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2017.09.03

たべる

僕にとってレモンサワーは「本質的な楽しみ方を受け継いでくれているお酒」なんです

レモンサワーという名の愉悦 vol.8
大人になった今だからこそ、味わうことができる愉悦。ウェブオーシャンズではこれまで、スナック、ホッピーをテーマに、お酒に関する奥深い嗜みのノウハウを紹介してきた。そして「レモンサワー」。どこの店にもあるが、そのシンプルさゆえに嗜みの奥深さは計り知れない。連載は全6回の予定だったが、レモンサワーの魅力は尽きない。“おかわり”ののち、今度こそラストだ。
「レモンサワーという名の愉悦」を最初から読む
最終回を飾るのは歌人の佐々木あららさん(43歳)。歌人というのは短歌を作る人で、短歌とは5・7・5・7・7のアレである。
「レモンサワーと言っていいのかわからないんですが、美味しい1杯があるんです」と案内されたのは「瀬戸海人(せとうみんちゅ) 阿佐ヶ谷店」。
駅南口から徒歩2分、川端通沿いにある
あららさんは枡野浩一氏に師事し、「外に出すのが愛なのか中で出すのが愛なのか迷って出した」などのエロ短歌で知られる気鋭の歌人だ。
「どうぞどうぞ」
「ここは沖縄・広島居酒屋なんですよ。最近はカープが強いので全体的に盛り上がっていますね」
沖縄と広島のマリアージュ
ちなみに、この店に「レモンサワー」はない。「レモンシュワシュワ」なのだ。
レモンもマンゴーもシュワシュワ
注文してさっそく出てきたレモンサワーならぬ「レモンシュワシュワ」は酸味と甘さとシュワシュワ感のハーモニー。あららさんが「一晩で10杯ぐらい飲むこともあります」というだけあって、病みつきになる味だ。
「レモンシュワシュワ」(450円+税)
店長いわく、「ざく切りのレモンを水飴に2、3日漬け込んでいます」とのこと。
あららさんに「シュワシュワで一首作ってくださいよ」と無茶振りすると「レがついて酔えてシュワシュワしてすっぱい『恋愛』以外のあれをください」と返ってきた。さすがである。
鋭い速球を投げ込むカープの野村投手
「ちなみに、カープが勝つとBGMが応援歌に変わってお好み焼きが100円になるんですよ。だから、試合終了の21時ぐらいを狙ってよく来ます」。彼自身は楽天ファンだという。「もともとはヤクルト時代の野村監督が好きで。最後の最後にコマを1枚残しておく詰将棋みたいな采配に惚れました」。
この日は2対1で巨人に勝った
あららさんは子どもの頃から割りものの「ハイサワー」をジュース代わりに飲んでいたため、レモンサワーへの移行はスムーズだった。郷愁を誘う味なのだ。「とにかくオッサンのお酒というイメージが強いですね。グレープフルーツサワーとかになると、オシャレすぎてちょっと身構えます」。
エルドレッドが本当に来店したのだろうか
次に頼んだのは「カープシュワシュワ」。タバスコ入りのトマトサワーだ。カープファンにはたまらないだろう。
「こちらも何杯でもイケる飲みやすさですよ」
ドリンクもフードも広島と沖縄のものを中心に種類が多いうえにどれも美味しい。誰を連れてきても満足してもらえそうな店だ。
海ぶどう、島豆腐の肉味噌麻婆、広島菜の漬物
お酒の失敗談も面白かった。20代の頃は電車をよく乗り過ごしたそうで、目覚めたら高尾駅というパターンもしょっちゅうだったという。
「その頃も阿佐ヶ谷に住んでいてタクシーで帰るお金もないわけです。でも、高尾駅近くの銭湯の横にいい溝があって、その中で朝まで寝ていました。お気に入りの『マイ溝』ですね」
その心境を詠んだ短歌
最終回を飾るにふさわしい、いい話だ。さて、あららさん、あなたにとってレモンサワーとは何ですか?
「僕が飲み始めたころから変わらずにあるスタンダードな『古典』。敷居が低くて『ただ飲むだけ』という本質的な楽しみ方を現代に受け継いでくれているお酒ですね」
「古典の顔をしていないし気軽に楽しめるけれど、本質的には先人が続けてきたものを現代に受け継ぐ」というのは、彼が短歌を作るときのこだわりとまったく同じだという。レモンサワーの本質がつかめてきたところで連載最終回を締めよう。
取材・文/石原たきび
【取材協力】
佐々木あらら公式ブログ「中で出すのが愛なのか
瀬戸海人 阿佐ヶ谷店


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