37.5歳からの愉悦 Vol.177
2021.01.07
FOOD&DRINK

代田橋のコーヒースタンドで、看板娘から「那須の音楽シーンが熱い」と聞いた

「看板娘という名の愉悦」とは……

明けましたね。新年一発目はコーヒーにハマってお店を出した看板娘です。

代田橋の沖縄バル「酒里城」を取材したのは2年半ほど前。そこにショベルカーが突っ込んだという話をオーナーから聞いた。隣の建物の解体工事中にダンプカーから滑り落ちたらしい。

あらあら……。

店舗の修繕を経て無事に再オープンしたが、同時に「日中は特別なコーヒーとスパイスカレーを出す別形態の店になる」「コーヒー泡盛が最高に美味い」という情報も得た。

行かざるを得ない。

駅前は相変わらず昭和感漂う雰囲気。

甲州街道の歩道橋を渡って“沖縄タウン”に入る。歩くこと数分で目指す「コーヒーショップ ホープ(Coffeeshop HOPE)」に着いた。

「Coffeeshop HOPE」
夜は沖縄バル、11時〜16時はコーヒーショップ。
こちらの看板が目印。

訪れたのは14時。店内を覗くと看板娘と常連客らしき女性の姿が見えた。

新たな昼飲みスポットに認定したい。

カウンター席に座り、メニューを拝見。

よし、お目当ての「コーヒー泡盛」(600円)がある。

さっそく注文すると、看板娘いわく「かしこまりました。コーヒー豆は泡盛に合わせやすい『ブラジル』にしますね」。

泡盛は「瑞泉」。沖縄の首里城・瑞泉門のほとりに沸く泉の名にちなんで名付けられたものだ。

豆は世界水準を誇る蔵前の「LEAVES COFFEE ROASTERS」から仕入れている。

もともとコーヒーは好きだったが、専門店を始めるに当たって仕入れ先を検討する。

さまざまな焙煎所の豆を試飲した結果、「こんなコーヒー飲んだことない」と感動した「リーブス コーヒー ロースターズ(LEAVES COFFEE ROASTERS)」に決めた。

アーモンドチョコレート、ヘーゼルナッツ、ここに泡盛が加わる。

「焙煎士の方が本当に素晴らしくて、私の師匠です」と言っていた。

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看板娘、登場

「お待たせしました〜」。

「コーヒーは1日に5杯以上飲みます」という店主の可奈子さん(34歳)。東京・錦糸町で生まれ育った下町っ子である。

レモンが“映える”「レモングリーンカレー」も出てきた。

じわじわと来る旨辛のうえに、レモンの酸味で味変が楽しめる。

そもそも、この一角がなぜ“沖縄タウン”と言われるようになったんですか?

「10数年前に始めた町おこしみたいです。町内会に沖縄出身の人がひとりいたらしくて。最近は古着屋さんやカルチャー系の本屋さんもできました。そういう若いオーナーさんと昔から住んでいるおじいちゃん、おばあちゃんの交流も生まれています」。

正式名称は「和泉名店街」。

前回の記事でも掲載した酒屋店頭のストリートアートも健在だった。

「あれは酒屋さんのおじいちゃんが描いているんですよ。すごく上手だから、新作が出ると子供たちが喜んでいます」。

満を持して『鬼滅の刃』も登場しそうだ。
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可奈子さん、じつはかなり自由奔放な女の子だった。

「小学生のときから夜遊びをしていました。といっても、友達と公園に集まる程度ですけど。あと、中学生のときは知り合いのママがやっているスナックを手伝ったり。まあまあ楽しかったけど、両国に近いこともあって下っ端のお相撲さんが来て威張るのがちょっと嫌でしたね(笑)」。

中学生時代はバレー部。朝から学校の授業に出て、部活でバレーの練習をして、夜はスナック。眠いのでタクシーで登校することも多かったという。

また、下町といえばもんじゃ。「もんじゃ屋は見つけたら基本入る」とのこと。人生のベスト・オブ・モンジャは錦糸町を拠点に展開する「玉金」チェーンだ。

たこ焼きとセットでいただきます。

元々ボブディランが好きでフォークから音楽に入り、パンクに移行した。音楽好きが高じて中学生のときから友達とバンドを始め、高校生のときにサンフランシスコに留学。様々な音楽に触れ、帰国後は六本木のクラブ通いにハマる。

その後もパンク熱は変わらず、週末はライブハウスに通い詰めた。大好きな「STIFF LITTLE FINGERS」が来日する際は必ず行っていたという。

そんな可奈子さん。今掛かっているジャズっぽくて心地いいBGMは何ですか?

「いいでしょ。『John Nakayama Trio』です。わざわざ遠出してライブを観に行きます。今、那須の音楽シーンが熱いんですよ」。

バンドリーダーは茨城県笠間市在住のジャズピアニスト、中山豪人。

そんな話を聞いていると、外から「おーい、これ持ってきたよ」という常連さんの声。クイーンズ伊勢丹で買ったパンの差し入れだ。

向かいのマンションの大家さんらしい。

続けて入ってきた紳士。なんと花束を持っている。

「わー、ありがとうございます! 私、お花が大好きなのでめっちゃ嬉しい」。

紳士によれば「新宿駅構内のいちばんいい店で買ったんだよ。花屋は何十年と見てきたけど、あそこがいちばんいいからね」。

地域に愛されるコーヒーショップ。コーヒー泡盛もグリーンカレーも美味しかったが、ここはやはりコーヒーで締めたい。可奈子さん、お勧めのコーヒーをください。

「ホットならコロンビアが美味しいです。クリーミーで、ストーンフルーツやラ・フランスの甘みもあります」。

丁寧に淹れているが……。

「すみません、もう一回作り直していいですか。ちょっと納得がいかなくて」。

おお、こだわりがすごい。

こちらが可奈子さん渾身の一杯。

「コーヒーという概念を覆すような味を作りたい」と言う可奈子さん。黒糖をかじりながら飲むと豆の味わいがさらに広がる。丸みのある木の器は香りを逃がさないための仕様。ガラスと違って口当たりもソフトだ。

感動しているところで、お隣の女性客がお会計。「よくいらっしゃるんですか?」と聞くと「はい、私、この人の妹です。お母さんもよく来ます」。おっと。

愛媛の実家から送られてきたというみかんをいただきました。

パンクガールが追い求める究極のコーヒー、美味しゅうございました。最後に読者へのメッセージをお願いします。

コーヒー愛が紡ぐ街のコミュニティー。

 

【取材協力】
Coffeeshop HOPE
住所:東京都杉並区和泉1-2-7
電話番号:03-6379-4137
www.facebook.com/Coffeeshop-HOPE-108551484100337/

「看板娘という名の愉悦」Vol.134
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
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石原たきび=取材・文

# Coffeeshop HOPE# コーヒー# 看板娘
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