2020.02.15
FOOD&DRINK

アツアツは飛び切り燗? 燗酒に向く銘柄は? 知って楽しい日本酒の世界

HOTする酒●キンキンに冷えたビールが夏の醍醐味なら、冬には冬のそれがある。晩冬の寒ささえ風情として楽しめて、心も身体も温める、HOTする酒。

「日本酒」というと、キリッと冷えた冷酒をイメージすることが多いだろう。でも、そんなイメージが定着したのは割と最近のこと。実は、江戸時代まで春夏秋冬を問わず“熱燗”がスタンダードだったのだ。

でも、今は居酒屋のメニューでも「熱燗」と書かれているだけで銘柄は伏せられていたり、温めて飲む日本酒の美味しさは、イマイチ広まっていない気がする。せっかくの冬、五臓六腑に染み渡る燗酒を知りたい。

……ということで、今回は「銀座 久保田」を訪問。熱燗の真髄について「SAKE DIPLOMA」の資格を持つ、朝日酒造の遠藤憲悟さんに話をうかがった。

朝日酒造の遠藤憲悟さん。日本ソムリエ協会が認定する日本酒の資格「SAKE DIPLOMA」の資格も持つ。

ぬる燗、上燗、飛び切り燗……“お燗”にも多くの種類あり!

──熱燗向きのお酒って、具体的にどういう味の日本酒がいいのでしょう?

遠藤 まず、ひと言で“熱燗”と言っても、温度によって呼称が違います。燗酒は5℃刻みで名前がついていて、35℃は「人肌燗(ひとはだかん)」、40℃は「ぬる燗」、45℃は「上燗(じょうかん)」、50℃は「熱燗」、55℃は「飛び切り燗」と呼ばれています。

一般的に、日本酒の旨味やお米由来の甘さがいちばん感じられる温度は40度前後だと言われています。40度以上にしていくと、旨味部分は平行線を辿りますがアルコール感は強まっていき、ピリピリとした辛さを感じるようになってきます。

──燗酒を飲むと酔いが回るのが早い気がしますが、それもアルコール感が強くなるから?

遠藤 アルコールは体温程度の温度になってから体に吸収される、という特徴があります。

冷たいお酒をグビグビと飲んで、あとから一気にフラフラになる、ということがありますよね? それは身体がアルコールを吸収するのに時間がかかるからなんです。

そうした観点で見れば、燗酒は吸収が早く、すぐに酔った感はあるかもしれません。ですが、そのぶんブレーキもかかりますし、体に優しいとも言えます。

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「燗酒」に向かない日本酒。その特徴は?

アルコール度数が高めの日本酒や香りが華やかな日本酒はキリッと冷やして飲むのが美味いのだ。

──なるほど。では、改めて熱燗向きの日本酒はどんなのでしょう?

遠藤 前提として、もともと熱燗で常飲されていた飲み物ですので、基本的にはどれも美味しいです。

──……なかなか教えてくれませんね(笑)。

遠藤 いえ、そういうわけではないのですが(笑)。日本酒は基本的に熱燗で美味しく飲めるお酒なので、先に“不向き”とされている種類を覚えておくといいかもしれません。

一般的に、香りが華やかなタイプや、アルコール度数が高いタイプ、それと加熱処理をしていない“生酒”が燗酒に向かないとされています。

温かくすると甘味や香りの成分がより引き立つようになるので、味わいのバランスが崩れて、甘ったるくなり過ぎてしまうことがあるんですね。

──なるほど。例えば「久保田」でいうとどのお酒ですか?

遠藤 「久保田 千寿 吟醸生原酒」という年に1回発売の、搾りたてフレッシュな味が楽しめる生酒なんかはそうですね。アルコール度数が19度と高く、冷たいままでも味わいにパンチがあります。

だからこそ、温度を上げるとさらにアルコールを強く感じ、エグくなってしまうという声がある。

このお酒は、生原酒の中でも後味がキレイなタイプなので、飲む30分ほど前に冷蔵庫から冷凍庫に移し、キンキンに冷やした状態で飲むのがおすすめです。また、度数が高いので、氷を入れてロックで飲むのもいいですよ。

──燗酒と真逆なんですね。

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「燗酒」向きの日本酒の特徴は意外にも……

「久保田 碧寿 山廃仕込 純米大吟醸」は45℃で飲むことが公式で勧められている。

──……では、三度目の正直。熱燗向きの日本酒は?

遠藤 もっとも燗酒向きな日本酒は、うちで言うと山廃仕込(やまはいしこみ) 純米大吟醸の「久保田 碧寿(へきじゅ)」ですね。しっかりとしたコクや旨味が楽しめるのが特徴になります。

──え!? 純米大吟醸を燗酒に?

遠藤 そうですね。純米大吟醸はキレイな飲み口のものが多く、値段も安いわけではないので、燗酒にするのはもったいないと思われがちです。

しかし、温めたときに旨味が感じやすく、味わいも広がることから「お燗にして美味しい純米大吟醸」というコンセプトで作られました。

温度を上げるだけで日本酒の味そのものが変わったように感じるから不思議だ。

──この山廃仕込ってなんですか?

遠藤 山廃仕込は、伝統的な醸造方法のひとつです。お酒の元となる酒母に、空気中から自然の乳酸菌を取り込み、酵母を育てる製法です。アミノ酸などの旨味成分が残りやすいため、しっかりとした味の日本酒になります。

ちょっとこの「久保田 碧寿」を、常温と40℃のぬる燗で、飲んでみてください。

──いただきます。(ゴクッ……)常温も美味しいですが、熱燗はとても旨味を感じます。

遠藤 そうなんです。常温と比べると、コクや旨味、甘味が強調されますよね。ちなみに、温度を上げていくとアルコールの辛さが出てくるので、すっきりシャープな感じになっていきます。

山廃や生酛(きもと)造りのお酒は、乳酸、アミノ酸などの旨味をしっかり感じられるので、一般的に燗酒に向くと言われています。

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日本酒の味は多種多様。朝日酒造の燗酒を飲み比べ!

辛口の熱燗はいわゆる「THE 酒のつまみ」と相性ピッタリ。

──山廃以外で燗酒におすすめの日本酒はありますか?

遠藤 一般的に、辛口の本醸造は合うと思います。久保田でいえば特別本醸造酒の「久保田 百寿」でしょうか。

精米歩合が60%で、お米の旨味成分が残っているのが特徴です。後味はすっきり辛口で、久保田ではいちばんベーシックなお酒。温めることで、より辛口に感じられるので、辛口好きにはオススメです。合わせる料理は、塩辛などの「THE 酒のつまみ」と相性がいいと思います。さ、ひと口どうぞ。

──(グビッ……)うん、辛口で、どんな料理にも合いそう!

遠藤 もし「久保田 百寿」を気に入ってくださったのであれば、新潟の地元で長年親しまれている普通酒の「朝日山 百寿盃」も飲んでみますか?

──地元銘柄ですね。

遠藤 精米歩合をほかのお酒よりも抑えているので、かなりしっかり目のお米のコクと複雑性を感じられるお酒です。常温で飲んでいただいても「久保田 百寿」とはまた違った味わいになっています。これは、55℃〜60℃の飛び切り燗で、うんと辛さを味わって飲んでもらうのがおすすめですね。

まだ昼の12時台だというのに、徐々に顔が赤くなってきた遠藤さん。

──これ、毎日飲んでも飽きなさそうです。

遠藤 このお酒は旨味が強いので飲みごたえはあるのですが、一方で旨味や甘みを雑味と捉える方もいます。そんなときは温めることで雑味がマスキングされ、飲み口がすっきりします。

──驚いたのは、同じ銘柄でも温度によって味が思いっきり変化したことです。

遠藤 日本酒は、温度によって印象がガラリと変わります。一度熱燗にしたものを常温に戻してから飲む「燗冷まし」という飲み方もあって、ただ常温で飲むのとまた違った味わいが楽しめます。

温かい日本酒と冷たい日本酒、どっちが好きか……ではなく、どの日本酒をどの温度で飲むのが好きか、という視点で考えると、日本酒の楽しみ方はグッと広がるはずです。

──この季節はどんどん熱燗を試したいところですね。

遠藤  私は入社後の数年間、新潟でお酒造りをしていました。冬はとても寒かったのですが、夜勤明けに、自宅に帰ってお風呂に入り、寝る前に熱々の燗酒を飲むと、程よく酔って、身体も温まってすぐに眠れましたよ。

日本酒造りは寒い地域で活発ですが、そうした地域では温めて日本酒を飲む人も多いです。全国の皆さんにも試してほしいですね。

日本酒は正解のない、自由なお酒です。生原酒も一般的には燗酒には向きませんが、この燗酒が甘くて好きという方もいます。ぜひ、いろいろな燗酒にチャレンジして、自分の好みを見つけてください。

最後のほうはもうスゴいことになった。

 

[取材協力]
朝日酒造
www.asahi-shuzo.co.jp

横尾有紀=取材・文

# HOTする酒# 久保田# 日本酒
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