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2026.10.14

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山形のモノ作りを巡るクラフト&フード紀行。「天童木工」を筆頭に、酒造や料理宿も


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「NIPPON CRAFT QUEST」とは……
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受け継がれる技と営みを手がかりに、その土地の輪郭を探る本連載。今回訪ねたのは、夏の山形だ。

世界のカシオを支えるマザー工場「山形カシオ」に続き、ここでは家具に料理、そして酒の職人たちをインタビュー。ジャンルは違っても、ものを作り、選び、伝える仕事には、土地と人の積み重ねが刻まれていた。

「天童木工」
あの曲線は、いかに生まれるのか

幾重もの工程を経て完成したバタフライスツール。ローズウッドは、発表時から続くオリジナルの仕様。「S-0521RW-ST」8万2500円/天童木工 東京ショールーム&ストア 0120-24-0401

幾重もの工程を経て完成したバタフライスツール。ローズウッドは、発表時から続くオリジナルの仕様。「S-0521RW-ST」8万2500円/天童木工 東京ショールーム&ストア 0120-24-0401


山形県天童市。人口約6万人のこの街の名を世界に知らしめたのが「天童木工」だ。柳宗理がデザインしたバタフライスツールは、同社の代名詞であり、マスターピース。70年前の作品とは思えないほど、その輪郭は今も鮮やかだ。
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2枚の合板が蝶の羽のように広がる、軽やかで力強い曲線は、いかにして形づくられるのか。天童市内の工場で、その製造工程を追った。

天童木工の始まりは1940年、地元の職人たちが結成した木工組合だった。戦前からデザイナー・剣持勇と関わり、戦後は洋家具作りへ。47年には成形合板の研究を始め、試行錯誤を重ねた。やがて建築家やデザイナーとの協働も広がり、56年、柳宗理のバタフライスツールが、ここ天童で生まれた。

天童木工の始まりは1940年、地元の職人たちが結成した木工組合だった。戦前からデザイナー・剣持勇と関わり、戦後は洋家具作りへ。47年には成形合板の研究を始め、試行錯誤を重ねた。やがて建築家やデザイナーとの協働も広がり、56年、柳宗理のバタフライスツールが、ここ天童で生まれた。


工場を訪れてまず目に留まったのは、隅々まで整えられた仕事場だった。木工の現場につきもののおがくずや木片はほとんど見当たらない。持ち場を離れる際には、周囲をきれいにすることが徹底されているという。整然とした仕事場からも、ものづくりに向き合う姿勢が伝わってくる。

表裏に貼るローズウッドの突板。木目が左右対称に現れるよう、使う部分を見極める。

表裏に貼るローズウッドの突板。木目が左右対称に現れるよう、使う部分を見極める。


「天童木工」が長年磨き上げてきた成形合板は、板を重ね、型を使ってさまざまな形に成形する技術だ。材料は、丸太を大根の桂むきのようにスライスした、約1mm厚の板。

単板と呼ばれるこの板を重ねることで、無垢材では難しい複雑な形状と強度を両立できる。バタフライスツールは、ブナの単板を芯材とし、表面に突板を貼った構造。一枚一枚に接着剤を塗り、計9枚を重ね合わせていく。

頼りなくしなるほどの薄さにスライスされた単板。その厚みは1㎜ほど。

頼りなくしなるほどの薄さにスライスされた単板。その厚みは1㎜ほど。


その束を金型に仕込むと、いよいよあの曲線を生み出す工程に入る。一台のプレス機で成形するのは、一脚分となる左右2枚のパーツ。それぞれ左右に広がるだけでなく、前後にも曲がり、さらにねじれを含む三次元の形状だ。

成形合板の製品には、幅広くプレスした板から同じ部材を複数切り出すものもある。いわば、一度の成形から何脚分もの部材をまとめて取ることができる。ところがバタフライスツールは、その複雑な形状ゆえ、こうした方法がとれない。

左右のパーツを金型に仕込み、2枚を同時にプレスする。量産される家具でありながら、成形の工程は一脚単位だ。形の複雑さが、そのまま工程のあり方に表れている。

昭和期から稼働するプレス機。部品の確保が難しく、修理にも苦労が伴うという。

昭和期から稼働するプレス機。部品の確保が難しく、修理にも苦労が伴うという。


プレス機が並ぶ現場は、工場のなかでもひと際暑い。冬でも暖かいほどの熱がこもるという。この熱と圧力によって重ねた板を一体化させ、金型の形を定着させていく。とはいえ、温度と圧力を一定にすれば、いつでも同じように仕上がるわけではない。十分に乾燥させた単板でも、残る水分によって“狂い”と呼ばれる変形が起きる。

夏場には、暑さでプレス前に接着剤が固まり始めることもある。「接着剤の配合は、その日の天候に合わせて変えています」と、プレスを担当する職人。同じ材料、同じ金型を使っていても、木の乾き具合や気候によって条件は変わる。そうしたわずかな違いを一つひとつ見極めながら、毎回同じ曲面へと仕上げていく。

成形後、余分な端部を落とし、断面を整える。数種類のサンドペーパーを使い分け、指先で滑らかさを確かめながら磨き上げる。

成形後、余分な端部を落とし、断面を整える。数種類のサンドペーパーを使い分け、指先で滑らかさを確かめながら磨き上げる。




完成したバタフライスツールを前にすると、無駄を削ぎ落としたその端正な佇まいに改めて驚かされる。プレスを終えたあとも、余分な端部を落として木口を整え、塗装を施し、左右を組み合わせ、ようやく一脚が仕上がる。

2枚の合板が蝶の羽のように広がる、簡潔な構成。その姿から、単板一枚一枚に接着剤を塗り、一脚分ずつ型へ収める作業や、その日の木に合わせた調整までを想像するのは難しい。その過程をたどったあとでは、見慣れていたはずの椅子が、どこか違って見える。1956年の発表から70年。バタフライスツールは、今も天童で作られている。
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