「BAD HOP」メンバーの出身地としても知られるエリア
このような川崎の風変わりな街の話をすると、「そう言えば……」と取り沙汰されるのが川崎南部に位置する池上町だ。
住宅街から産業道路を挟んだ狭い場所に家々が密集して立ち並ぶ工業地帯の一角で、現在は474世帯734人が住んでいるとされている。池上町は一帯が大手鉄鋼メーカーである「JFEスチール」の敷地の中である。地図で見るとほとんどが大きな工場で、産業道路にへばりつくように住宅街が形成されているのが分かる。
つまり会社の土地に家を建てて住んでいるのだ。最初に住み始めた人は、在日コリアンの人が多かったという。今はなき京都のウトロ地区や、砂防ダムの中の集落・衣笠開キ町と同じような占拠系の街だ。いわゆる日本の焼き肉の発祥の地、と言われることもある。

ただ、住人は代を重ねながら何十年も生活している人が多く、自分が住んでいるのがどのような土地か知らない人も多いという。今となってはこんなにたくさんのバラックが見られる個性的な街はもうほとんどなくなった。
街を歩いているとどうしたって胸が高まる。今回改めてこの街を歩いてみたが、家自体はかなり古いバラックもあるし、最近建てられたであろうキレイな家もある。廃屋もあるが、まだまだ現役で住んでいる家が多そうだ。歴史のあるアパートも結構たくさんあった。
池上町内にある賃貸アパートがウェブサイトで住人を募集していたので見てみると、二階築44年2DK45㎡で6.2万円だった。外観はなかなか古びた感じだが、室内はリノベーションがしてあった。しかし、キッチンやトイレは古さを感じる作りで、6.2万円は正直、「まあまあな家賃を取るんだな」と感じた。

キレイな家が多いと書いたが、家の並び方はかなり変則的だ。まず家と家の距離が極端に狭い場所が多い。びっくりするくらい狭い道を通らないとたどり着けない場所もある。そしてその路地が縦横無尽に走っているので、すぐに方向感覚が分からなくなる。
池上町はHIPHOPグループ「BAD HOP」のメンバー数人の出身地だということで話題に登ることも多い。つまり「治安は良くない」と言われることが多い。
実際歩いてみると、訪れたのが真夏だったせいもあるかもしれないが、たまに高齢者が歩いているのを見かけるくらいで、通行人は少なかった。落書きはまったく見当たらない。過去にはかなりひどい時期もあったかもしれないが、現在は落ち着いているように見えた。

確かに、池上町はかなり個性的な街だが、その範囲はかなり狭い。池上町のある川崎市川崎区の大半は閑静な住宅街であり、歩いていても何の不安も感じなかった。だから普通の暮らしをする人にとって川崎は、編集者が思うような住みやすい街なのだと思う。ファミリーやカップルで住み始めるのもオススメなのだろう。
ただ、どうしても僕は、街に残っている普通でない部分に魅力を感じてしまうのだ。
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