「酒屋源八」
酒どころ山形で、何を選ぶのか
国道287号線沿いに立つ「酒屋源八」。木板張りの外壁とその屋号からか、蕎麦屋に間違われることもあるとか。
山形県河北町で約100年続く酒屋に生まれた日下部昌樹氏。もともと家業を継ぐつもりはなかったという。転機になったのは、東京でワインを学んだこと。酒への関心を深めるうちに、自分が本当に売りたい酒を考え始めた。
店主の日下部氏。ブログ「店主の晩酌劇場」では、気になる酒の感想を率直な言葉で綴る。次の一本を選ぶ参考として読む酒好きもいる。
そして2004年、実家の隣に「酒屋源八」をオープン。その背中を押したのが、蔵元を訪ねて相談するなかでかけられた「自分で店をやるなら、酒を卸してもいい」という言葉。量販店には流さない酒を託してくれる造り手がいたからこそ、店を持つ意味を見いだせた。
20℃を目安に保たれた店内には、日常的に楽しめる酒やワインが並ぶ。
山形は、全国の蔵元も目標にする酒どころ。良質な酒が日常のすぐそばにある。後発の店が地元の銘醸酒を並べるだけでは、他店と変わらない。そこで目を向けたのが、燗で味わいを深める熟成酒や、当時はまだ馴染みの薄かったナチュラルワインだった。
日本酒を0~3℃で管理するセラー。熟成を見据えて寝かせる酒も置く。
主に海外のナチュラルワインを収める、15℃設定のセラー。「新しいボトルが入ってきたら、真っ先に試したくなる」と日下部氏が語るのが、チェコやセルビアなど中東欧のワイン。
山形の酒を求める声もあったが、日下部氏が大切にしたのは、足を運んでもらう理由をつくること。ここでしか買えないものを探し続けた。
だから、造り手のもとへ足を運ぶ。顔を合わせ、畑や仕込みの現場を知る。どんな場所で、誰が、どのように造っているのか。そこで交わした言葉や、造り手の想いまで店に持ち帰る。
常温より少し涼しい店内で出番を待つのが、Dropの微発泡ワイン「Dormance 2025」(2700円)。かみのやま温泉街に構える、ワインスタンド併設の小さなワイナリーから届いた一本。
そうして時間をかけて関係を築き、まだ広く知られていない酒も扱ってきた。酒の個性に合わせて保管温度まで変える3つのセラーも、そんな姿勢の延長にある。
久米桜酒造の日本酒「カルシス」(3280円)。カルピスを思わせる甘酸っぱさに、吹き出し注意というほどの強い発泡性。名も味わいもひと筋縄ではいかない。
ハンガリーのBencze Birtokによる白「Pinot Gris 2022」(6570円)。
「自分は物を作れる人間ではない」と日下部氏。だからこそ、何を選ぶかが仕事になる。創業から20年余り、造り手のもとへ通い、一本ずつ見極め、飲み手に伝えてきた。
最初は「なぜ山形の酒を置かないのか」と問われた店も、今では県外から人が訪れる場所になった。その歩みこそ、この店の価値を物語っている。
酒だけでなく、調味料や食材も日下部氏の目で選ぶ。自ら使い、気に入ったものだけが棚に残る。玄米酢「ヤンベの精酢」や唐辛子「なんばん粉」など、土地の味もさりげなく並ぶ。
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