リーボックの隠れたマスターピース「クラブ シー」35周年で傑作続々
’80年代のテニスシューズ戦線を牽引したモデル、それがリーボックのクラブ シーだ。
インスタポンプフューリーというスターがいたおかげで陽の当たりにくい存在だったが、実は今見ても全方位的に完成度の高いモデルである。
そして35周年を迎えた今年、一気に花咲く気配が濃厚だ。

ノバク・ジョコビッチ、ラファエル・ナダル、ロジャー・フェデラー、そして錦織 圭。現在の男子テニスを牽引する面々もすごいけれど、1980年代後半から90年代前半に青春を送った人ならば、あの時代の選手たちこそスターだと鼻息を荒くすることだろう。
ボリス・ベッカー、アンドレ・アガシ、マイケル・チャン──その名を聞いただけで胸を締めつけられるような思いを抱く人は、オーシャンズ世代なら少なくないはずだ。
さながらスポーツメーカーの代理戦争の様相を呈していたのも見どころだった。ベッカーはディアドラが、アガシはナイキがサポートしていた。そしてアジアにルーツをもつ男子選手として唯一のグランドスラムの覇者、マイケル・チャンが履いていたのがリーボックのコートビクトリーポンプである。
その名のとおり、あのポンプテクノロジーを搭載したモデルで、ミッドソールにはハニカム構造のヘキサライトが埋め込まれていた。

フィットネスシューズに続く柱として、リーボックはテニスシューズに注力した。
1984年にテニスシューズの第一弾となるフェイズワンプロを完成させると、リーボックは矢継ぎ早に新作をリリースした。翌年リリースされたクラブ シーはフェイズワンプロから数えて早くも7代目。この時期、いかにリーボックがテニスシューズにご執心だったかがわかろうというものだ。
そうして誕生したクラブ シーはクラシック(リーボックカジュアルカテゴリー)を代表する一足として今年、35周年を迎えた(ちなみにクラシックというカテゴリーが誕生したのは’92年のこと。往年の名作をカテゴライズするというその考え方を具現したのは、どのブランドよりも早かった)。
ガーメントレザー(天然皮革)、つま先のブレを防ぐ頑丈なトウキャップ・コンストラクション、ピボットを配したラバーソール、アーチサポートを組み込んだポリウレタンのカップインソール。シンプルに見えて、当時最先端のスペックで構成されたクラブ シーは無数のテニスプレーヤーの足元を飾った。
クラブ シーはリーボックの隠れたマスターピースだ。インスタポンプフューリーが長嶋茂雄とすれば、自らを月見草と評した野村克也がクラブ シーである。
とうとう発掘された最後の原石

アディダスのスタンスミス、スーパースター、ナイキのエア フォース 1。身も蓋もない言い方をしてしまうと、クラブ シーは数あるコートシューズのなかで後塵を拝していた。しかし逆の見方をするならば、まだ発掘されていない原石だった。
風向きが変わったのは2017年。とっかかりはヴァイナル アーカイブとのコラボレーションである。ヴァイナル アーカイブは大北幸平が2007年に立ち上げた知る人ぞ知るブランドだ。
ブラックのワントーンにライニングでグレイを効かせたカラーパレット、そこに配した’80年代リーボックのロゴマークとヴァイナル アーカイブのシーズンテーマ“ディア・ホーン”のグラフィック。プレミアムレザーとスエードという上質な素材使いと相まって、そのモデルはクールのひと言だった。
リーボックと大北のタッグは今年、エイティワンへと結実している。エイティワンはアジアパシフィックを中心に展開されるスペシャルコレクションで、コンセプトは“俯瞰した日本を、世界に向けて発信する”。そのネーミングは日本のダイヤルコード「+81」にちなんでいる。
リーボックはスニーカーギークがざわついたこのタイミングで、カナダのカルチャーマガジンとして絶大な人気を誇るスニーズ マガジンや目利きを唸らせるドメスティック・ブランド、ブラックアイパッチなどとのコラボレーション・モデルを立て続けに投入した。
そして10月、ついに登場したのがグラミー賞を受賞したラッパー、カーディ・Bの名を冠したモデルである。

長年クラシックカテゴリーのマーケティングを担当する滝正芳さんはすっかりクラブ シーに入れあげているという。
「滝=クラシックレザー(ランニングシューズの名作)というほど、僕はクラシックレザーに惚れ込んできた人間です。
死ぬまでにひとつのスニーカーしか履けないといわれたら何を選びますか?というインタビューに対し『クラシックレザー』と即答した人間ですが(笑)、そんな僕が最近はクラブ シーばかり履いています」。
テニスシューズ特有の優れたフィット感とグリップ力は折り紙付きで、「ローテクスニーカーとしては最高峰の履き心地です」と滝さんは言う。
「デザインとしての完成度も高く、ミニマルなアッパーデザイン×サイドオパンケで仕上げるソール・コンストラクションからは時代を超えるポテンシャルを感じます。往時のヨーロッパのスナップをみると、お洒落な人がこぞって履いていました。
ヨーロッパで特に親しまれたモデルなんですが、80年代後半には日本でも品薄に。ニセモノを陳列する税関のガラスケースにクラブ シーが並んでいたと聞いたこともあります」。
[問い合わせ]
リーボック アディダスお客様窓口
0570-033-033
竹川 圭=取材・文