ユーティリティ由来のものづくり

新生チーニーのアドバルーンとして打ち上げたのが、10年にローンチしたインペリアルコレクションだ。フィドルバック、ヒドゥンチャネル、半カラス仕上げ。往年のビスポークシューズの仕様を蘇らせたそのコレクションは工場の地力を見せつけるのに十分なものだった。ほどなく、錚々たるブランドからOEM生産のオファーが舞い込んだ。
そうして完成させたのが、オーセンティックなラウンドシェイプの125コレクション、スクエアシェイプの6184 コレクション、モダンな1886コレクション、そしてカントリーコレクション――という座組みだ。

注目したいのは、リブランディングにあたって新たに削られた木型もあるが、終始一貫、ヘリテージへのオマージュが感じられる点である。実際、125ラストはオールド・チーニーを代表する2003ラストのトウシェイプを引き継いでいるし、「ケンゴン」の4436ラストにいたってはかれこれ80年前に生まれた当時の姿をいまも守っている。 かつては英国軍にも制式採用されていた。

「ジョセフ チーニーの靴はユーティリティということなんだと思います。そこにはギアとしての性能と同時にいつでも買える安心感が求められる。紳士靴の要である木型をころころ変えるわけにはいかないのです」(執行役員、小林貴光さん)
ユーティリティをベースとした、ミニマムなデザインワーク――。モダン・クラシックのもっとも優秀な回答例である。
見逃せないのは、二人はジョセフ チーニーを手中に収めてすぐ、デザインチームを発足している事実だろう。つくり手は出し惜しみなくそのすべてを注ぎたがる。デザインには引き算が必要だ。なにを残し、なにを捨てるか。その判断はデザイナーの得意とするところだ。
ジョセフ チーニーを語るときには、競合他社と比べて一段低い価格設定も忘れてはならない。

「工程数は160にのぼり、木型に入れて寝かす工程を端折るようなこともありません。充填材にはコルクをたっぷり使うなど、材料もよそのブランドと比べてもまったくヒケをとりません。革を一括購入するなどのいわゆる企業努力の賜物だと思います」(小林さん)
正真正銘のメイド・イン・ノーサンプトン。それだけでも価値があるが、全方位的にみて隙がない。希少性という下駄を履かせずとも、ぼくらの足元に収まってしかるべきブランドであり、ケンゴン兄弟はファースト・チーニーに打ってつけである。
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