37.5歳からの愉悦 Vol.181
2021.02.04
FOOD&DRINK

昼前から飲める池袋のウイスキーバーで、看板娘の解説に膝を打った

「看板娘という名の愉悦」とは……

何も予定がない休日は、明るいうちからお酒が飲みたくなる。しかし、家でひとり飲みは寂しい。そんなときに打ってつけの店を見つけてしまった。

池袋西口の西一番街。

駅から徒歩2分で到着したのは「ジェイズ・バー(J’s Bar)」。

「J's Bar(ジェイズ・バー)」。
雑居ビルの2階にある。

こちらは、常時200種類の希少なシングルモルトウイスキーを楽しめる大人のバーだ。なんと、午前11時半からオープンしている。

先客たちの向こうに看板娘の姿も見えた。

あとで聞いたところ、女性客がグラスで飲んでいるのは「インペリアル 30年」。ボトル1本7万7000円の高級銘柄だが、「今週限定の特別価格だから慌てて来た」という。

一方、男性客が嗜んでいるのは滋賀県の長浜蒸留所が作るクラフトウイスキー、「アマハガン(AMAHAGAN)」。日本最小の蒸留所がコロナ禍支援のために出した特別ボトルで、“AMAHAGAN”を逆から読むと「ナガハマ」になる。

ボトルの裏面には蒸留所スタッフによる寄せ書き。

もともとタバコが吸える店だったが、昨春に発令された受動喫煙防止条例によって喫煙難民が大量に発生することを案じ、昼からの営業に乗り出した。

葉巻は1本600円から2500円程度。

さて、何をいただこうか。ウイスキーに関してはまったく疎いと告げると、看板娘いわく「ショットで飲み比べができる『3杯セット』はいかがですか」。

おお、そちらでお願いします。

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看板娘、登場

「お待たせしました〜」。

こちらは、昼営業のホープとして雇われた京子さん(27歳)。ウイスキー専門の立ち飲みバーでアルバイトをしたのがきっかけで、ウイスキーにハマったという。

今日着ているニットのセーターもウイスキーブランド「ブラック&ホワイト」が出しているゴルフウェアだ。

15mlずつ楽しめる「3杯セット」(2350円)と「牡蠣のスモーク」(750円)。

京子さんの解説がすごかった。

「左から日本最南端のマルス津貫蒸留所で造られた『津貫』、ラフロイグなどとはちょっと違うピート感が楽しめる『ベンロマック』、香り高いオロロソのシェリー樽で熟成させた『ラガヴーリン』です」。

「牡蠣のスモーク」もウイスキーによく合う。

京子さんは「鬱っぽくなって」高校を中退している。その後、家でイラストを描きまくる引きこもり期間を経てホームヘルパーの資格を取得。派遣介護の仕事に就いた。

「感情がまったく読み取れない知的障害の女性がいたんですよ。22、3歳かな。でも、あるとき彼女の似顔絵を描いてプレゼントしたらすごく嬉しそうな表情を浮かべたんです。初めて心が通った瞬間で、あれは嬉しかったですね」。

派遣介護を退職後は、さまざまなアルバイトを経験する。数年前に閉店したが、新宿の「モモンガ」というラーメン店もそのひとつ。

人生で初めて考案したスパイシーラーメンも人気だった。

当時からお酒は好きだったが、とくにこだわりはなくチューハイなどを好んで飲んでいた。しかし、1年半ほど前に先述のウイスキー専門の立ち飲みバーで働いたことを機にウイスキーの世界にどっぷりと浸かる。部屋にウイスキー専用棚も作った。

この3倍以上のボトルがあるという。

「関連書籍を片っ端から読んで、勉強ノートとテイスティングノートも付けるようになりました」。

現在も増え続けている“勉強の証”。

オーナーの蓮村 元さん(56歳)は言う。

「車のセールスマンは、車について詳しいよりお客さんのことに詳しいほうが売れるんですよ。この世界も同じで、ウイスキーに関する知識も重要だけど、その前にお客さんの要望に興味を持つことが大事。面接してみて、彼女はそれができる素質があるなと思いました」。

20年以上、ウイスキーバーを営んできた大先輩からの評。
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蓮村さんはウイスキー文化を広めるために始まった「秩父ウイスキー祭」の実行委員も務めている。専用グラスを購入すれば、首都圏の加盟店で1杯だけ無料で飲めるという試みだ。

今シーズンはコロナ禍のため、オンラインで開催。

なお、この日は、知人とともにこの店を訪れた京子さんを「お酒が好きみたいだし、面白そうな子だなと思って」スカウトした隼也さん(32歳)もいた。余談だが、彼が行きつけの「カウチ(kauti)」という池袋の美容室に京子さんも通うようになった。

同じ男性美容師に髪を切ってもらっている2人。

オーナーも「じつは僕もそうなんです」と言うと、女性客が「え、蓮村さん、美容室に行ってるんですか?」と大ウケしていた。

ちなみに、この店にあるいちばん高価なウイスキーは何かと聞いてみた。答えは「マッカラン1995」。

先ほどのテイスティンググラスで1杯8000円だという。

そろそろお会計をしようかとなったが、昼営業の開始とともにメニューに淹れたてのコーヒーが加わったことを思い出した。締めのコーヒー、いいではないか。1杯ください。

豆は京都の有名店、「王田珈琲専門店」から取り寄せている。

18時までは1杯455円、それ以降は500円となる。

なお、「王田珈琲専門店」は通常の約3倍の豆を使ってネルドリップ方式で淹れる店だ。

「お店としても個人的にもお世話になっている」京子さんは昨年7月に訪れた。

コーヒー専門店だが、ウイスキーや日本酒などもたくさん置いているという。

バーにしか見えない店内の写真。

最後に京子さんの近況を聞いた。

「あ、家で水餃子を作っていたとき、突然鍋のフタが爆発したんです。原因は不明ですが、ヒビが入っていたんでしょうか。とにかく、めちゃくちゃ焦りました」。

水餃子とともに廃棄することに。

というわけで、ウイスキーの品揃えもさることながら、スタッフの接客も見事なお店でした。京子さん、読者へのメッセージをお願いします。

「酔う」ためではなく「愉しむ」ためのウイスキーを提供してくれます。

 

【取材協力】
ジェイズ・バー(J’s Bar)
住所:東京都豊島区西池袋1-34-5 青井ビル2F
電話番号:03-3984-8773
https://twitter.com/malt_samurai

「看板娘という名の愉悦」Vol.138
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
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石原たきび=取材・文

# J's Bar# ウイスキー# 看板娘
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