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OCEANS Fashion X Talk
アメ車&旧車に魅了されて、カルフォルニアカルチャーにのめり込んで行った約2年前のある日。先輩が何台か持っていた愛車の1台を指さして「これ、乗らない?」と言ってきた。それがAMC・イーグルワゴンだった。
初めて見た車。聞いたこともない車名。だから他人とカブる心配もない。「シュッとしていて、ランクル60やチェロキーよりひと回り小さいサイズ感も、そのときの気分にピッタリ。すごくカッコいい!」とふたつ返事で譲ってもらった。
同時に「すごく壊れそうだなぁ、とも思いました。なにしろランクル60とほぼ同じ年式なのにパワステやパワーウインドウが付いていて、オートマ車。当時の高級車にしかなかった豪華な装備がそのまま載ってるなんて、壊れるに決まってると」。
予想通り、先輩から譲り受けてからの最初の1年間は「1カ月に1回はJAFを呼び、2カ月に1回は修理工場へ」だったという。「今じゃ家の近くのJAFの人とは顔見知りです(笑)」。
当時付き合っていた(先日結婚した)彼女は「僕と同じで、アメ車も旧車も好き。イーグルワゴンも一発で気に入ってくれました。彼女はオートマ車しか運転できないから『イーグルワゴンなら私も運転できる!』と喜んでいましたが……」。一緒に出かけた先で、壊れることはしょっちゅう。彼女に貸したら数時間後に電話が鳴って「道の途中でエンジンとまったんだけど!」と怒られたこともあった。
「旧車は乗り手が変わると故障しやすいって言われてますよね。アクセルの開け方だとか、セルの回し方だとかが変わると。車がなかなか自分を受け入れてくれないというか。ランクル60のときも最初の3カ月くらいは大変でしたよ。まあ、コイツは1年間、僕を拒否し続けましたけど(笑)」。ようやく2年目から、絶好調になった。
その一方で、サーフィンとの関わりは住む場所も仕事も変えていった。ランクル60の頃にはもう湘南エリアに移り住み、現在の由比ガ浜には約2年前に引っ越してきた。
海辺を一緒に散歩してくれる2匹の愛犬も家族に加わった。「カルフォルニアにもプライベートで2回行きました。そこで今勤めるキャプテンズヘルムとも出合ったんです」。日本にキャプテンズヘルムのショップができてからは通うようになり、やがて声をかけられて、現職にも繋がる。
カリフォルニアのキャプテンズヘルムがあるオーシャンサイド地区は、「サビだらけの古い車のルーフに重いロングボードを無造作に載せて、荷物をバンバン積んで、海から上がったらウェットのままシートに座るというのが当たり前」だという。「ボードも道具も几帳面に積む日本人とは真逆で、ラフでヌケてる感じというか。良い意味で雑に楽しんでる感じがすごくいいなぁと思ったんですよ」。
トヨタ・プリウスほどのサイズしかないイーグルワゴンでは、ロングボードは車内に入らず、屋根に積むしかない。日高さんの座る運転席の本革の座面は破れたままだし、ラジオは壊れたのでBluetoothスピーカーを載せてスマホで音楽を聴く。リアのハッチゲートもよく壊れて今はハッチが開けられない。
そんな愛車で由比ガ浜から東京へと毎日出勤しているのだ。
「イーグルワゴンはいわゆるヴィンテージカーの部類かもしれませんが、やっぱり車の使い方も、カリフォルニアで見たみたいに、雑というか、あくまで日常使いの道具として乗りたいんですよね」。
見せ物や飾りではないし、セカンドカーという考え方もない。毎日乗って、できる修理は自分でやる。「コイツに乗るためには多少の覚悟と、故障に対応するための予算も必要です(笑)。しかもちゃんと使って、よく理解してあげないと乗れない車。でも、『も〜、また故障かよ!』って言いながら、気を遣わずに毎日普通に乗るのが、やっぱり車とのいい関係だと思うんです」。
サーフィンに出合い、カルフォルニアカルチャーに導かれるように歩み続けて「行き着いた先がイーグルワゴン」。そう言い切れる愛車に巡り会えた。海沿いに住むようになり、自分の感覚や感性をそのまま職業にすることもできた。「だからサーフィンにもこの車にも感謝しかないですよ」。
故障したら文句を言ったり、言われたりしながらも、気負わず毎日乗り続ける。そんな最新の車にはない付き合い方ができるイーグルワゴンは、日高さんの思い描く理想のライフスタイルを、リアルに乗せて、走っているのだ。
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