37.5歳からの愉悦 Vol.197
2021.06.10
FOOD&DRINK

三軒茶屋のビストロで、俳人の看板娘が季節に合わせた一句を教えてくれた

「看板娘という名の愉悦」とは……

駅から少し離れた住宅街にも名店は存在する。今回訪れたのはこちらの一軒だ。

西太子堂駅から徒歩7分、三軒茶屋駅から徒歩10分の場所にあるのは隠れ家的なビストロ「コシラエ(COSHIRAE)」。

隠れ家的なビストロ「COSHIRAE(コシラエ)」。
本格的な肉料理やヘルシーな無農薬野菜などを味わえる。

店内には看板娘の姿。

よろしくお願いします。

さっそくお酒を注文したいところだが、現在はノンアル営業。

本来はこだわりのオーガニックワインやクラフトビールが飲める。

看板娘にお勧めのノンアルメニューを聞こう。

「自家製のシロップで作ったオリジナルドリンクがものすごく美味しいですよ」。

おお、これは期待できそう。

中でも特に人気だという「自家製ジンジャーエール」(600円)を注文した。.

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看板娘、登場

「お待たせしました〜」。

佐藤文香(あやか)さん、36歳。なんとプロの俳人なのだ。俳句の話はあとで伺うとしてフードメニューも拝見。

「プロの作るナポリタン」(1000円)も食べてみたいが……。

10種類以上の旬の野菜が摂れる「サラダランチ」(950円)にしよう。

キマった。

ジンジャーエールも胃に優しい味。野菜たちは石川県能登半島の赤土野菜を契約農家「NOTO高農園」から直接取り寄せている。肥料に籾殻や米ぬかなどを入れて栽培したものだそうだ。

そして、俳人・佐藤さんである。

早稲田大学を卒業後、すぐに第一句集『海藻標本』(ふらんす堂)を出版。さらに、2014年には第二句集『君に目があり見開かれ』(港の人)を出版した。

こちらは、その第二句集だ。

冒頭のページにはタイトルにもなった「柚子の花君に目があり見開かれ」という印象的な句が載っている。なぜ柚子の花なんですか?

「恋人同士が見つめ合うという表現はよくされますよね。でも、私は『見つめ合う』という言葉で表される以前の情景を描きたいなと」。

こちらが柚子の花。

白くて見開いている感じがその情景に重なったという。現在は第三句集の出版に向けてラストスパート中で、6月末には刊行予定だ。

「去年の秋にこのお店で感じた1シーンを書いた句も入れました。『トレビス』という赤紫の葉野菜があって、その葉っぱをちぎっているときはぼんやりと考えごとをしています」。

「トレビスちぎり今年の夏が思い出せず」。

神戸市で生まれた佐藤さんは「何でもやりたがる子供」だったそうだ。

「週3回、女子サッカーに通って、ほかにも水泳、書道、ピアノと、週6日は習い事に行っていました」。

小3の頃の佐藤さん(中央)。

俳句に出会ったのはいつですか?

「小学校4、5年ぐらいの国語の教科書です。与謝蕪村の『夏河を越すうれしさよ手に草履』という句を見て、いいなと思った記憶があります」。

小6で俳句王国・愛媛県松山市に引っ越す。

「愛媛に来て、夏休みの宿題で俳句を3句と作りなさいと言われました。俳句が作るものだと知らなくてびっくりしましたが、提出したら入賞。『電車待ち駅のホームに燕の子』という、ほんとそのままの句です(笑)」。

さらに、中学時代に俳句にハマり、高校時代は俳句甲子園で「夕立の一粒源氏物語」が個人最優秀句となった。

中央が夏井いつきさんで、佐藤さんはその右隣。
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大学入学を機に上京したのちも句作を続ける。

「何度も引っ越しましたが、中でも高円寺への思い入れがいちばん強いです。高円寺は何の目的もなく歩いていても浮かない(笑)」。

20代のころから通っていて、今もときどき覗く飲食店は路地裏にある「ワインやさん なつこ屋」さん。ワインが素晴らしく、料理が美味しく、店主のなっちゃんとも仲がいいという。

今はノンアルに切り替えて、週末ランチ営業中。ベトナム料理などを提供している。

「あ、ここもすごく美味しくて、賄いを目当てに働いているようなものです(笑)」。

賄いのレベルを超えた料理が毎回出る。

そんな賄いを作るのはオーナーシェフの志田真澄さん(42歳)。

佐藤さんの印象はいかがですか?

「飲食店なので、飲んで食べるのが大好きという点がまず最高。俳句の話も含めてトークが上手なので、一緒に働いていて楽しい。隣にいてくれるとモチベーションが上がりますね」。

ここで、佐藤さんが強調する。

「看板娘の連載ですが、うちの『看板』は完全に志田さん。人柄も面白いし、好奇心が旺盛なので、俳句の話を振ってもちゃんと返ってきます」。

そんな佐藤さんが最近ハマっているのが「宝塚」。

「私は人の顔を眺めるのも、人の歌を聴くのも、人が身体で表現しているのを見るのも好き。それを同時に鑑賞できるのが宝塚なんです。明後日の花組公演も行ってきます(笑)」。

これは以前鑑賞した星組公演。

お店は常連客や周囲の人々にも恵まれている。コロナ禍でごはんソースとパスタソースを真空パックで冷凍したものを販売しようと思い立った志田さん。

機械の購入資金はクラウドファンディングで集めた。

プロの味が家でも楽しめるという嬉しい通販だ。

全6種類で単品は800円、ピラフ・パスタ付きは1000円。

お会計をしようとしたタイミングで、壁に掛かっている数枚の絵が気になった。志田さんに「ずいぶん写実的な絵ですね」言うと、「あれはカメラマンの友達が撮った写真なんです」。

ほかにもピーマンやバナナなどの作品もあった。

というわけで、佐藤さんお会計を。その前に読者へのメッセージもお願いしますね。

最新句集のなかから、季節に合わせた一句を選んでくれました。

【取材協力】
COSHIRAE(コシラエ)
住所:東京都世田谷区三軒茶屋2-43-20 錦ビル1F
電話:03-6453-4577
www.coshirae.net

「看板娘という名の愉悦」Vol.154
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
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石原たきび=取材・文

# COSHIRAE# 三軒茶屋# 看板娘
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