
若い頃と同じように鍛えているのに、体が変わりにくくなった——そんな実感を抱き始めている読者は少なくないだろう。
その原因は、筋肉がタンパク質に反応しにくくなる「アナボリック抵抗性」という現象が関係しているかもしれない。いわば“筋肉の老化”とも言えるこの壁に、我々はどう抗えばいいのか。
日本体育大学教授の岡田隆先生に、そのメカニズムと具体的な突破策を教えてもらった。
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すべての写真を見る 話を聞いたのはこの人! 岡田隆(おかだ・たかし)
日本体育大学教授。博士(体育科学)。骨格筋評論家として「バズーカ岡田」の異名で多くのメディアで活躍。自身のYouTubeチャンネルや著書を通じて、科学的エビデンスに基づいた最新のトレーニング・栄養理論を発信し続けている。YouTube「新・バズーカ岡田チャンネル」
「アナボリック抵抗性」の正体
そもそも、筋肉は常に「合成」と「分解」を繰り返している。岡田先生はこの状態を、「穴の空いたバケツに水を汲み続けるようなもの」と表現する。
「合成が分解を上回れば筋肉量は増え、逆なら減っていきます。通常、食事や筋トレが合成を高めるトリガーになりますが、加齢とともにこの合成反応が鈍り、逆に分解が進みやすくなっていきます。これをアナボリック抵抗性といいます」。

一般的にこの現象が顕著になるのは60代以降とされているが、40代、50代からその予兆を感じる場合もあるという。
「年齢を重ねるにつれ、若い頃と同じ量のタンパク質を摂っても、筋肉の合成スイッチが十分に入りにくくなってきます。
研究では、鈍ってしまった合成反応を高めるには、これまで以上に多くのタンパク質が必要になると考えられています。例えば、以前は1食20g程度で十分だった人でも、30g前後まで増やさなければ筋合成のトリガーが引かれにくくなる。これがアナボリック抵抗性の特徴です。
『若い頃と同じように鍛えているのに、筋肉がつきにくくなった』と感じているなら、1回あたりのタンパク質量を以前より意識して増やしてみるのも一つの方法でしょう。
ただ、この量を毎食、肉や魚などの固形物だけで補うのは簡単ではありません。消化への負担も大きくなります。だからこそ、プロテインなどを活用しながら、効率よくタンパク質を摂取することが重要になってくるのです」。
プロテイン選びに欠かせない評価基準「DIAAS」とは?
合成反応が鈍っていく過程で、重要になるのがタンパク質の「質」だ 。岡田先生は、ある評価指標に注目していると言う。
「かつては『アミノ酸スコア』が主な指標でした。これは、食品に含まれるタンパク質の栄養価を示すとともに、体内で作り出せない9種類の『必須アミノ酸』がバランスよく含まれているかを数字で表したものです。
しかし、動物性タンパク質だけでなく、豆や根菜などの多くの食品がアミノ酸スコア100(満点)と評価されるようになり、食品ごとの質を比較することが難しくなってきました」。
そこで、国連食糧農業機関(FAO)なども推奨している評価指標が「DIAAS(消化性必須アミノ酸スコア)」だ。
「DIAASは、体内でどれだけ消化・吸収され、利用されるかまで考慮しているため、より正確にタンパク質の栄養価を評価することができます。この基準で見ると、乳製品由来のプロテイン、つまりホエイやカゼインは優れた数値を示します」。

植物性のソイプロテインも長期的に見れば筋肉量への影響に大きな差はないというデータもあるが、効率を追求するなら動物性、とりわけホエイの優位性は高いようだ。
「ただし、乳糖不耐症があるという方は、乳糖が大幅にカットされた『WPI(ホエイプロテイン・アイソレート)』を選ぶか、植物性タンパク質のソイプロテインを選んでください。
自分の体質やライフスタイルに合うものを継続することこそが、アナボリック抵抗性への最大の対抗策になります」。
筋トレは「量」を増やすより「質」が重要
筋肉を成長させるためには、栄養以外の要素も不可欠だ。
「アナボリック抵抗性を改善するには、タンパク質摂取と筋トレをセットで行うのが大切です。ただ、結果を出そうとして、がむしゃらにトレーニングの量や重量を増やす方向に行くと、いずれ限界が来て怪我のリスクも高まります」。

岡田先生が提唱するのは、トレーニングの「解像度」を上げること。
「筋トレは、ただ関節を曲げ伸ばしするだけの単純な作業ではありません。道具の握り方や座り方、力の込め方などを意識することで、少ない重量でも筋肉の成長を最大限に引き出すことができます。
ですので、筋トレの初心者はもちろん、これまで自己流で続けてきて自信があるという人も、一度プロのトレーナーに習ってみるのも一つの手です。筋トレは、非常に奥が深く、ゴルフのスイングを習うのと同じくらい、プロに習う価値があるものと考えています」。
自分の体を「穴の空いたバケツ」と理解した上で、いかに効率よく、かつ丁寧に満たしていくか。誰にでも起こりうる「アナボリック抵抗性」を、知識とテクニックで賢く乗り越えていこう。