「プロを頼ること」介護は線ではなく点でいい

約10年にわたり母親の在宅介護を経験した、作家・エッセイストの阿川佐和子さんからかけられた言葉を、ハリーさんは引き合いに出した。
「阿川佐和子さんとお話しした時、彼女が『介護は線じゃなくて点でいいのよ』とおっしゃったんです。
ずっと繋がりっぱなしの『線』の介護だと、ある限界点を超えた時に共倒れになってしまう。『点』で向き合えばその瞬間だけに集中できるから、介護する側もされる側も心に余裕が持てて、『ありがとう』と言い合える。
本当にその通りなんです。そして『点の介護』を実現するためには、どうしても周囲の力が必要になる。僕らはそれを知りませんでした」。
在宅介護が限界を迎えていた2014年、ハリーさん一家は「負のスパイラル」から抜け出すため、第三者を頼る決断を下す。そのきっかけを作ったのは、ケアマネジャーをはじめとする介護のプロたちの介入だった。

「要介護認定を受けると、ケアマネジャーの方が定期的に巡回してくれますが、その方が家を訪問してくれた際に父の様子や家庭の空気を察して、僕に声をかけてくれたんです。
『ハリーさん、いまの状態は本当に苦しいと思いますが正直どうですか』って。自分からは弱音を吐けなかったけれど、そう言われた途端、抱え込んでいたものが一気にあふれ出しました。最後まで看取ることを覚悟した在宅介護ですが、その覚悟に縛られれば縛られるほど、お互いを苦しめていたことに気づいたんです」。
そこから特別養護老人ホームのデイケアやショートステイを利用し始め、2014年にはハリーさんも隣のマンションへ移り住んだ。100%抱え込む在宅介護からの脱却。24時間張り詰めた「線」の関係を手放し、濃密に向き合う時間を「点」として重ねていく選択が、家族の尊厳と穏やかな関係性を取り戻す第一歩となったのだ。
プロの介入によって生活に余裕が生まれたことで、父親への向き合い方にも前向きな変化が訪れたという。
「プロの知見や経験に触れることで、体を起こす介助のコツを教わったり、父に合ったリハビリを試す余裕が生まれました。クリームやローリング・ストーンズ、エリック・クラプトンといった大好きな音楽を流すと、父の体が自然とリズムに乗り始める。筋肉をほぐすローションを塗りながら足の指に手を絡めて足首を回転させ、むくみを取っていく。時には外へ連れ出し、日本外国特派員協会の行きつけのカフェでスタッフと言葉を交わすような、豊かな時間も取り戻すことができました」。
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