37.5歳からの愉悦 Vol.130
2020.01.30
FOOD&DRINK

目黒のクラフトビアバーで、看板娘が日々記すマル秘メモに膝を打った

看板娘という名の愉悦 Vol.101
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。

東京は坂の街である。歴史的由緒を持つ坂も多く、目黒駅西口から伸びる権之助坂もそのひとつ。年貢軽減を直訴したために処刑された名主・菅沼権之助を慕う農民たちが、新たに開かれた坂にその名を冠したとする説もある。

権之助坂
権之助坂を下ること3分。

今回訪れたのはクラフトビールと創作料理が売りの「ANOTHER8」。

外観
こちらの看板が目印。

建物は元ガレージをリノベーションしたものだという。

外観
レジに看板娘の姿も見える。

この日は2015年の醸造開始以来、全国のクラフトビールファンを虜にしている京都醸造との「タップ(ビールの注ぎ口)テイクオーバー(乗っ取る)」が行われていた。

メニュー
常時8つあるタップがすべて京都醸造のクラフトビールに。

看板娘に「さっぱり系と重たい系、どちらがお好みですか?」と聞かれた。重たい系でお願いします。

「それなら、麦のコクがしっかりと感じられる3か4がオススメです。甘さがあって舌にビリビリ来る飲み口の7やコーヒーっぽい味わいの8も美味しいですよ」。

説明が的確である。4をいただきましょう。「強くあれ」という名前も良い。

リンサー
「リンサー」というマシンでグラスを洗浄。

注ぐ前にグラスを洗浄、冷却し、さらに水滴を付けることで泡立ちを抑える効果があるそうだ。

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看板娘、登場

看板娘
「お待たせしました〜」。

こちらは小松 蓮さん(23歳)。佐賀県唐津市出身で、牡蠣とタチウオが好きという魚介ガールだ。麻布のフレンチレストランでパティシエとして働いていたが、接客にも興味があったため、ここANOTHER8を運営する会社に転職。2017年4月からオープニングスタッフとして働いている。

フードはどうしようか。

食事メニュー
京都風のおばんざいメニュー。

3種盛りで「タコと菜の花の酢味噌がけ」をオーダー。残りの2種はシェフのお任せとなる。「合鴨ロースのうま煮」と「南瓜のたいたん 牛そぼろ餡掛け」が運ばれてきた。

ビールとおばんざい
「強くあれ」(中・850円)とおばんざい3種盛り(1050円)が揃った。

「強くあれ」は8.5%という高いアルコール度数にも関わらず、キレのあるすっきりとした後味が癖になる。タコ、合鴨、南瓜という食材との相性もバッチリだ。

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さて、蓮さんは唐津市内でもかなり田舎のエリアで伸び伸びと育った。

実家
田んぼのはるか向こうに隣家が見える。

「九州の人はナマコが大好きで、米俵の形をしていることから『ご飯に困らないように』という縁起物でもあります。めちゃめちゃ美味しいうえに、消化もいいんですよね」。

なまこ
さっと洗ったナマコにポン酢をかけていただきます。

蓮さんに最近のトピックを聞くと「入院したこと」。昨年の11月末に急性限局性小腸炎を発症し、12月半ばまで病院暮らしだったそうだ。

「腹痛と発熱で最初は町のクリニックに行ったんですが、『うちじゃあ対応できない』と言われて大きい病院に緊急搬送されました。人生初の救急車体験です」。

入院中に食べていたのは味気のない病人食。ロビーに置いてある『dancyu』の寿司特集を食い入るように眺めながら、美味しい食事のイメージを膨らませる日々だった。

「固形物はなくて、メインディッシュは重湯。退院が近づいた日に3分粥が出てきたときは感動して泣きました(笑)」。

病院食
こちらが夢にまで見たお米入りのグルメ。

ちなみに、パティシエ時代の仕事場はクローズドキッチン。蓮さんにとって、この店は初の接客業だ。

「クラフトビールは決して安くはないお値段なので、満足して帰ってほしいんです。仕事や家庭の合間にある癒しの時間を過ごしていただければと思っています」。

見た目の特徴やプロフィールを記したメモからも彼女の本気度が窺える。これは膝を打たざるを得ない。

メモ
ひとりで来るガブリエルはにっこりスマイルのスペイン系アメリカ人。

店長の鈴木智彦さん(38歳)は、蓮さんについてこう評する。

「働き出して3カ月ぐらいで、磨けば光る原石だなと感じました。サービスやオペレーションはまだまだですが、看板娘としてはもう完成形でしょう」。

メディアへの顔出しを断り続けてきた鈴木さんだが、今回は特別に撮影OKをいただいた。

店長
これも看板娘効果か。
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夜が更けるにつれて店内は多くのビール好きで賑わってくる。本格的なクラフトビールが飲めるとあって、客の半数以上が外国人の日も少なくない。

店内
ビールがもたらす国際交流。

常連客に蓮さんのいいところを聞くと、「笑顔、人懐っこさ、あとはお酒が強いところ」。

看板娘
「7番は舌がビリビリしますよね」「発泡日本酒みたい」というやりとり。

次々に来店する客に、蓮さんは入り口のドアを開けて応接する。

「〇〇さん! やだー、嬉しい! 久しぶりにお会いできて元気が出ました!」。

こんな出迎え方は完成形の看板娘にしかできない。

看板娘
一人ひとりに心のこもった言葉をかける。

おばんざいを食べ終わったので、大人気だという「鶏カラボール」(700円)を注文。こちらも絶品だった。

からあげ
ボール状の唐揚げを割るとジューシーな鶏肉が登場。

なお、店内にはDJブースもあり、定期的にDJイベントを行っている。

DJブース
2月24日(月)はFantastic Plastic Machineの田中知之氏が登場。

クラフトビール、創作料理、そして看板娘の神対応を堪能した。では、お会計をお願いします。

看板娘
退店時もドアを開けて見送ってくれるスタイル。

読者へのメッセージも書いてもらいましたよ。

メッセージ
インスタのハッシュタグで蓮さんのいろんな表情を見られます。

【取材協力】
ANOTHER8
住所:東京都目黒区下目黒1-2-18 横河ビルヂング101
電話:03-6417-9158
https://sakahachi.jp/another8/

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石原たきび=取材・文

# ANOTHER8# クラフトビール# 目黒# 看板娘
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