『教養としてのワイン』著者がオススメする3000円以下の安旨ワイン3本
ビジネス書として異色のベストセラーとなった『世界のビジネスエリートが身につける 教養としてのワイン』。

その著者である渡辺順子さんはさまざまな高級ワインを的確に解説することで有名だが、実はこのコロナ禍で「自宅で楽しめる手頃なワインを色々と試している」という情報をキャッチ!
さっそく渡辺さんに“教養としての安旨ワイン”を聞いた。
話を聞いたのは……![]()

①アパルトヘイトにも負けないガッツの結晶

渡辺さんがまず挙げたのは、南アフリカの白ワイン。
「ワインというのは、生産者の人柄や気持ちが本当によく出ます。生産者のヌツィキ・ビエラさんは、今も人種間格差が残る南アフリカの貧しい家庭に育ちましたが、黒人女性として初めて自らのワインブランドを確立することに成功しました。何度かお会いしたことがありますが、とにかくガッツのある造り手です」。
アパルトヘイトの時代、ワインは「白人の酒」だった。造るのも飲むのも白人という文化のなか、自身のブランドを立ち上げるのは決して簡単ではなかったはずだ。
そんな苦境から誕生したワイン、果たしてそのお味は。
「フレッシュでフルーティな風味と、苦味の効いたシャープな味わいが特徴的で、どんな料理とも相性がいいですね。例えばお刺身に合わせるワインというのはなかなか難しいのですが、これは食べ物の臭みを取ってくれるので、お刺身どころか納豆にだってペアリングできてしまうんです」。
日本の納豆と南アフリカの白ワインのマリアージュなど、誰が想像しただろうか。
ちなみに「アスリナ」は、彼女が敬愛する祖母の名前に由来する。差別と貧困に立ち向かう祖母の意思は彼女にも受け継がれ、ワインというカタチで結晶化し、新しい時代を日々切り拓いている。
「外出自粛で気分がふさぎがち今こそ、ガッツが詰まったこのワインを飲んで元気をもらいましょう!」。
南アフリカの悲しい歴史と明るい未来に想いを寄せながらグラスを傾けたい、まさに教養が詰まった1本だ。
②自転車で畑に通う農夫たちの自信作

続いては、気候風土に恵まれた新世界のワイン産地、チリの赤ワイン。
コノスルが造るワインは価格帯もリーズナブルで、なかにはコンビニで入手できるものも。特に渡辺さんがオススメするのはオーガニックラインで、なんとコチラは1000円程度で購入可能。
「ワインを飲み過ぎて翌日に頭が痛くなる方がいますが、私の感覚では、オーガニックなものは次の日に残りにくい。このエチケットに描かれる自転車は、毎日ブドウ畑まで自転車で通う農夫たちのシンボルです」。
オーガニックな畑の周りで車やトラックが排気ガスを垂れ流すなんて言語道断……そう言わんばかりのアツイ想いが感じられるではないか。
「ワインの味ですが、赤系果実と黒系果実の凝縮した旨味がタンニンときれいに調和し、絶妙にブレンドされています。とんかつや肉じゃがといった、がっつり系の家庭料理と相性が抜群です」。
ほかにもピノ・ノワール、マルベック、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランといったブドウ品種がオーガニックで展開されている。
「それぞれ、ブドウ本来の味がとてもわかりやすく素直に造られているので、ブラインドテイスティングの練習にもピッタリです。ブドウの特徴を感じるにはもってこいのシリーズですから、ワインの勉強をしたいと思ったら、入門編としてこのシリーズのワインを飲み比べてみるのをオススメします」。
ブドウ品種の飲み比べをリーズナブルにお試しできる、まさに新たな教養を手に入れるチャンスにもなりうるワインである。
③スッキリ飲みやすいドイツ・ロゼ

ラストは、ドイツのファルツ地方で造られるロゼワイン。
「一般的なワインのアルコール度数は13%〜15%が主流ですが、ドイツワインは11%程度とアルコール度数が低めで、非常に飲みやすいんです」。
生産地によって、アルコール度数も異なる。これも知っておきたい教養のひとつである。
渡辺さんは、「日本ではロゼワイン=安くて甘い、という誤解が広がっていますが、私はロゼをもっと楽しんでもらいたいと思っています」と、その胸の内を明かす。
「このロゼは、酸や骨格がしっかりしていて、香りの強い中華との相性が良いんです。中華といっても高級である必要はありません。餃子やラーメンなど、庶民的なメニューによく合います。旨みたっぷりなのに飲み心地はスッキリしているので、口のなかの脂っこさを流してくれます」。
華やかなイメージの強いロゼワインに、まさかガッツリ系中華を合わるなんて。どうやら今一度、ロゼワインを見つめ直したほうがよさそうだ。
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ちなみに、渡辺さんにご自宅でのワインの嗜み方をうかがうと、なんとも意外な答えが返ってきた。
「自宅ではお料理に合わせてワインを選びますが、氷を入れたりレモンを搾ったり、ソーダ水で割ったりもします」。
えっ! そんなことしたら渡辺さんから「ナンセンス!」と怒られそうだけど……。
「『教養としてのワイン』という本を出した身ではありますが、“白には魚、赤にはお肉”みたいなルールなんて無視して、好きなようにワインを楽しめばいいんです!(笑)。もっと気軽に楽しんで、そのなかで『ワインを本格的に勉強したい』と思う人が増えてくれたら嬉しいです」。
数々の高級ワインに向き合ってきたスペシャリストだからこその説得力である。
渡辺さんが日本代表を務める世界有数のワインオークション会社「ザッキーズ」では、昨今の時勢を受け、オンラインでのオークションも開催する予定だという。投資やコレクションとしてのワインの世界を、ちょっと垣間見てみるのも楽しそうだ。
自宅時間の増加に比例して増える、家飲み時間。そのパフォーマンスを効率良く上げるため、名だたる業界人から愛飲する安旨ワインをヒアリング。ルールは3000円以下! それだけだ。上に戻る
七瀬あい=取材・文