「4年で1億円が必要な挑戦」に向けた2度目のクラウドファンディング
「脳のコンディションを良くする治療法はあったんです、ブラッドパッチっていうんですけど。でも、それをやったら半年は安静。つまり引退です。だから、その治療をせずに復帰した」。

ブラッドパッチ治療は、自分の血液を脊髄に入れ、脳髄液が漏れている箇所を補う治療法だが、担当医師が勧めた理由は、現役続行のためだけではない。この先の人生で高まる、脳卒中や脳梗塞といったリスクに対しても“すべき”という判断だったが、佐々木はそれを断った。オリンピックのために。そのくらい覚悟は決まっていた。しかし「12月のクリスマスくらいのときに、本当に一瞬、引退かな」と考えた。

「物理的に立っていられない、動けないという状況だったから、さすがに……と。でも、少し考えたら、ネタが増えたなと思って(笑)。だって、あるはずのない道路の穴に自転車で顔から落ちたんですよ。普通はあり得ない。宝くじで高額当選するより確率は低いらしいです(笑)。事故が新しい価値観と挑戦を与えてくれた」。
「思考が行動や身体を引っ張る」と考える佐々木は再び前を向き、新たな賭けに出る。それが、遠征費などを工面するためのクラウドファンディングだ。

佐々木は現役復帰(2022年)の際に1回目のプロジェクトを立ち上げて、1605人の支援者から3440万円のサポートを得た。それは海外遠征費、オーバーウェイト費、国内外における行動活動費、そしてスキーテストによるマテリアル費など、さまざまな費用に充てられた。

2回目は、ファイナルシーズンを戦い抜き、オリンピック出場するための資金とパワーを集めるためのプロジェクトだ。支援してくれた方たちを佐々木は“TEAM AKIRA”と呼んでおり、最後の年もTEAM AKIRAのみんなと戦いたかった。

「プロジェクトを立ち上げたのは2025年2月1日。その時点で世界ランキングは244位。日本代表の強化指定選手に入らない限り、いただいたサポートは数カ月で終了してしまう。でも、待っている時間はない。だから“強化指定選手になる前提”でプロジェクトを進める賭けに出ました」。

世界トップクラスのアルペンスキーヤーが4年で必要とする経費は1億円ともいわれる。決して安くない挑戦のために佐々木は2度のクラウドファンディングを立ち上げ、5000万円超の支援を集める。そして、先ほどの“賭け”に勝つために行動する。

「ノーポイント・ノーランキングから始まった俺の挑戦なんて、9.9割の人が無理だろって。でも、9.9割の人が無理っていうことを現実にするのが挑戦だっていう定義付けをしてやってきた。クラファンも、言っちまったらやるしかない。いろいろ仕組みの問題もあるけど、やるしかない」。
5/5