haruka nakamuraとの必然的な出会い

偶然の出会いを機に、人生のターニングポイントを迎えることが多い。スティーブン・ケン氏との出会いも、TRUCKに来ていたスティーブン氏を、黄瀬さんが”たまたま”声をかけたことから始まった。
黄瀬さんの話には“たまたま”とか“思いつきで”という言葉が頻出する。
ただ、その“たまたま”は、後から振り返ると必然としか思えないことばかり。音楽家のharuka nakamuraさんとの出会いもその一つだ。
S.T,N.E.の家具や家をデザインする時に聴いていたのがharuka nakamuraさんの『still life』。その頃、京都のレストランmonkで偶然出会い、この話をすると彼も長年TRUCKの椅子に座って音楽を作り続けていたと言ってもらえた。
「ハルカくんを聴き始めたのはここ数年。本を作るにあたり文章を書いている時にもよく聴いていました。朝5時から6時間くらい、書いて、少しでもいい感じの光が差し込んでくると写真を撮って、また書いてっていう。小冊子を作るつもりが、最終的には200ページを超える書籍になってしまいました(笑)。
スタイリングから撮影、原稿執筆をすべて一人で行ったのでえらいこっちゃでしたが、とにかく楽しかった。おかげで温度感のある一冊に仕上がっていると思います」。
渾身の書籍「Same TRUCK, New Engine A New Journey; 47 Furniture Stories,16 Reflections」が発売中(6050円)。
音楽と家具が、知らぬ間に相手の制作を支えていたという偶然。これが縁となり、その後、S.T,N.E.の空間で流れる音楽をharuka nakamuraさんが手掛けることになる。
「大阪のS.T,N.E.のショップづくりが佳境に入ったころ、この空間で流れる音楽をハルカくんに作ってほしいとふと思ったんです。ちょっと図々しいかなと思いながらお願いしたんですけど快諾してくれて。しかも3曲も作ってくれたんです。
あとで訊いたら僕が依頼したタイミングが、たまたまスケジュールがぽっかり空いた時期だったみたいで、マネージャーさんとハルカくんから『黄瀬さん持ってますね』って言われました(笑)。こういう経験は本当によくあります」。
今回の展示会場でも、haruka nakamuraさんによるオリジナル曲が流れていた。
家具をつくること、家を建てること、そして新たなレーベルを作ること……。
黄瀬さんにとっては、どれも生活そのものの延長線にある営みだ。好奇心と行動力をガソリンに、拾った木で作り始めた家具で人生を少しずつ形づくってきたように、S.T,N.E.もまた、自然に生まれるべくして生まれたものなのだろう。
S.T,N.E.の家具が、これからどんな人の暮らしに寄り添い、どんな時間を刻んでいくのか。その未来に想像がふくらむのは、黄瀬さんの家具屋としての“ものづくり”が、どこまでも温かいからだ。