電気自動車の不安を解決!? BMW i3が示す“レンジ・エクステンダー”という答え
ヨーロッパや中国に倣い、日本も2030年代までに新車販売を電動車のみとすることを検討し始めた。
ヨーロッパメーカーからも、2020年一気に電気自動車が日本へとやって来たが、それより6年も早い、2014年4月から日本でのデリバリーが始まったのが「BMW i3」だ。

新型バッテリーに次々と切り替わってきた6年間

電気自動車には航続距離や充電時間、充電設備の数などさまざまな課題が残されているが、 熟成したBMW i3にひとつの“解”をがあると言えるかもしれない。
まずは現在の熟成に至る道のりを見ていこう。
全長4010×全幅1775×全高1550mmという街乗りサイズの4人乗り電気自動車であるBMW i3は、2013年の年末から予約が始まり、2014年4月から納車が始まった。
最高出力170ps/最大トルク250N・mを発揮するモーターをボディ後端に置き、後輪を駆動させる。さらに“発電機”として使用するための2気筒650ccエンジンを積む「レンジ・エクステンダー」装備モデルも用意された。
搭載されたリチウムイオン電池の総電力量は22kWh。1回の充電で約130kmから160kmまで、省電力の走行モードで走れば約180kmまで走行可能とした。さらにリーフにはないレンジ・エクステンダーを使えば約300kmまで走れる。

航続距離に影響する重量増を抑えるために、基本骨格には一般的なスチールやアルミではなく、量産車としては初となる軽量かつ強靱な炭素繊維強化プラスチックが用いられた。
またバッテリーが床下に敷かれるため重心が低く、前後重量配分はBMWらしく50:50。電気自動車特有の力強い加速力やBMWお得意の後輪駆動ということもあり、ワインディングも楽しめる電気自動車だ。

とはいえ、航続距離がライバルの数字と比べて見劣りしていたのも事実。そこで2016年9月に新たに開発された総電力量33kWhのバッテリーを搭載。これにより1回の充電で約390km(JC08モード)まで走ることが可能になった。これにレンジ・エクステンダーを備えると走行可能距離は511kmになる。
また2018年1月には内外装デザインの変更とともに、新車登録から8年または走行距離10万kmまでバッテリーの無償修理や、主要項目のメンテナンス費が3年間無料というサービスも付くようになった。
さらに、間もなくその役目を終えようというモデル末期に入った2019年2月に、新型のバッテリーが搭載された。総電力量は42kWhにアップし、1回の充電での航続距離は、新しい基準であるWLTCモードで360km、レンジ・エクステンダー装備車は466km。
ちなみに現行型日産リーフの62kWhバッテリーモデルは458km、40kWhバッテリーモデルは322km(いずれもWLTCモード)。「ホンダe」が259km/283km(WLTCモード)、プジョーは「e-208」が340kmでSUV 「e-2008」が385km(欧州WLTCモード)。このように最新のライバルたちと比べても、航続距離に関しては十分対抗できる。
黎明期のひとつの解が、レンジ・エクステンダー
「十分対抗できる」としたが、それはバッテリーのみ搭載するBMW i3の話。当初から用意されている「レンジ・エクステンダー装備車」であれば、さらに約100km走行距離が延びる。
充電ゼロからでも約100kmあれば、たいてい最寄りの充電施設までたどり着くことができるし、高速道路のSA/PAの充電設備が別の電気自動車で“渋滞”していれば、「もうひとつ先のSA/PAまで行ってみようか」ということもできる。

最悪最寄りに充電設備がなくても、ガソリンスタンドがあれば、レンジ・エクステンダー用に給油して再び約100km走る事が可能だ。
つまり、ほかの電気自動車と比べて「途中で電欠になって止まってしまう」という不安がグッと抑えられるのだ。
実はこの「不安を抑えられる」という心理的要素が、冒頭に挙げたさまざまな課題が残る電気自動車の黎明期において、とても重要なのだ。
電気自動車(フィアット「パンダ」に三菱「i-MiEV」のパワートレインを移植した改造車)に乗る筆者としては、バッテリーのメーターの残量が減るのは、ガソリンの残量が減るのより恐怖を感じる。

電気自動車でバッテリー残量が1/4まで減るとそわそわする。一方でガソリンが1/4まで減ったとしても、そこまで怖くない。経験上あとどれくらい走れるか、頭の中でシミュレーションする余裕がある。
だいたい、ガソリンスタンドというのは高速道路なら50km間隔を目安に設置されていることも知っているし、最悪降りたらたいていインターチェンジ近くにある。
筆者の電気自動車も、1年も乗り続ければ上記のような不安が薄らいでいく。あとどれくらい走れるか、どこに充電設備があるかに関して、経験が積まれていくからだ。
とはいえ、たかが1年の経験だから、「万が一」への恐怖心は、免許を取って以来数十年乗り続けているガソリン車とはやはりわけが違う。それに不安が解消されても、充電時間や充電待ちといった課題が解決されるわけでもない。

というわけで、ガソリンを給油して発電し、電気自動車として走れる「レンジ・エクステンダー」。直訳すると「距離延伸機」。
走行距離を伸ばせる、充電設備がなくても走れるといった実用メリットだけでなく、何とかなるという心理的な安心感ももたらせてくれる。ところが2020年登場の電気自動車に、レンジ・エクステンダーを備えるモデルはない。
さらに電気自動車を作るメーカーとしても、初めての市販車となれば、想定外のことが起こってもおかしくないのだが、その点BMWには一日ならぬ6年の長がある。
2020年12月に、BMWは新しいSUVタイプの電気自動車「iX」の予約注文の受付を開始した。納車は2021年秋以降が予定されている。おそらくiXが登場する前に、BMW i3はその役目を終えるのであろう。
レンジ・エクステンダー搭載車が今後も登場するのか定かではないが、熟成したBMW i3のレンジ・エクステンダー装備車は、現状の電気自動車の中でも特別な魅力を放つ1台だと言えるはずだ。
「味わい深い、熟成車」とは……
ひとつの車種でも、マイナーチェンジはもちろん、実は毎年のように小さな改良が施されている車は多い。ひとつのモデルの後期ともなるとその“熟成”はかなり進んで、ワインのよう深い味わいに。そんな通の間では人気の「後期モデル」は、我々にも当然、美味しい車なのだ。上に戻る
籠島康弘=文