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黎明期のひとつの解が、レンジ・エクステンダー

「十分対抗できる」としたが、それはバッテリーのみ搭載するBMW i3の話。当初から用意されている「レンジ・エクステンダー装備車」であれば、さらに約100km走行距離が延びる。
充電ゼロからでも約100kmあれば、たいてい最寄りの充電施設までたどり着くことができるし、高速道路のSA/PAの充電設備が別の電気自動車で“渋滞”していれば、「もうひとつ先のSA/PAまで行ってみようか」ということもできる。
シフトギアならぬ“シフト切り替えスイッチ”はステアリングホイールから生えている。ダッシュボードを覆う木目はユーカリの木。シート生地はペットボトルから再生したポリエステルが一部利用されている。
最悪最寄りに充電設備がなくても、ガソリンスタンドがあれば、レンジ・エクステンダー用に給油して再び約100km走る事が可能だ。
つまり、ほかの電気自動車と比べて「途中で電欠になって止まってしまう」という不安がグッと抑えられるのだ。
実はこの「不安を抑えられる」という心理的要素が、冒頭に挙げたさまざまな課題が残る電気自動車の黎明期において、とても重要なのだ。
電気自動車(フィアット「パンダ」に三菱「i-MiEV」のパワートレインを移植した改造車)に乗る筆者としては、バッテリーのメーターの残量が減るのは、ガソリンの残量が減るのより恐怖を感じる。
乗車定員は4人。後席も十分広いが、観音開きのドアのため後席から降りようとすると、先に前席の人に降りてもらってから後席ドアを開けてもらう必要がある。
電気自動車でバッテリー残量が1/4まで減るとそわそわする。一方でガソリンが1/4まで減ったとしても、そこまで怖くない。経験上あとどれくらい走れるか、頭の中でシミュレーションする余裕がある。
だいたい、ガソリンスタンドというのは高速道路なら50km間隔を目安に設置されていることも知っているし、最悪降りたらたいていインターチェンジ近くにある。
筆者の電気自動車も、1年も乗り続ければ上記のような不安が薄らいでいく。あとどれくらい走れるか、どこに充電設備があるかに関して、経験が積まれていくからだ。
とはいえ、たかが1年の経験だから、「万が一」への恐怖心は、免許を取って以来数十年乗り続けているガソリン車とはやはりわけが違う。それに不安が解消されても、充電時間や充電待ちといった課題が解決されるわけでもない。
衝突被害軽減ブレーキや渋滞時対応のアダプティブクルーズコントロールなど先進安全運転支援機能も備わる。
というわけで、ガソリンを給油して発電し、電気自動車として走れる「レンジ・エクステンダー」。直訳すると「距離延伸機」。
走行距離を伸ばせる、充電設備がなくても走れるといった実用メリットだけでなく、何とかなるという心理的な安心感ももたらせてくれる。ところが2020年登場の電気自動車に、レンジ・エクステンダーを備えるモデルはない。
さらに電気自動車を作るメーカーとしても、初めての市販車となれば、想定外のことが起こってもおかしくないのだが、その点BMWには一日ならぬ6年の長がある。
2020年12月に、BMWは新しいSUVタイプの電気自動車「iX」の予約注文の受付を開始した。納車は2021年秋以降が予定されている。おそらくiXが登場する前に、BMW i3はその役目を終えるのであろう。
レンジ・エクステンダー搭載車が今後も登場するのか定かではないが、熟成したBMW i3のレンジ・エクステンダー装備車は、現状の電気自動車の中でも特別な魅力を放つ1台だと言えるはずだ。
「味わい深い、熟成車」とは……
ひとつの車種でも、マイナーチェンジはもちろん、実は毎年のように小さな改良が施されている車は多い。ひとつのモデルの後期ともなるとその“熟成”はかなり進んで、ワインのよう深い味わいに。そんな通の間では人気の「後期モデル」は、我々にも当然、美味しい車なのだ。上に戻る
籠島康弘=文


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