なぜ不動産会社が、勝浦の海に向き合うのか
――不動産会社である東急不動産が、なぜ勝浦の海洋環境や漁業の課題に向き合うことになったのでしょうか。
白倉弘規(以下、白倉):私たちは勝浦で会員制ホテル、ゴルフ場、別荘地を長く営んできました。長いところでは50年ほど、地域に根付いています。ですから今回の取り組みも、「不動産会社として」、そして勝浦で事業を行う「地域事業者として」という思いが強くあります。
東急リゾートタウン勝浦だけでなく、勝浦市全体の魅力を高め、来訪を促すことがゴルフ場の利用や別荘地の価値向上にもつながっていく。地域の困りごとを一緒に解決し、それを観光振興にもつなげられないか。そう考えるなかで、藻場保全を起点としたブルーカーボンの取り組みが見えてきました。
――御社が掲げる「環境先進企業」としての方針ともつながるのでしょうか。
白倉:環境先進企業として、環境への取り組みを単なるCSRの取り組みではなく、地域の資源を活かし、自然環境や地域にとってより良い、持続可能なものにしていきたいと考えています。勝浦でも、海の生態系を守りながら、如何に地域の資源を使って新たな価値を生み出し、事業者だけでなく地域にも還元できるかを地域の皆さんと一緒に考え、取り組んでいます。
東急不動産ウェルネス事業ユニット リゾート事業本部 白倉弘規。
伝える前に成立する構造をつくる、PwCの戦略
ーーPwCコンサルティングは、このプロジェクトでどのような役割を担ったのでしょうか。
田中裕子(以下、田中):もともとは、東急不動産の中期経営計画策定に伴走するところから関わらせていただきました。そのなかで、環境問題に取り組む企業として勝浦を活用した新しいリゾートのあり方を考えたとき、「ネイチャーポジティブなリゾート」という方向性が見えてきました。
大事なのは、環境問題をどう社会に実装し、中長期的に事業価値へと転換していくかです。そのためには、単なる啓発や発信ではなく、“事業として持続する構造”を設計しなければなりません。サステナビリティは、「良いことをしている」と伝えるだけでは、社会にも生活者にも定着しない。重要なのは、何を社会価値として定義し、それをどう可視化し、第三者性をもって評価できる仕組みに落とし込むか。そして、生活者や地域が自然に参加できる体験へと昇華しながら、最終的に事業価値やブランド価値へ接続していくことにあります。私たちは、この一連の設計思想を「サステナビリティブランディング」と呼んでいます。
今回の取り組みでは、東急不動産が主体となって「勝浦市藻場保全対策協議会」を組成し、ドローンやAI解析を用いてブルーカーボンの変化を測定・可視化し、Jブルークレジット認証へと結びつけました。
さらに、「駆除した魚を捨てず、食を通じて循環させる」という「勝浦ブルーバーガー」の物語を重ねることで、環境保全を単なる理念に終わらせず、生活者が自ら関与できる体験へと転換。環境価値の可視化と地域課題の解決、さらに体験価値を有機的に結び合わせることで、社会性とを両立する新たなモデルへと昇華させています。
PwCコンサルティング マネージャー 田中裕子。
――一般的な広告やPRと、サステナビリティブランディングはどこが違うのでしょうか。
田中:広告やPRは、対象とするモノ・コトをどうターゲットに訴求し、アテンションをとるかに重心が置かれることが多いと思います。もちろんそれも大切ですが、サステナビリティブランディングでは、その前段が重要になります。
サステナビリティの発信では、実態と表現の距離が近いことが欠かせません。実装し、測定し、第三者性をもたせ、表示・発信する。この順序が崩れると、いくら表現が魅力的でも信頼にはつながりません。企業が何を目指しているのか。事業としてどう成立させるのか。誰を巻き込み、どのような根拠をもって語るのか。そこまで含めて設計する必要があります。
PwCの特徴は、表現やPRだけでなく、パーパス、事業戦略、環境価値、制度対応、さらには生活者体験までを横断的に設計できる点にあります。環境領域の専門家、戦略コンサルタント、マーケティング人材、データ・開示の専門家が連携しながら伴走することで、“サステナビリティを事業として成立させる構造”まで踏み込める。それが私たちの強みです。
実際、多くの企業では、「開示しても投資家評価につながらない」「環境配慮コストを価格へ転嫁できない」「現場に浸透せず実行が進まない」「専門性が高く社会や顧客に伝わらない」といった“SX推進の壁”に直面しています。PwCのサステナビリティブランディングは、そうした課題を、付加価値化や競争優位性、さらには社内外への浸透という観点から乗り越えていくためのアプローチでもあります。
PwCのサステナビリティブランディング支援では、「事業として成立させる構造」まで踏み込んで支援を行うことを特徴としている
白倉:東急不動産としては、ブルーカーボンに取り組みたいという思いはありましたが、専門的な知見やネットワークが十分にあったわけではありません。PwCコンサルティングには、全体の進め方から協議会設立時のルールメイク、申請書類の表現、人脈の紹介、PR機会の設計まできめ細かく支援していただきました。取り組みを進めるうえでのエンジンになっていただいた感覚があります。
田中:PwCには環境分野で現場を知り尽くした有識者も多く、また社内メンバー間の共創を歓迎するコラボレーションカルチャーが根付いています。本プロジェクトもネイチャーポジティブ・ブルーカーボンの有識メンバーとスピーディーに連携し東急不動産が環境先進企業としてどうリーダーシップを示すか、ステークホルダーを巻き込むかという構造も設計していきました。
3/3