Note# クライミングパンツ# グラミチ# ロックス
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