年齢とともに近づいていったロレックスとの距離感
「僕とロレックスとの関係はけっこう複雑でした。10代の頃から、密かな憧れはあったけれど、自分が着けるには少し照れくさい気がして……。それでも、やっぱり気になる存在。ずっと“友達以上、恋人未満”のような関係でした(笑)」。

だが、スタイリストとして経験を重ね、現場全体をディレクションしたり、アシスタントを指導したりと、自身の立ち位置が変わっていくにつれ、ロレックスの存在は次第に現実味を帯びていったという。
「30代の半ばを過ぎた頃、『今の自分なら、自分らしいロレックスを選べるんじゃないか』と思い、あらためて探し始めたんです」。
時計コレクターの友人にすすめられた「ミルガウス」
キューピットになったのは、機械式時計のコレクターであり、鈴木さんの人柄をよく知る友人だった。
「“肇くんには、これが似合うと思う”と勧められたのが、『ミルガウス』だったんです。ファッション業界には『サブマリーナー』や『エクスプローラー』の愛用者はたくさんいましたが、このモデルを着けている人は、ほとんどいませんでしたね」。

明快な目的から生まれた説得力のあるデザイン
正規店で実物を目にした瞬間、たちまちその魅力に引き込まれたという。当時、「ミルガウス」はホワイトダイヤルとブラックダイヤルがラインナップされていたが、鈴木さんが選んだのは、白文字盤のRef.116400だった。
「もともと、時計で色を足すなら、スポーティなブラックよりもクリーンな白ダイヤルのほうがいいと思っていました。それに『ミルガウス』は、ラボでの使用を想定して生まれた時計。そう考えると、白がいちばん本来のイメージに近いと感じたんです」。
時計の成り立ちは鈴木さんの感性に響いた。「ミルガウス」は1956年、発電所や研究所など強い磁場の中で働く科学者や技術者のために開発された耐磁時計である。機械式時計にとって磁気は精度を狂わせる大敵だが、このモデルは1000ガウスという、当時としては異例の耐磁性能を実現していた。

モデル名は耐磁性能に由来。ガウス(Gauss)は磁気の強さを示す単位、ミル(Mil)は「1000」を意味する。つまりミルガウスとは、1000ガウスもの強い磁気に耐えられる時計、という意味だ。
「正直、耐磁性って普通に生活している分には意識しない機能じゃないですか。でも、だからこそ、目的がはっきりした時計だと感じたんです」。
「ミルガウスの最大の特徴といえば、なんといっても秒針でしょう。磁気を象徴する稲妻型の秒針は、形だけでなく、ビビッドなオレンジがスポーティなアクセントになっています。しかも白いダイヤルだから、秒針とインデックスのオレンジが鮮やかに映えるんです」
「これほど自分らしいロレックスは他にない」
独立して8年目となる2013年、鈴木さんは「ミルガウス」と結ばれた。

「スタイリングも万能ですよ。クリーンな白ダイヤルはスーツやきれいめな服にも合うし、ワークやミリタリーテイストな着こなしにもサラッと合わせられる。そこに“トロピカルマンゴー”と呼ばれるカラーが効果的なアクセントをきかせます」。
名刺代わりの腕時計としても、その存在感は十分だ。
「時計が好きな人には、ほぼ確実に気づかれますね。チラチラ何度も手元を見て、“それ、もしかして?”って。『初めて実物を見た』と言われることもしばしばで、会うたびに『そろそろ譲ってくれないか?』なんて言ってくる人も(笑)」
かくいう筆者も、本企画の打ち合わせで、「珍しいロレックスを持っているファッション業界人」という話題が出た際、真っ先に鈴木さんの顔と「ミルガウス」が脳裏に浮かんだ。
◇
「僕は時計に執着がないタイプで、これまで持っていた時計のほとんどは手放してきました。娘も時計にはあまり興味がなさそうですし、誰かに受け継ごうという気持ちも特にない。
……でも、この一本だけは、今のところ手放すつもりはありません。ロレックスなのに、決して王道じゃない。でも中身は、しっかりロレックスらしい。そんなところが、僕にはすごくしっくりくるんですよね」。