「出羽屋」
山の恵みをつなぐ、料理宿の仕事

山形県西川町、月山のふもとで100年近く続く「出羽屋」は、出羽三山を目指す行者を迎える宿坊として始まった。今では、山菜やきのこ、川魚など、山の恵みを提供する料理宿として、土地の食文化を伝える。
四代目・佐藤治樹氏が立つカウンターでは、目の前で料理を仕立てながら、食材の背景にある山の風土を語る。一皿を味わうことは、この地の自然や、山とともに暮らしてきた人々の営みに触れることでもある。
一日一組のシェフズテーブルでゲストを迎える一室。カウンター奥に立つのが、佐藤氏。
豪雪の山あいでは、山菜やきのこを採り、アクを抜き、乾燥や塩漬けで保存することは、冬を越すための知恵だった。雪に閉ざされる冬を生きるために、人々は身近な山の恵みを活かす方法を工夫し、その知恵を祖父母から親へ、親から子へと紡いできた。佐藤氏が料理を通して伝えようとしているのは、そうした土地の暮らしから生まれた文化そのものだ。
天然きのこを使った10品が並ぶ前菜。そこに合わせる酒は日本酒のほか、ナチュラルワインも。果実の酸が山の味わいにフックを作り、余韻を引き出すという。
その文化に欠かせないのが、季節や天候の変化を読みながら採り頃を見極める採り手(とりて)たちの存在。「出羽屋」は、彼らが生業を続けられるよう、収穫したものをすべて引き受けている。
さらに、届いた山菜やきのこの状態を伝え、その見極めに役立つ情報を採り手へ返している。若い世代も加わり、現在は20代から70代まで約10人が山に入る。食材だけでなく、それを採る人と技術まで次へつなぐ。その仕組みもまた、山の食文化を支えている。
この日、山から届いた食材。大きな傘をもつヤマドリタケをはじめ、アケビやホウキタケなど、色も形も実にさまざま。野趣に富んだその姿からも、山の食材の豊かさが伝わってくる。
土地の水、山の食材、人々の知恵。そこに山の食と響き合うナチュラルワインを重ねる。都市で各地から食材を集めるのとは違い、その土地にあるものを、その土地の水で料理することに意味がある。受け継いだ知恵を今の料理として差し出し、背景まで伝える。「出羽屋」の一皿の向こうに、山の営みや採り手の仕事が見えてくる。
OCEANS11月「デニムは、人だ。」号から抜粋。さらに読むなら本誌をチェック!