この時計こそ、“無駄を愛する自分”の名刺代わり

取材にお邪魔したのは、向後さんが20年近く使っているというアトリエ。
これまでに収集してきた、ヴィンテージバイクやヘルメット、玩具やレコード、アートなどなど、種々雑多なものたちが所狭しとひしめく。
屋号「JANEiRO」にちなんだ、バービーの「リオデジャネイロ」コレクションは、全種類を揃えた。
ここに並ぶアイテムについて、ひと言でも話を振ると、何十倍もの情報が返ってくるのだ。「友人からは、“まんま脳みその中だ”と言われています(笑)」
このアトリエでは、ヘアメイクやアートディレクションについて、さまざまな思いを巡らせる向後さん。その際に、現物が目の前にあることが重要なのだそう。
ヴィンテージバイク、ノートン コマンド750は、カウルのパーツをカスタム。「“殺人カム”の入った最強エンジンですが、なぜかブレーキがドラム式(笑)。曲がらない、止まらない、難しいバイクですが、それも愛情を掻き立てますね。このバイクに合わせて、無性にファッションを決めたくなるときがあるんです。その時の腕元は、このロレックスです」
「パフォーマンスを表現するのがヘアメイクの仕事ですから、好奇心が赴くあらゆる物事をインプットすることがとても重要なんです。
でも、脳みその中に収まりきらないことも数多くあります。溜め込むと爆発しちゃう(笑)。そうしたイメージソースとなるアイテムたちを、このアトリエに保管しておく。
外付けのハードディスクみたいなものですね。他人にはガラクタかもしれませんけど、僕にとってはどれも宝物。物を捨てられない言い訳じゃないですよ(笑)」
「出会った時が買い時」というヴィンテージのヘルメット。イギリスのグリフィンというブランドのものが多く揃う。
聞けば、このアトリエのほかに、もう1室、向後さんの収集したアイテムが集まる部屋があるのだとか。
「無駄が好きなんですよ。誰かにとって価値があるとか、そういうことには興味がなくて。面白いことに興味がある。

例えば、このグリーンのベスパ90SSは、スーパースプリントと呼ばれるレースレプリカ。モノコックボディに前傾しやすいよう機能のないダミータンクをつけて、スペアタイヤを縦置きしている。
ハンドルも幅を狭くしてわざわざレースバイクにしちゃった。愛すべき無駄が集約しているんです。けど、そこがいい」

シルバーケース入りのロレックスも同じだという。
「時計界の絶対王者であるロレックスだから、そのままで格好いいのは当然。
大間のマグロがそのままで美味しいのと同じです(笑)。でも、表現者としての承認欲求もありますから、僕ならではの味付けもしたいじゃないですか。
素材だけでもおいしいロレックスをどういうふうにいただくか。これが僕の答え。ただし、さすがにこの時計でアイドルの現場はいけないですね(笑)」
現在、着用するシーンは限定的だそう。年を重ね、自らの仕事ぶりこそが“名刺”となった今だからこそ、それほど出番はないのかもしれない。
それでも、表現者として、“無駄を愛する”男の名刺代わりとしては、存分にその意義をまっとうしていることだろう。愛する無駄に囲まれた向後さんの表情もひときわ明るく見える。