“遠い正義”を、味わえる体験に変える
――環境保全の取り組みを、なぜ「勝浦ブルーバーガー」という食の体験に落とし込んだのでしょうか。
田中:ブルーバーガーは、環境メッセージを伝えるための話題づくりとして生まれたものではありません。まず、勝浦でどのような事業を続けたいのか、地域の課題に企業としてどう向き合うのかを整理し、そのうえで生活者が実際に触れられる形として行き着いたものです。
サステナビリティは専門的で、社内外に伝わりづらい活動になりがちです。それゆえに、環境課題を「分かる・伝わる・使える価値」に翻訳し、事業戦略やブランド戦略と接続する必要がありました。
前提にあったのは、環境保全を“遠い正義”ではなく、“身近な体験”に変えること。そしてローカルを大事にする企業としてのあり方を追求することでした。独特のカッコよさのある勝浦の海を眺め、潮風を感じながら「自分も少し関わっている」と思える接点をつくりたい。そうして導き出されたのが「食」であり、未利用魚を循環させるブルーバーガーです。
――メニュー開発では、どのような工夫があったのでしょうか。
白倉:今回活用しているブダイは、食べられない魚ではありません。ただ、鱗が非常に固く、処理が大変なことや、海藻を食べる植食性魚類は処理によっては臭みが出やすいことから、これまで未利用魚として扱われてきました。その難点を、漁協や地元の食品加工業者の皆さんの協力を得て克服し、おいしく食べられる食材として活用できています。
メニューは最初に4種類ほど試作し、その中から勝浦のソウルフードである「さんが焼き」をベースにしたものと、現場のオペレーション負荷を考えたときにつくりやすい「照り焼き」の2種類を選び、現場でアレンジを加えていきました。
食害による磯焼けの原因となる未利用魚ブダイを「さんが焼き」にしてパティに使用した「勝浦ブルーバーガー」。
田中:体験設計で重視したのは、キャッチーでありながらも、「ちゃんと美味しい」こと。勝浦タンタンメンに続く、新たな地元のソウルフードとして根付くことも目指したいと考えていたからです。そして、この勝浦ブルーバーガーがそもそも「なぜ生まれたのか」を食べていただく方に伝えることでした。全国の人気フィッシュバーガーショップに実際に足を運び、味や見た目、食べやすさ、サイドドリンクまで、東急不動産グループらしい遊び心や先進性、勝浦の実直さやホスピタリティを意識して、一つひとつ落とし込んでいきました。そして、実際に提供する際には「勝浦ブルーバーガー」が生まれた背景を伝えるミニポスターや絵本風のパネルを付近に展示することで、勝浦エリアのブルーカーボン取組啓蒙にもつなげていきました。
行動変容には、理解だけでなく参加しやすさが必要です。バーガーを選び、食べ、展示を回り、小さな海藻をもち帰って育てる。その日常的な流れ全体が、認知変容と行動変容のプロセスだと考えています。
2025年9月に実施した地域イベント。「勝浦ブルーバーガー」のお披露目に合わせ、藻場保全の取り組みを紹介するパネル展示やスタンプラリーも行った。
信頼、共感、経済をつなぐブランドへ
――取り組みを通じて、地域や来訪者の反応にはどのような変化がありましたか。
白倉:9月のイベントに対するアンケートでは、来場者の約8割が活動に関心を示されました。10月上旬からは、ゴルフ場のランチメニューとして数量限定で提供を始めましたが、ゴルフをしない方が「ニュースを見た」「バーガーを食べたい」とレストランに来てくださることもあります。また、来訪者だけでなく、行政や漁協など関係者が一枚岩となって活動を推進するうえでも、ブルーバーガーは有効なツールとして機能していると感じています。
今では、会員制のホテルでもミニバーガーや黒酢あんかけをつくるなど、調理人の創意工夫による未利用魚の価値付けも始まりました。試行錯誤が活発になり、ブルーバーガーが地域課題を共有するコミュニケーションツールとして機能しているのは心強いですね。
――企業ブランドへの影響はどう見ていますか。
白倉:これまで、勝浦の取り組みが環境文脈で語られる機会は限られていましたが、ブルーバーガーの発信以降は、東急不動産の環境先進の文脈と合わせて勝浦を取り上げていただく機会が増えました。この取り組みが、ネイチャーポジティブといった言葉と一緒に取り上げられることで、当社の環境経営に対する姿勢が対外的に印象づけられた結果となっています。テレビCMなど広告媒体を通じて企業ブランドの発信も行っていますが、ブルーバーガーのような分かりやすくキャッチーな発信は、より訴求効果が高いと考えています。
――今後、この取り組みをどのように広げていきたいと考えていますか。
白倉:ブルーカーボン推進と植食性魚類の駆除と活用、ブルーバーガーの安定供給を拡充し、地域事業者として勝浦市の皆さんとwin-winになる環境創出を目指していきます。
そのほか、勝浦と同様に地域に根差しリゾート事業に取り組む長野県の蓼科では、地域材を活用した循環型サイクルの実現を目指す地域共創プロジェクト「蓼科カラマツ」を始動しています。このように、私たちがリゾート運営を行っている地域ごとの課題と向き合い、十分に価値が見出されてこなかったものに新たな価値を与え、地域の魅力向上とネイチャーポジティブな事業を両立させていく。将来的には新たなキャッシュポイントにつなげることも視野にあります。
田中:今回のポイントのひとつは、ブルーバーガーそのものを横展開することではなく、「体験×環境」という考え方にあります。食でも、音楽でも、イベントでも、施設でもよい。環境課題を生活者が触れられる「体験価値」に翻訳できれば、他地域や他事業にも応用できる可能性があります。勝浦の取り組みは、東急不動産ホールディングスグループが掲げる「体感型サステナブルリゾート」の象徴的な一手として位置付けられるのではないでしょうか。
――サステナビリティ経営が求められるなかで、ブランディングの役割はどう変わっていくのでしょうか。
田中:これからのブランディングは、単に「取り組みを伝える」ものではなく、事業そのものを設計する機能をもつようになると思います。特にサステナビリティ領域では、自然資本やカーボンの価値を測れる状態にすること。第三者性のある認証やデータによって信頼できる形にすること。そして、それを生活者の体験にまで翻訳すること。この3つがそろってはじめて、経営として持続可能な取り組みになります。
サステナビリティ部門だけで活動が閉じてしまう、事業部門がビジネスとの接続を見出せない、環境先進企業としての姿勢をどう示せばよいかわからない。そうした課題をもつ企業は少なくありません。
そこで重要になるのが、中期経営計画や事業戦略と接続し、社会価値と事業価値を両立するストーリーを描き、それを体現するモノ・コトまで設計することです。PwCのサステナビリティブランディング支援サービスでは、“伝わりづらい活動”を、自社事業と社会を動かす“意味のある価値”へ変えていくための支援を行っています。翻訳し、構造化し、関係者を巻き込みながら、経営戦略を社会に実装していく。その伴走が、私たちの役割だと考えています。

勝浦ブルーバーガーは、藻場保全という専門的な環境課題を、地域の人や来訪者が手に取り、味わえる体験へと変えた。それは環境を語るだけでなく、社会のなかで動かすための設計でもある。勝浦の海から始まったこの挑戦は、サステナビリティを事業価値へ変えるための一つのモデルケースとなりつつある。
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しらくら・こうき◎東急不動産 ウェルネス事業ユニット リゾート事業本部 リゾート事業部 リゾート事業グループ グループリーダー。リゾート施設の企画・運営をはじめ、地域資源を活用した滞在価値の向上や新たな観光体験の創出に従事。ウェルネスやワーケーション、地域共創を軸に、時代に即したリゾート事業の開発とブランド価値向上を推進している。
たなか・ゆうこ◎PwCコンサルティング マネージャー。九州大学卒業後、メディア関連会社にて法人営業を経験し、その後、大手広告代理店へ。行政、流通、不動産、金融、エンタメ業界など120社以上のマーケティング戦略設計を支援。現職では、企業のサステナビリティ領域に特化し、ブランディング・マーケティング戦略の高度化、新規事業構想を推進。あわせて、コンテンツ開発およびコミュニケーション設計として、国際会議における展示企画、環境PRコンテンツ、TNFDレポート等の対外開示、投資家・ステークホルダー向けコミュニケーションの企画〜実装まで一貫して支援。