ブレオ社が組んだ日本企業。能登災害復興にもつながった
千葉県長生郡白子町に工房を構えるエランゲ。地域の漁業コミュニティと協力し合いながら廃棄予定の漁網を回収する。この地で分別、裁断、洗浄を行ったのちに、ケミカルリサイクルが可能なパートナー企業へ送られ、ネットプラス素材の元となるペレット(粒子状のナイロン原料)に生まれ変わる。Shota Matsushima=写真 ©2026Patagonia,Inc.
こうした循環の仕組みは、日本にも広がりを見せている。ブレオ社は22年、アメリカ大陸以外では初となるパートナーとして、日本企業「エランゲ」との協業を開始した。
「誰もが海を想う社会を作る」という理念のもと、千葉で漁網回収と再生事業を展開する同社は、全国の漁港を巡りながら廃漁網問題の解決に取り組んできた。その活動は資源回収にとどまらず、地域ごとに異なる課題に向き合いながら関係性を築いていく、地道な積み重ねのうえに成り立っている。
関幸太郎代表がネットプラスの存在を知り、複数回にわたりコンタクトを取ったのがパタゴニア日本支社だった。「私が関代表から直接話を伺ったうえで、両社をつなぐ方法を模索しました。ブレオ社は本社主導の取引が基本のため、日本支社から直接つなぐには時間がかかると判断しました」。
その結果、ブレオ社に投資をしている豊田通商を通じた紹介が実現し、サステナブルエキスポでの対面をきっかけに両社は意気投合。その場でパートナーシップの締結に至った。理念への共感が、国や立場を超えて連携を生んだのである。
協業開始から6年の歳月をかけ、2020年にブレオ社のネットプラスを製品素材として正式に採用。以降、パタゴニアは累計2000t以上の廃漁網の回収とリサイクルを支援し、海へのプラスチック流出を未然に防いできた。Shota Matsushima=写真 ©2026Patagonia,Inc.
素材開発者とサプライチェーンのパートナーが密に連携する体制も整え、25年秋シーズンには200t以上の漁網がパタゴニアのウェアとして世界中の人々に届けられたという。今後もより多くの製品にネットプラスが採用される予定だ。Shota Matsushima=写真 ©2026Patagonia,Inc.
その思想は、日本での取り組みにおいても具体的な形となって表れている。象徴的なのが、24年の能登半島地震を受けて立ち上げられた「ネットプラス・ノト」プロジェクトだ。被害は甚大で、地元の漁師たちは一時的に仕事を失い、先行きが不透明な状況に置かれていた。そうしたなかで、廃漁網の裁断作業を漁業再開までの期間、彼らに仕事として依頼する取り組みが始まったのである。
エランゲは大阪府岸和田市の巻網3船団から約10tもの廃漁網を調達し、石川県漁協の協力のもと作業拠点を確保。パタゴニアは人件費や輸送費の原資を提供する形で参画し、ブレオ社も後押しを行った。
地震発生からわずか2カ月足らずというスピードで実行に至ったこのプロジェクトは、循環の仕組みが地域を支える具体的な実例となった。同時に、環境と社会を結びつける取り組みが、非常時においても機能しうることを示した点でも意義深い。
「災害時の支援はさまざまな形がありますが、私たちは現場の人々にとって役立っていると実感してもらえる支援を大切にしています」。この取り組みが示しているのは、リサイクルの枠を超えた価値である。ネットプラスという素材は、海洋保護にとどまらず、漁業従事者の支援や地域コミュニティの再生、さらには災害復興にもつながる可能性を持っている。
役目を終えた漁網はただのごみではない。適切な仕組みと意思があれば、それは資源となり、人を支え、地域を再生する力になる。環境問題の解決とは単なるごみの削減ではなく、新しい価値を生み出す循環そのものなのだ。
OCEANS6月「What’s Luxury?」号から抜粋。さらに読むなら本誌をチェック!